キン、とわたしの瞳を射抜く太陽の音がした。日差しから逃げるように日傘をふかくさして、足元のまんまるの影を見つめる。雲もなく風も吹かない真っ昼間は夏に支配されていて、このままこの熱気のなかに落ちていってしまいそうだった。

「なまえ?」
「と、どろきくん」
「具合、悪いのか」

前を歩く轟くんが心配そうに振り返る。足どりの遅いわたしのもとへ、2歩、3歩、戻ってきた。日傘のなかを覗きこんできた轟くんの顔はポーカーフェイスといえばポーカーフェイスだったけれど、少し不安そうな顔をしている。「大丈夫」と返すと、少し黙ったあと、「そうか」と覗き込むのをやめた。日傘越しに見える背中を、初めて見る私服だなあ、なんて全然関係ないことを考えながら眺める。

出かけようと言ったのはわたしの方だった。轟くんと付き合ってから色々と忙しくて全然デートができていなくて、思い切って誘ったのだ。この暑さのなか…と思ったけど、轟くんとの久しぶりのデートだと自分を奮い立たせて外に出た。

それなのに。案の定、暑さにやられたわたしは頭がボーッとして、うまく会話もできなくて、汗もだらだらで、暑くて、暑くて、とにかく暑くて最悪な状態にいる。

そんなイライラをまさか轟くんに見せるわけにも行かず、なんとか騙し騙し過ごしていたけれど、それもどうやら限界のようだ。当の彼は少し汗をかいていながらもわたしよりは辛くなさそうで羨ましい。さすが男の子なのか、氷の個性を持ってるからなのかは分からないけど。

「ごめんね、轟くん」
「なにがだ?」
「こんな暑い日に、出かけようとか言って」
「気にするな。それより、ちょっと待っててくれ」
「え?」

その言葉に少し顔を上げて、轟くんを見た。次の瞬間、わたしと轟くんの周りをザァッと氷が囲む。

氷はわたしの後ろで壁のようになって、やがて屋根のようにわたしたちを見下ろし大きな日陰を作った。少しずつ冷気が周りに充満していく。ひんやりとしていて、涼しい。びっくりして日傘をがっちり持ったまま、轟くんを見つめた。

「涼しくなったか?」

かすかな氷の結晶たちが、太陽に照らされてきらきらと光る。そのなかで優しく笑う轟くんは夏と同じくらい眩しくて、直視するだけでさらに体温が上がったような気がした。



(まぶしくて見えない)
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