擦り合わせた手がじんわり熱を帯びる。もしかしたらこのまま2人は溶け合っておんなじものになれるかもしれない。でもこの人は死なないから、消えていくのはわたしだけだ。そうして溶けていけたなら、死なない彼の一部になったなら、永遠に一緒にいられる、と、気づいてしまって笑った。

「どうした?」
「溺れてるなあとおもって」
「なにに?」
「ひみつ」

かわいこぶって言うとしかめっ面をされたあと、そっと額にキスをされた。そのまま至近距離で視線が交わって当たり前のように次の瞬間には唇が重なる。ぶっきらぼうな言葉とこの手からは想像もつかないほど優しいキスは、わたしをうっとりさせるには十分なほどの愛があった。ゾンビマンなんて酷い言われようだけど、触れればこんなにも熱くて、溶かされそうになる。何度か角度を変えて交わした口づけは最後に小さく音を立ててからそっと離れる。目の前で見据えてくる暗く澱んだ瞳の中には確かな欲が灯っていて、それが伝染したようにわたしの中にもぽつぽつと目眩がするような熱が灯っていく。

わたし達の間にはもう言葉は何もなく、彼の頬を片手で包んでかたい耳を撫でながら唇を寄せると、応えるように息ごと奪われた。まるで子犬でも撫でるように優しく、大きな手がそっと素肌へ侵入してくる。彼の指先が触れた場所に熱が帯びていって、そこから溶けていっているような感覚だ。このまま溶けてなくならないようにしっかりと首に腕を回し体を寄せる。心臓を捕まえられたらきっと息もできなくなるのに、知ってか知らずかゾンビと呼ばれているのに熱い手はやんわりとわたしの左胸を掴んだ。

「んっ…」
「溺れてるって、もしかして俺にか」
「バレちゃったか…」
「ロマンチストだな」
「だってね、溶けそうになるから」

わたしの服を脱がしながら耳元で先ほどの独り言の答えを言われる。あの言葉の意味が分かるのも中々ロマンチストだ。ばかだな、と言いながらもどこか嬉しそうな声に心臓が反応する。しょうがない、きっともう脳みそも溶けているのだ、あなたの与えるたくさんの熱のせいで。体のそこかしこがちりちりと熱くなってきていよいよ本当に溶ける、とろける。もうすぐあなたの一部になれる。ほんの少し、それは一瞬のことだけど。

「いいよ、溶けちまえ」
「う、ん、」

また唇が重なる。吐息さえ熱をもってわたしの体を奪いにくる。お互いを見つめて何かを探すように必死に舌を重ね合う。

わたしが溶けたら泉になってあなたを奥底に閉じ込めたい。溺れて息もできなくなったらすぐに名前を呼んで。あなたが目を覚ますまで、ずっとキスをしてあげる。2人ぼっちで死ぬまでそれを繰り返して、何度も一緒に死んでほしい。いつかわたしがひとり浮かび上がってこれなくなるその日まで。微かな空気を吸い込みながら目を閉じた。ほら、もうここは2人が溶けた泉の底のよう。



(死なないふたり)
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