セレナーデを奏でるまでにもならない

「そういえばさ、この間初めてバスケの試合を見たんだよ」

 ズコー、と紙パックのジュースを飲みほして海月は言った。

「それって、この間のIHの? 行ったの?」

 返答をしたのは一緒にお昼ご飯を食べていた友人だ。

「そうそう、ほら高尾君にゴシューシンの由梨とさ」
「あー、あたしそれ誘われたわ。――って、え!? で、あんた何で行ったの!? 好きな人でもいたわけ!?」

 普段なら「メンドクサー」じゃん! と声を荒げて友人は言うものだから、クラス中の視線を一身に浴びた。
 その中にクラスメイトの緑間と、彼にくっついて来ている高尾の目も含まれていた。

「なに、水面サン好きな人いんの? だれだれ?」

 友人のでかい声につられて、高尾がこちらに来る。そんで「や」と友人が高尾に挨拶した。

「よっ、なんか盛り上がってんねー」
「そりゃね! 天変地異の前触れーって感じ!」
「んな大げさな」

 すでに無くなっているにも関わらず、海月はストローをすすった。ズズズとなんとも空しい音がする。

「で、なんでよ。IHの会場遠いじゃん」
「え、なに水面サンIH来てたの?」

 高尾は驚いたように目を瞬かせた。

「そうなんだよ高尾ー、やっぱきになるでしょー」

 友人は高尾にのって、問い詰める。

「別に、なんだっていいだろ」
「ふぅん、じゃあやっぱ好きな人でもできた?」

 その台詞に海月は眉間にしわをよせた。

「なんでそうなんだよ」
「だってさー、ほかに引きこもりの海月を外に引っ張り出す理由が思いつかない!」
「失礼な」

 紙パックを小さくつぶした。

「由梨に、交通費出すから、って言われたから。そこまで言うならじゃあ、って」
「え、そんだけ?」
「他に何が」
「えー、じゃあなんで隠そうとしたのー」
「別に」

 手持無沙汰になって、海月はつぶした紙パックのゴミをいじりだした。

「で、水面さん、どだった? 秀徳の見たんでしょ?」
「そりゃね」
「で? 感想は?」
「……ずいぶん、気にするな。どうした」
「え? まあいいじゃん、で? で?」

 高尾の様子に海月は少々訝しんで、高尾を見るが、にこーと笑顔で催促され、まあいいか、と思うことにした。
 もともと、それを話したかったんだし。

「私さ、バスケってマンガでしか見たことなかったんだよ。ああ、体育とかのは別で。あれはバスケという名の別物って思ってるから」
「うん、で?」
「やー、だから、マンガでしか知らなかったから、バスケってダンクが一番かっこいいと思っていたわけだ」
「実際かっこいいと思うけどねー、花形だし。って、なに、感想変わったの? 3Pシュートのほうがかっこいーとか?」
「うん、実際の試合だとダンクよりスリー決まるほうがかっこいいな」
「まじ?」

 高尾が目をまんまるにさせて海月を見る。

「あのスリー決めてるのって、緑間君だよね。すごいねー」
「あ、うん。真ちゃんはすげーんだけど……」

 煮え切らない感じの高尾に海月はこてん、と首を横に傾ける。「おは朝すげー」とつぶやいた高尾の台詞は海月には届かず、友人の耳だけは拾っていた。

「ねぇ高尾、緑間って好きな人でもいるの?」
「へ!? なんで!?」
「や、だって、いま」
「げっ、俺なんか言ってた!? もしかして水面さんも聞こえてた?」
「ん? なにが?」
「なんでもないなんでもない!」
「高尾、まさか」
「やめて! 俺真ちゃんに殺される!」
「高尾、墓穴掘ってるよ。ああ、そっかそっかーへー」
「ああああ、黙っててね!? お願い」
「ああ、あたしは黙ってるよ。でもねぇ、高尾。後ろ見てみ」

 高尾が「へ?」と声を出して振り向くのと、海月が「あ、緑間君だー」と言ったのは同時。
 高尾の顔から血の気が引く。

「げ、真ちゃん」
「高尾、こっちに来い」

 緑間は海月を一瞥して、すぐに高尾の襟首をつかむと教室の外に連れ出していった。

「じゃーねー」

 友人はそんな様子の高尾に手を振った後、海月を妙に、にやにやとした顔で見た。

「何」
「いんにゃー?」
「なんだよ、気持ち悪い」

 海月は鞄から財布を取り出すと、席を立った。
 友人も一緒に立ち上がる。昼休みの終わるチャイムが鳴るまで、まだ十分はある。

「何買うの」
「飲み物」

 そうじゃなくてさー、と友人は笑う。

「そうだな」

 私は少し考えて、見事な3Pシュートが脳裏をかすめた。そういえば、彼の好物はおしるこだったなと、思い至る。

「おしるこでも飲んでみようかと」


セレナーデを奏でるまでにもならない

(で?)(で、ってなにが)(好きな人)(しつこい)





 ダンクシュートは純粋にかっこいーと思う前に、ゴールリングの耐久性にすげーってなるのは私だけなんでしょうか……?