06
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「受け取ってほしい」
そう言って差し出されたのは、銀色に光る指輪だった。意味はもちろん、わかる。


「…でも、約束することになるんじゃない?」
「そう思って…ここ300年くらいずっと悩んでいたよ。約束で君を縛りつけてしまうのは…と」


ああ、なんだ。そうだったんだ。
ファウストも、私とおんなじことをずっと悩んでいたのね。

「わたしは…約束なんかしなくても、400年ずっと一緒にいられたから…このままずっと続けるのもアリかなって思ってた」
「うん」
「でもわたし、ファウストのことが大好き。愛してる。あなたに愛されたいし、大事にされたい。わたしの全部をあげるから、あなたの全部がほしい。とってもよくばりになっちゃった。こんなわたしを軽蔑する?」

ファウストは少し驚いた顔をしたけど、すぐにいつもの笑みでこう答えた。

「しないよ。僕だってテレサのことが大好きで、愛しているよ。君から愛されたいし、大事にしたいしされたい。僕の全部をあげるから、君の全部がほしい。僕はいろんなことを諦めてしまったけど、君のことだけは諦められないんだ」

今度はわたしが少し驚いた顔をした。なんだ、ファウストもそう思ってくれてたんだ。

「わたしたち、ずっと同じことで悩んで、同じ気持ちを抱いていて、ばかみたいね。300年も一緒にいたのに…」
「本当にな」
「……ね、指輪、左手薬指でいいのよね?」
「それ以外のどこがあるんだ。ああ、僕にやらせてくれないか」


薬指にはめられた指輪が、朝焼けの光で反射して煌めく。まるで星のように。


「星みたい。とってもきれいね」
ファウストが、わたしの手の甲に口付ける。
慈しむような瞳で、ファウストは私を見た。私の大好きな、美しく優しく燃えるアメジストの瞳。


「世界の終わりの瞬間まで、一緒にいよう」


紡がれた言葉は、魔法使いにとって呪いにも似た約束の言葉。でもその呪いは、この世のどんな宝物よりも価値があるものだとわたしは思った。

あなたに恋をしている。
あなたを愛している。
これが約束になっても構わない。
だからずっと、あなたの隣で永遠の愛を謳わせてね。

Fin.
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