空に残った電気のかけらがパチパチ光ってまるで星みたいだなと思った。これを生み出した当の本人は全然まったく星なんてガラじゃないけど。

「星って光ってて綺麗に見えるけど実際はただの石コロなんだぜ」
「知ってるよ」
「月なんてボコボコのでかい岩だぞ」
「いや…ほんと、上鳴ってさ…ほんとさ…なんなの?そういうとこだよ」
「え、なんだよ。どういうとこだよ」
「そういうとこだよ」

わたしはハァ〜ッと大きな大きな溜息をついて、寮の前の階段に座りこんだ。上鳴に個性を見せて欲しいと頼んだのがさっき、そして見終わって凹んでいるのが今である。両手で頬杖をついて黙り込んでいると「よっこらせ」と上鳴が隣に座った。

「どうだったよ、俺の新技。超カッケーだろ」
「うん。体育祭の時とは別人のようだよ」
「オイ、それは言うな」
「上鳴でも成長するんだね」
「オイ待てオイ。素直に褒めろ。なんで若干見下してんだ」
「ハァー、上鳴さんやっぱスゲーっすわー!」
「てんめぇ…そういうとこだぞ…マジで…」
「どういうとこだよ上鳴パイセン」
「そういうとこだよ!」

この野郎、と言いつつわたしの様子が可笑しいのを察しているのか上鳴はこっちを煽ってくることはなかった。優しいやつだ。上鳴は同じ中学の同級生で、その頃は特別仲が良いわけでも悪いわけでもない普通の友達だった。雄英に入ってからはクラスは違うものの同じヒーロー科なので中学の時よりはずっと話すようになり、時々こうやって技の練習に付き合ってもらっている。別に上鳴のことを尊敬しているからではなく、わたしと上鳴の個性が同じ電気タイプだから参考にしているだけだ。電気タイプっていうとポケモンみたいだなあ。

「なまえ、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。轟くんがイケメンなのはBクラスでも評判だよ」
「全然聞いてねえじゃねーか!轟の”と”の字も言ってねえよ!」
「じゃあ一体なんなんだよピカチュウ?」
「ピカチュウじゃねえ!サトシのように優しく語りかけんな!お前またポケモンみたいだなとか思ってたんだろ!」
「わぁ〜、良く分かったね〜さっすが上鳴くんだぁ〜」

上鳴はまたこの野郎…と言いたげな顔をして、でも我慢して飲み込んだのか大きな溜息をついている。それからシーンとして上鳴が居心地悪そうにこっちをチラチラしているのを感じながらもわたしはなにも言えないでいた。自分で上鳴に頼んでおいてこの態度は酷いなんてことはちゃんと分かっている。あとで謝ろう。

「…仮免のことだろ」
「え?」
「最近元気ない原因」
「…そんなに、元気なかったかなあ」
「まあ、俺だから気づけたってことはあるかもな」
「どういうことだよ」
「意外にちゃんと見ている上鳴くんってことだよ」
「なにそれ」

思わず笑っちゃうと、上鳴も笑った。どうやら気を使われたらしく、やっぱり優しいなあと思ったので、あとではなく今謝ろう。「ごめんね」と言うと「なんだよ急に」となんでもないみたいに言ってくれた。隣で同じように座り込んで頬杖をついている上鳴を見つめる。中学の時はこんなに近くで彼を見たことはなかった。なんていうか、グループが違ったし、わたしはヒーロー目指してるってガラじゃなかったし、何より上鳴のようにキラキラしていなかった。こんな対等のように話しているけど、本当はわたしなんて全然たいしたことがなくて、でもそれを認めるのは悔しくて、せっかく隣に並べた上鳴から遠ざかりたくなくて、強がっているだけなのだ。

「自信ねえの?」
「…うん」
「なんでだよ。なまえ、俺より頭いいし器用だし、大丈夫だろ」
「上鳴に褒められちゃった…」
「え?何その微妙な反応?褒めたんだけど?」
「なんかね、違うの。そういうことじゃなくてね」
「聞けよ」

ふう、と息を吐いて、わたしは膝の間に顔を半分くらい埋めた。「オイどうした」と心配してくれる上鳴の声が遠のく。沈みかけた夕日のせいでアンニュイになっているからこのまま空気にのまれて泣きそうだ。それはカッコ悪すぎるからさすがに本当に泣いたりはしないけど。それに、うじうじして面倒なわたしに結局ずっと付き合ってくれている上鳴にもそろそろ申し訳なくなってきた。もう寮に戻った方がいいかもしれない。

「ごめんね上鳴」
「だからなんだよさっきから」
「いつもこんな、うじうじしちゃって」
「…いいって別に。なまえだし」
「おんなじ中学のよしみってことで」
「まあそうじゃなくても、いいんだよ別に。なまえだし」
「なにそれ」

またおんなじことを言ってしまった。そしてまたおんなじように思わず笑ってしまう。けど今度は上鳴は笑っていなかった。あれ、どうしたんだろう。やっぱりもう帰りたいのかな。上鳴は後ろに手をついて空を仰いでいる。夕日に照らされている横顔を眺めていたらぱちっと目が合った。

「星ってさ、光ってるけど本当は石コロだろ?」
「それさっきも聞いたよ」
「そうじゃなくて!なんつーの?石コロだけど光ってんだよ」
「哲学…?」
「ちっげーよ。ホントはみんな元々石コロで、誰だって光るチャンスがあるってことだよ。だからなまえも大丈夫だし、俺も大丈夫ってこと」
「…そういうこと?」
「そういうこと」

得意げな顔をする上鳴の言葉にはあまり説得力はなかったけど、彼らしかったので少しだけ元気が出た。上鳴が大丈夫っていうなら大丈夫かな。いや不安だけど。それでもやっぱり多分大丈夫だと思った。大丈夫って言ってくれる人がいるなら自分を信じようと思えた。ありがとう、と言おうとするとそれよりも先に上鳴の言葉に阻まれた。

「あとさ、俺、おんなじ中学のよしみってだけでこんなに練習付き合ったり悩み聞いたりしねえからな」
「え?」
「…ま、そういうこと」
「ど、どういうこと?」

上鳴は真っ直ぐ前を見ていて、その横顔が少し赤く見えるのは夕日のせいなのかそうじゃないのか確かめることはできなかった。ついでに、わたしの心臓がドキドキしているのは夕日のせいにはできないかな。



(My heart was struck by lightning.)
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