大我は涼太との1戦を思い浮かべ日々フラストレーションを溜めいていた。
発散する為にはひたすら練習に打ち込むしかない。
今日も勇み足で体育館へと足を踏み入れた。

リコのメニューは体力が有り余っていそうな大我でもキツイものがあり、肩で息をしながら用意してあったドリンクを一気に煽った。
ようやく違和感に気づいた大我は傍で屍のように倒れていたテツヤに声をかける。

「そういや、あいつは?」

「ぅ、…あいつって名前さんの事ですか?」

「ああ。ドリンクとかタオルは用意してあるからいるんだろうけど姿見えねーし」

周りに視線を向けるがどこを探してもいそうにはない。
テツヤもそういえばそうですねと不思議そうに返した。
気になりだしたら止まらなくなり、ノートに何やら書き込んでいたおそらく知っているであろうリコへと声をかけた。

「名前なら、海常高校よ」

「は?」

「もしかして、スカウティングですか?」

テツヤの言葉にリコは頷き返したが、聞いたテツヤも驚いたようだった。
それもそのはず、名前が入部してからさほど経っていないのにマネージャー業をあっさりとこなし、その上スカウティングまでするとは。
リコいわく、スカウティングは名前自身の提案らしい。

「なんだよ。あいつ、嫌々入部したのかと思えば、やる気満々じゃねぇか!」

大我は見直したとばかりに、上機嫌になり、その後ろでテツヤが「火神くんてチョロいですよね」と、投げ飛ばされた数日前まで名前に対して警戒心を抱いていた大我を思い出した。


「くしゅん!…火神くんあたりが悪口言ってるな」

鼻下をさすりながら名前は周りにいる女子達に紛れて黄色い声を上げた。
女子達の視線の先には、金色の髪の毛をかきあげ爽やかに手を振る…先程知ったがイケメンモデルがいる。
今はコートの上に立っているバスケプレイヤーではあるが、周りの女子達にはモデルの黄瀬涼太にうつっているらしい。

これじゃあ、まともに練習出来ないのではと思っていると涼太とはかなり身長差がある男の人が飛び蹴りをくらわしていた。

どうやらあの人がキャプテンらしい。
上手い具合に涼太をあしらっている。
個人的には黄瀬より断然キャプテンの方が好印象だな、等と心の中で考えていたら黄瀬と目が合ったような気がした。
バレたか?と思ったがすぐに逸らされたので大丈夫そうだ。
まぁ、大丈夫だろう。
彼は女に本当の意味で興味がある訳では無い。
さらにいえば、女一人一人の顔をきちんと認識しているかも怪しい。
ただ、さすがに名前そのままで来る訳にはいかないので念には念をで海常高校の制服に身を包み、普段しないケバめの化粧も施してある。
潜入捜査は、得意分野ですからね。

それにしても、と名前は考える。
海常高校の選手達は軒並みフィジカルが強い。
しかも、選手の揃えもいい。
黄瀬涼太がいなかったとしても、厳しい相手だろう。
とはいえ、伸び代はうちの方がある。
それに、恐らく…海常の監督を観察する。
次の練習試合、正直勝つ見込みはある。
問題はその後。

「今から考えても仕方が無いか…、とりあえず、次の試合だな…」

名前はミニゲームが始まり、皆の視線がコートに集中すると何食わぬ顔でその場を立ち去った。




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