金曜日の放課後、窓の外からは帰宅中の生徒達の声が聞こえてくる。
あいにく私は図書委員なので、まだまだ帰れそうもないけれど。

今日は利用者も少なくて暇だ。
とは言っても仕事がないわけでもなく、返却済の本を元の場所へと戻す作業を行う。

ふと、視界に入ったカウンター。
カウンターの向こうにはもう1人の図書委員の黒子君がいる。
図書委員になるまでは話したことのない彼だったけれど、話してみると意外と話しやすい事が最近分かった。
漫画ばかり読む私とは違って、黒子君は正真正銘の文学少年で、物知りだ。

ふと今日会ったら言うつもりだった話を思い出して黒子くんの元へ行った。

「黒子君」

名前を呼べば、黒子君の大きな透き通るような眼とぶつかって、どきりとした。

「名前さんどうかしましたか?」

「この前オススメしてくれた本、読み終わったんだけどすごく面白かったよ。…どこがいいとか上手く表現はできないんだけど、すごい面白くて、一気に読めちゃった…あ、あの他にもオススメとかある?!」

語彙力のない自分が恥ずかしくてつい大きな声をだして誤魔化した。
司書の先生の咳払いが聞こえてきて、ここが図書室だという事を思い出して慌てて口を押さえた。

「それは、良かったです。無理に上手い表現を言う必要はないですよ。面白かった、その一言で充分です。…これは僕の自論なんですが、本当に面白いと感じた事を上手く言葉にするのはとても難しい事だと思うんです。無理に言葉にしようとすると嘘っぽく聞こえることもありますから」

確かに、と頷くと黒子君は淡く笑みを浮かべて頷き返してくれた。

「これ」

「?」

「オススメの本です」

「あ、ありがとう」

「いえ、…そろそろ鍵をかける時間ですね」

もう?と驚いて外を見ればすでに日は落ち始めている。
時計も帰宅時間を指していた。
慌てて黒子君が渡してくれた本の貸出登録を済ませる。
その間に黒子君は戸締りまで終わらせてくれた。
2人で司書の先生に挨拶をして部屋を出た。
じゃあ、と帰ろうとする黒子君を衝動的に呼び止めた。

「あ、あの。一緒に帰りませんか?」

「それは、校門までということですか?名前さんの家は確か僕とは逆方向だと記憶していましたが…」

「あ、校門までで大丈夫だよ!ただ、その…黒子君がよければ、もっと仲良くなりたいというか、その、えっと」

「名前さん」

「は、はい」

「少し遅くなっても大丈夫ですか?」

「も、もちろん!」

「なら、マジバに行きませんか?僕、あそこのバニラシェイクが飲みたい気分なんです」

「ぜひ!」

では行きましょうと言う黒子君の横に慌てて並んだ。
紳士的な黒子君は歩む速度も合わせてくれる。
黒子君のいる右側が何故か熱くて、触れ合いそうな距離にドキドキした。
この気持ちに名前をつける日はきっと近いと思う。







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