Fate/iridescent clouds


 青い星が一等煌く夜空と、髑髏(しゃれこうべ)の丘。
 そこは一面骨の骸で覆われていた。その周囲を炎が囲っていた。
 血と、死体と、肉が、炎で焦げ付いた密度のある温い風が吹いている。
 墓標代わりの折れた剣とすすけた旗が、丘のふもとで乱雑に突き刺さっていた。



――これに似た景色を、どこかでみた気がする。
 それが何なのかは咄嗟には出てこなかった。

「……、……海月」

 自分を呼ぶ声に、うっすらと瞼をあけた。
 赤い外套が視界の大半を支配する。

「エミヤ……?」
「今日はいつにもましてねぼすけだな、君は」

 彼はあきれたようにため息を吐いた。いや、事実あきれていたのだろう。

――屍の骸に覆われた地に、突き刺さる剣と旗
――見渡す限りの荒野の、大地に突き刺さった無数の剣


「――夢を、みていた」

 まだぼうとする頭を抑えながら、緩慢な動作で起き上がる。
 ああそうだ。何かに似ていたと思えば。
――だが、似ていただけだ。
 では、あの夢は、……誰の?

「夢?」

 怪訝そうに問い返す赤い彼に、ゆるゆると俺は首を振る。

「たいしたことじゃない。ところで――今何時?」
「先ほどマスターらが昼食を食べ終えたところだな」
「うわ、本当に寝すぎだ」
「まったくだ」

 エミヤはやれやれと、もう一度短いため息をつく。

「いくら君が普段レイシフトしないからといって、気を抜いているんじゃないだろうな」

「……気をつけるよ。でも今は俺はマスターじゃないし、藤丸だってレイシフトしている最中というわけでもないんだし」

 ちょっとぐらいさぁ、という気持ちでエミヤを見上げたら、お説教モードの表情になっていて、さっと目をそらした。

「いいかね、日々の積み重ねというものもあるんだよ。大体、マスターがレイシフトしているときだって、君はずいぶん自由にしていると聞くし、視ているぞ。スタッフたちが忙しそうにしているのを知っていながら、君は――」
「それに関しては言い訳をさせてくれよ。俺にできることってないんだぜ。せいぜい邪魔にならないようにひっそりしてるぐらいしか」
「だが、万が一のときのための君だ。万が一に何かが起きたとき、何も知りませんで現地に行くわけには行かないだろう」

 ……それは、確かにそのとおりだ。

「現時点で君がマスターでないというだけだ。君がレイシフトし特異点の修復に当たる際は、君が私のマスターになるのだからな。時間があれば気にかけもする」
「……」

 けれど、そのようなときはくるのか。
 そのようなときがきたとき、俺が果たして役立つのか。

「くだらんことを考えている暇があるのなら、とっとと昼食を済ませて来い」
「――ありがとう、エミヤ」

 マイルームに残るエミヤをあとに、俺は部屋を出た。



 昼食を一人で済ませ、管制室に向かった。
 第なんとか特異点を修復し、一息ついてるその隙間。この時間管制室には誰もいなかった。

――?

 真っ赤だったはずのカルデアスに異変が生じる。
 カルデアスが真っ黒に染まり、くるくると奇妙に回転したかと思うと、

アンサモンプログラム スタート
 霊子変換を開始 します


「――!?」

 レイシフトが突如開始された。
 今この場には海月以外、ほぼだれもいない。スタッフもドクター、レオナルドも、昼食で席をはずしている。
 念のために、と残っていたスタッフも、今はパニック状態だ。

「まって、うそだろ!? ドクター!!!!」

 たまたま管制室近くにいたのか、マシュがレイシフト起動とほぼ同じくして管制室に飛び込んでくる。

「海月さん!!」

 けれど肉体は霊子変換を開始している。

「えっ、何がどうなっているんだい!? 海月くん!?」

 最後にドクターが管制室に飛び込んでくるのが見えた気がして、3――2――1――


   *    *


――ピピ……ピピー……

 遠くで戦の音が聞こえる。頭痛のする頭を抑えて状況を確認する。

――海月くん! 無事かい!?

 耳鳴りだと思っていた音は、通信の音のようだった。ドクターの声が聞こえる。

「無事……らしい?」

 あたりを見渡す。森の――中?

――ごめん、こっちからは何もわからないんだ。観測機に特異点は存在していない(、、、、、、、、、、、、、、、)。君はいったいどこに飛んだんだい?

「まって……それは、どういう」

 頭が痛い。割れるように、痛い。
 レイシフト適性を持ちながら、俺が正規のマスターではない理由。
 レイシフトすると俺の体はしばらく頭痛に悩まされる。軽い頭痛ならどうにかなるが、まったく持って軽くない。二・三日すれば元に戻ることは、冬木のときでわかっているが、逆を言えば、万全の状態になるまで二・三日かかるということだった。そして厄介なことに、薬でどうこうなるものでもなかった。

 木に手をついて、よろめくように歩き出す。どこからか血のにおいがした。

――ただ、何かの干渉をうけて誤作動を起こしたのは確からしい。そのあたりはダ・ヴィンチちゃんにでも聞くといいけど、正直通信も不安定でね。

 確かに不安定のようだ。ところどころノイズが混じっている。

――ところで君体調はどうなんだい? 君にとっては久方ぶり――冬木以来のレイシフトだ。しかも冬木と同様コフィンなし。異常がないに越したことはないが……

「正直頭が割れるようにいたい」

――そうか……時に海月くん、令呪は? ある?

 とっさに左手の甲を確認する。

「……ある」

 驚きつつ、令呪をみやる。藤丸と形は違うが、確かに、3画、あった。

――なら、サーヴァントを呼べるかもしれない。ただ、こちらからは残念なことに霊脈のポイントを探ることができない。

「……それって、自力で見つけろと」

――うん。でもサーヴァントも君なら呼べるはずだ。彼と違って、君は一流の魔術師なんだし、霊脈の存在も、君なら見つけられる。

「……わかった」

 簡単に言ってくれるなぁと、痛む頭は決してレイシフトのせいだけではないはずだ。
――僕は、君なら何とかなるだろうと思っているんだ。本当だ。ただくれぐれもむちゃをしないy――

 後半のほとんどはノイズまみれで、最後はノイズも聞こえなくなった。

「……困ったな」

 戦の音が聞こえる。フランス、ローマ、ロンドン……どこに飛んでも戦をしていたのを知っているから、別段不思議ではない。未来を変えたい。――けれど、それは許されない。

「困った」

 ドクターは君なら何とかなると、いうけれど。
 観測機でここを観測できていないということは、再びレイシフトするのも難しいだろう。マスター適合者としてある程度の魔術は使えるが、サーヴァントがいないといろいろ、苦しい。戦力的に。
 ただ、幸い令呪はある。あった。
 なら、どこかで召喚をしないと。

「ともかく、霊脈をさがーー…?」

 なにか、音が近づいてきている、ような。
 蹄の音?