04
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フィガロ様の質問は、いつだって突然で、直球だ。

「テレサ、君はあの子になにを見出した?」
「なにを、と申されますと?」
「いやね、君ももしかしたら、って思ったんだよ。俺にはね、流星と共に煌めく天命が見えたよ」
どうやら、ファウストと出会った時のことを思い出しているようだ。

そういえば、ファウストが苦々しい顔をしながら、「…あの男にもう一度、教えを乞おうかと思っている」と言っていた。本当に不本意そうな、不安そうな、怒っているような、そんな顔だった。

「…ファウストがね、もっと強くなりたいって俺に言ってきた。彼を導くことが、俺の天命なのかもしれないなって、少し思った」
「…わたしは……天命とか、強さとか、どうでも良いのです。ただファウストが、ファウストの行く先が、光り輝くあたたかな道であってほしい。ただ、それだけです」
「過保護だなあ」
「過保護にもなりますよ。あの人、自分のことちっとも顧みないし、それを見ているわたしの気持ちも、ちっともわかってくれないのですから」

そう答えると、フィガロ様は少し驚いた顔をした。

「変なの。まるで君、彼に恋してるみたい」
「みたい、ってなんですか」
「俺にはわからない感情だから。」
「わたしだって、わからないですよ。ファウストだってわからないって言ってました」
「あはは。君たち、そういうところは師匠に似なくていいのにね」

ええ、ほんとうに。



***

愛している。愛されたい。
愛し合うことすら、私たちには許されないのでしょうか?
私たちの愛は、約束でなければ、永遠のものにはならないのでしょうか?

***

テレサの箒は壊滅的に、下手くそだ。
なのでいつも、僕の箒の後ろに乗せている。

「別に、使い魔喚んで飛ぶからいいのに…」
後ろでテレサはごにょごにょと恥ずかしそうにしている。僕がいないときは、テレサは鳥の使い魔や、馬の使い魔、または人間が使うような移動手段を使っている。

ただ、僕が、テレサを後ろに乗せて、飛びたい気分だったのだ。

「いいだろう。そういう気分だったんだ」
「変なの。重くない?」
「全然。もっと腕回してくれないと、落ちるぞ」
「う、うう……こんなところ他の人に見られたら……」
「誰も見てないよ。…ねえ、この間から何を恥ずかしがっているのさ」

そう問うと、テレサの腕の力が強くなった。ぎゅう、と抱き抱えられる形になった。

「…わたしたち、外から見たら、恋人同士みたいに見えない?」
「…そのことだけど」
「えっ」
「ずっと考えていたんだが、互いに好きなら、それはもう恋人でいいんじゃないかって」
「そんなことわかんないって言ってたのに!!!!」
「300年前の話だろう」
「それはそうですけど!」
「君、僕のこと好きじゃないの?」

箒を止めて、テレサの顔を見た。
それはもう見たことがないくらいに真っ赤になっていて、今にも泣き出しそうな、怒り出しそうな、そんな顔だった。

「……好きにきまってる…初めて会ったときからずっとずっと大好きだった。大好き。愛しているの。
あなたも同じ気持ちだったらとっても嬉しいわ。でも、でもね…約束が怖いの。だからあなたを、わたしで、縛りたくない……」

とうとうテレサは、声を上げて泣き出してしまった。

「好き。好きよ、ファウスト。大好き。でも、わたしたちの愛は、約束でなければ、永遠のものにならないのかなあ」

箒から降り、泣きじゃくるテレサを抱きしめた。
僕もテレサが好きだ。初めて会った時からずっと。
再会してからずっと。テレサへの気持ちは増すばかりだった。
探し出して、会いに来てくれた。僕の代わりに怒ってくれた。大切に想ってくれた。悪夢に魘された夜、ずっとそばで優しく頭を撫でてくれた。共に暮らしてくれた。愛してくれた。
テレサとの生活は心地よくて、楽しくて、愛しい。
いつかは夫婦になりたいと、頭の隅で考えていたりもした。
だが、君の人生を縛りつけることになるのではと、僕は躊躇していた。300年間、悩み続けていた。

テレサ、君もずっと、僕と同じように悩み続けていたんだな。

テレサの頭を撫でながら、僕は一つの決心をした。



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