As soon as man is born he begins to die. 4



 子供の手のひらは小さくて。
 ぽろぽろと、持っていたはずのものがこぼれてく。

 それでも、最後まで握り締めていた何かが。
 
――なんだったのか、もう自分でもわからない。


  *   *   *


――王と側近は、王宮から外れた山の中腹にいる。

 そこは戦禍に見舞われていない、緑に囲まれている場所だ。ぽつりとひとつ小屋があるだけで、ほかには何もない。だが、小動物も、虫も、まだ生きている場所だから食いつないで生きている。
 王は海賊だ。だがこの国をのっとる時に足をやって、前線で戦うことはできなくなっていた。
 側近は初めからこの国に使えていた人で、武官ではない。
 軍の最高指揮官ももう前線に出てきていて、実質、この山小屋を落とせば済む話だった。

「オーガスタ」

 ”隠れ家”に戻ってきた僕は、革命軍と名乗った彼らに、嘆願助命したこと、それを受け入れてもらったこと、これから、彼らの船に乗ること、全部伝えた。
 けれど、一人だけ、船に乗ることを拒んだ。僕の2つ年上で、1個部隊を指揮してた隊長。

 東の港。竜の船首の船が泊まっている。
 僕と、オーガスタだけ、その船の前にいた。
 遠くで喚声が聞こえる。民衆軍の熱量は、王国軍を根絶やしにしなければ治まらないほど膨れ上がっている。

「どうして」

 僕は何もわからなかった。
 僕らは、これから立て直すこの国にはいられない。多くを裏切り、殺してきた。……僕はともかく、オーガスタは民衆軍に顔を覚えられている。子供とはいえ、その刃は首を裂き、銃弾は体を打ち抜くだろう。
 王国に組した者の首はしばらく晒されるのも予想できた。だって、王に歯向かったものがなる末路。この国の恐怖政治を、彼らは強烈に覚えている。
 それはオーガスタも知っているはずだった。

「……お前は、どうなんだ」

 絞り出すような声だった。顔をゆがめて、泣きそうなのを堪えているのか、苦しいのか、悔しいのか、そういうのを全部ない混ぜにしたみたいだった。

「ルイ、お前が入ってない。大方、自分の部下だけを助けるように言っただろ」
「………」

 それは、確かにそうだった。
 革命軍のボス――モンキー・D・ドラゴンと名乗った顔に刺青のある男に、”お願い”をしたとき、そこに自分を入れなかった。そのことを彼は何も言わなかった。
 ほかの12人は気づかなかった。そういう言い回しをした。頭を使って。だけどオーガスタだけは騙せなかった。

「――お前は、行け。お前が、行け。あの船に乗って」
「どうして」

 オーガスタは困ったように笑った。どうしてここで笑えるのかとんと理解できなかった。

「お前、今まで俺を何回スケープゴートにしたよ。おかげで俺は顔を覚えられたのに、お前はぜんぜんバレねぇんだもんなぁ」

 別に責めてるような口調じゃなかった。「だからよ」とオーガスタは続ける。

「今回だって同じだ。俺を、ここに置いていけ。お前が――行け」

 僕は、頭がよくない。オーガスタのほうがずっと頭がよくて、だから僕がオーガスタを説得するための言葉が、何もでてこない。

「なぁ、あいつをつれてってくれ。それで13人だ。約束どおりだろ?」

 オーガスタが、僕じゃない、僕の後ろに声をかける。急に影が降ってきて、僕は驚いて後ろを振り向いた。
 スキンヘッドに、鳥の嘴のようなマスクをつけた男が立っていた。

「なっ、おい、離せ――!?!」

 その男は何かしゃべったようだが、声がまったく聞き取れなかった。むんずと捕まえられたかと思ったら、男の腕より下が幾羽のカラスに変わって――僕は、空を、飛んだ。

「――…! なぁ、おいっ オーガスタ……っ ッゲホ」

 今まで叫んだことのない喉は、大きな声を出そうとして噎せこんだ。ゲホゲホと肺と喉がしびれて、涙目になった。

 幾羽のカラスに抱えられる様に僕が船に下りると、船が出た。
 勝利が確定したから、もうこの国に居る必要がないという判断なのか。
 まって、と言おうとして声が出なかった。島が遠ざかる。


――どうして。
 その問いの答えを、聞いてない。


  *   *   *


 いくつもの島を回った。
 12人全員を一度に降ろすことはできないから、最大5人までのチームにして、降ろしていった。

 僕は、再び、革命軍のボスの前に居た。


「――僕を、雇って。戦争を起こすんだろ? きっと役に立つよ」


 


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