「降谷さんていったい何考えてるんでしょうね、普段」
「恐ろしくてあまり考えたくないな」

風見さんはスーツのジャケットを脱いでなにやら入念に確認したあと、バサッと椅子の背もたれに引っ掛けた。話を続けてくれそうなそぶりもなくテキパキと書類を整理し始める。わたしはそんな風見さんを眺めながら、ジャマだろうなと思いつつも話を続けた。

「風見さん、本当に気にならないんですか?」
「何がだ?」
「だって降谷さんて、実は謎が多いじゃないですか。いつもキビキビしてるし」
「…みょうじは少しヘラヘラしすぎだがな」
「す、すいません…」
「冗談だ、冗談。まあ少し、生真面目なところはあるかもな」
「生真面目っていうか、わたし達とは見てるものが少し違うっていうか」
「…常人には、なかなか理解できないところもあるさ」
「…そうじゃなくて、なんかもっと、深くて重いところにいそうっていうか」

わたしがモゴモゴ言っていると風見さんは手を止めてこっちを向いてくれた。仕事をしろとたしなめるでもなく、怒っているわけでもなく、ただ悩ましげな顔で「降谷さんは…」と言葉を探しているようだった。わたしは何か言われる前に話を続けた。

「降谷さんて、すごい人だから。わたしは時々不安になるんです。あの人がいざという時、ちゃんと頼ってもらえるのかなって。信頼してる部下として、背中を預けてくれるのかなって」

それを聞いて、風見さんは苦笑いをした。「みょうじもそんなことを考えるんだな」と、優しく言ってくれた。

降谷さんはすごい人だ。何もかもが、わたしなんかよりも、さらには風見さんよりもずっと色んなことを一人でどうにかできてしまう力を持っている。隣に並ぶなんておこがましいかもしれないけれど、それでも部下として、同じ警察の人間として、同じところに立たせてもらえるのだろうか。いつも持ち歩いている拳銃の重みを思い出してお腹の奥の方がむかむかとした。わたしに持てる力なんて、きっとこんなものくらいしかない。

一方的に話を続けて黙り込んだことを心配してくれたのか、風見さんは「大丈夫か?」と声をかけてくれた。はい、と静かに返事をして大人しく席につく。降谷さんのデスクは今日も戻ってきた形跡はなく、大量に積み上げられた捜査書類でいっぱいになっていた。でもおそらく、あんな書類よりももっとたくさんの、複雑なものをあの人は背負っているんだろう。いつもなにかを必死に守ろうとするから、余計にたくさん。

(わたしだって、一緒に守りたいのに)

ゼロと呼ばれるその手の中に、どうかたくさんの、あなたの大切なものが残っていますように。



(I do not know the scenery next to you.)
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