「やっぱりさ、同じ学校ってずるくない?」
「じゃあ転校すればいいじゃないですか」
「ムリだよ、進学校だよ?わたしの頭じゃ元々ムリ」
「じゃあなまえ先輩と荒船先輩はそういう運命だったんですよ」
「えええ…じゃあ、やっぱりボーダーで出会ったのはある意味運命ってこと?」
「いや、じゃあとやっぱりの意味がわかんないっす」

隊室と隊室のあいだにある人気のない休憩スペースのソファに並んで座って、俺となまえ先輩は仲良く恋バナをしていた。いや、本当は恋バナなんてそんなだるいことはしたくない。正確に言うと、この人が一方的に勝手に恋バナをしてくるのを、一応後輩だから聞いてあげているだけだ。

「荒船と一番仲いい女子の名前が知りたい…」
「知ってどうするんですか」
「………知るだけ」
「いや絶対ウソじゃないですか。絶対調べるでしょ、絶対インスタとかツイッター調べるでしょ」
「ししししし調べるわけないじゃん!!!!」
「うわあ絶対調べるなこれ…」

分かりやすく動揺しながら「そんなストーカーみたいなことするわけないじゃん!いくらなんでも!」と説得力のない弁明を続けているなまえ先輩。はいはい分かりましたよ、と適当に流すと弁明は余計にヒートアップした。分かりやすいなあこの人。

なまえ先輩は、荒船先輩のことが好きだ。今となってはなんで俺がそれを知ったのかも、なんでこの人が俺にばっかり相談してくるのかも忘れた。それくらいに恒例行事となってしまっている。そんなに好きなら告白すればいいのに、なんて言葉ももうリアルに100回くらい言っている気がする。発展しそうで一向に発展しない茶番に、もう何ヶ月も付き合わされているのだ。

「そういえば義人くんは好きな子とかいないの?」
「……いないです」
「なに!?なにその間!意味深!」
「え、盛り上がらないでください。だるいですそういうのホント、マジでいないんで」
「そんなこと言わずに教えてよ〜!」

ね〜〜え〜〜〜!と言いながら俺の腕を掴んで体をゆすってくるなまえ先輩。本当に好きな子とかいないんですけど、と言っても全然聞いてない。ホントこの人は鈍感すぎてなにも分かってない。いい加減今日こそ言ってやろうと思い、「あのさあなまえ先輩」と言いながら、俺の腕を掴んでいる彼女の腕を逆に掴み返した。その時だった。

「楽しそうだな。俺も混ぜろよ」

頭の上から降ってきたのは、なまえ先輩に絡まれている元凶である荒船先輩の声だった。いつも通り帽子をしっかりかぶって、意味ありげに微笑んでいる。あ、やばい。これは、やばいときの荒船先輩の顔だ。

「別に楽しくない、です」
「義人くん!?それはひどいよ…先輩かなしいよ…」
「先輩を悲しませたらダメだろ、半崎」

荒船先輩は不自然なほどにっこりしていた。ほら、こういうことになる。だからだるいんだ、なまえ先輩との恋バナは。俺はそこでようやく、思いっきり腕を掴んで向かい合っているこの状態が、傍目からだとだいぶ意味深に見えることに気づきパッと離れた。なまえ先輩はというと、こっちの気も、もちろん荒船先輩の気も知らないで、のんきに楽しくないと言われたことを悲しんでいる。

「そんな悲しむことじゃないでしょ先輩…」
「だってわたしは義人くんと荒船の話をするのが楽しみで、あ…!!!」
「(ええええ……)」

昔読んだつまらないギャグ漫画みたいなうっかり顔で、なまえ先輩は自分の発言の意味深さに気づいたようだ。いや、ていうか、めちゃくちゃ複雑なんですけど。俺はどういうリアクションしたらいいわけ?だるいなあ、こういうの。と思いながら、とりあえず荒船先輩の方を伺う。これでこの人ものんきな人だったら「荒船の話をするのが楽しみ」という言葉だけをとりあげて喜んでくれそうなものだけど、まあそんなに甘い人じゃない。その証拠に、

「ほう…」

とだけ言って、俺の方を見てニヤリとしている。いやいややめてくださいよ、チームメイトの後輩にそんなライバル心バリバリにするの。だるいというよりもはや怖い。これ以上ここにいると、なまえ先輩のせいで不穏なことに巻き込まれそうなので退散した方がよさそうだ。そんなわけで俺は飲みかけのドリンクをもってサッと立ち上がった。

「俺、自主練行ってきます」
「おう。頑張れよ」
「…はい」
「え!待ってよ義人くん行かないで!」
「なまえ先輩、マジでいい加減にしてください!」

痛い目に合うのは俺なんだから、という言葉は飲み込んで、縋り付いてきそうななまえ先輩に捕まる前にダッシュでその場から離脱した。ああもう、休憩ぐらい穏やかにゆっくりさせてほしい。荒船先輩の登場でいっきに緊張したから喉が渇いた。後ろを見て休憩スペースから十分離れたのを確認して、一口飲む。あれ、俺が買ったのってこのドリンクだったっけ?まあもういいか。







「半崎となに話してたんだ?」
「え?!い、いや…なにも…アハハ〜…」
「ふうん。俺のこと、って聞こえた気がしたんだが」
「そ、それはその……って、あっ!!」
「どうした?」
「これ、義人くんのドリンクだ」
「……みょうじ、俺が新しいの買ってやるよ」
「え!?なんで!?いいよ!?」
「ダメだ」
「え!?なんで!?」
「ダメったらダメだ」
「!?」



(IT IS NOT ME THAT YOU SEE.)
..