No sound friend(1)

ディセプティコンがオートボットと和解した。人間とも協定を結び、今現在大人しく国の傘下で過ごす彼らだが、正直なまえにとってディセプティコンは恐ろしい存在でしかなかった。
だからディセプティコンの居る部署や倉庫には近づかないようにしていたし、そちらに関係ある仕事も全て他人に押し付けたり、強硬手段として仕事から逃げ回っていた始末だ。何だって連中の中に自ら特攻しなければならないのか、それが彼女は不満でありそして恐怖でもあった。

しかし彼だけは違った。

いつものように私は皆が現場に出払っている中で独り、データの収集をしてはまとめて、彼らに関する情報が世間に出回らないように配慮をする。つまりPCに投稿された彼らの姿を捉えた映像や、情報をさっと書き換えてやるのだ。
事務的であるようで、そうでも無い。結構ネットの世界で戦っていると言える。しかもまたこれが体力を削るのだ。だから集中力も必要だし、誰もやりたがらない。それが私の仕事。

「………≪なまえ≫」
「あら、いらっしゃい。サウンド」


静かに聞こえたその声は、上司の声だけれど上司が発した声では無い。いつの間に室内に入り込んでいたのだろうか、声の方に振り返ればこれまたいつものように"彼"が居た。
ふう、と息を吐いて作業を中断する。

「丁度皆出払てって退屈してたの。コーヒーでも飲む?」
「………」
「冗談よ」

笑って前言撤回を語れば、首を傾げるその彼の姿は実に滑稽だ。あまり何も"話さない"から余計に。その名に似合わず彼は無口だ。他のトランスフォーマー達とは大違いである。だから余計に恐怖を抱かなかったのかもしれない。
冗談交じりに笑う私の顔をそのバイザーの奥から見つめながらも彼はスルスルと此方に自身のケーブルを伸ばす。伸びて来たそのケーブルの先に器用に摘ままれたUSBを見て、私はまた笑った。

「ん。いつもご苦労さま。貴方ぐらいよ、こんなに働いてくれてるの」

何も言わずに差し出されたそのUSBをそっと受け取る。他のディセプティコンだったら絶対に出来ない事だろう。彼も彼なりに此方に気を使って慎重に渡してくるからそれもまた余計に面白い。
受け取ったUSBを別のPCに繋ぐ。USBの中の情報を人間のPCにアップデータするのにはそれなりに時間が掛かるからだ。彼は私と同じく情報収集や情報隠蔽を仕事としている。だから時にはこうやってUSBやらメモリーと使って互いに情報交換を行っているのだ。

「………」
「はいはい、ちょっと待って。今これだけ終わらせちゃうから。隣のPC電源入れといて」

静かに歩み寄ってきた彼の細い指が、私のすぐ横を横切ってPC画面の片隅に映っている一つのアイコンを指差して主張する。
オンラインで対戦の出来るゲームアプリのアイコンだ。
彼は私の言う通り、大人しく自分から伸ばしたケーブルを接続して隣の別のPCの電源を入れる。一種のハッキングのようだけれど、この方が彼にとって手っ取り早いようだし私はいつも何も言わない。仕事の区切りが良い所で少し休憩がてらにとPCの画面を切り替える。

「今日はこれで勝負ね」
「………」

対戦相手を選んで開始ボタンを押せば、いつもの2人の世界が広がる。
…そもそも、ディセプティコンに抵抗のあった私がどうしてそのディセプティコンの彼と此処まで仲良くなっているのかと言えば、このネット上で知り合ったのがきっかけだった。
仕事の息抜きに開いたゲームサイトで偶々PC内でランダムに対戦相手として選ばれたのが彼だった。でもどうして彼だと判明したのかというと、態々私のPCにハッキングしてチャットで知らせて来たのだ。

「覚えが早いのね、サウンド。あっという間にランキングも一位に…」
「……≪なまえのお陰だな!≫」
「フフ、ありがと」

それを知ってかなり驚いたのを覚えている。でも、お互いに部署も違うし直に逢う事も無いままだった。だから彼には拒否反応は出なかった。画面上の付き合いなら、何とかなると思っていたからだ。
なのに、出逢いはいきなりだった。上司の指示でオートボットの部署に資料と報告をしに向かっていた途中の事である。彼が居た。声が出なかった。彼も声を上げなかった。でも彼が何をしてくるでも無く、私も何をしなければならないという頭も無かったので、互いに互いの顔を見つめ合ったままの数秒が流れた。
不思議だった。ディセプティコンなら、遠目に見ただけで拒否反応として足が震え出し貧血のように倒れ込みそうになるのに、彼にはその症状が出なかった。だから自然と彼に会釈していた。すると彼も会釈した。傍から見れば、奇妙な光景でしかなかっただろうが私たちにとってコレが本当の出会いだった。

「(未だに謎が多いけど、悪い奴じゃないのがまた…)」

それ以来だ。直に逢って情報交換を行うようになり、こうして休憩時間にはゲームで対戦して遊ぶのが日課に近いものになっているのは。嗚呼、こんな日々がずっと続けば良いのに。ディセプティコンの皆が彼みたいなら良かったのに。

「こらお前達!職場のパソコンで何をやってるんだ!!」
「あ、」

その怒声に振り返れば、今度は本当の現場から戻ってきた上司が鬼の形相でこちらを見つめているのを私はしまったという顔で見つめ、サウンドウェーブは上司に気づかれないようにこっそりとPCの画面を仕事画面に戻してくれた。これで叱られずに済みそうだ。


No sound friend
(それは不思議な関係で、とても平和な瞬間)

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