骸の丘 2



 多分最初からなかった。


  *   *   *


 踝丈までのコートを脱いで、骨をくるんだ。
 カラスの迎えは、一番最初に、カラスを助けた洞窟。
 ここから、その場所までは、町を通らないでも行けるルートで行く。サボの用が終わって、こっちへ来るよりも、もう少し時間がかかりそうだけど、コートを脱いで、町にはちょっと下り辛い。

「骨を埋めるのは、海でいいよな」

 オーガスタがどうして、”さいご”に笑ったのか僕は知らない。
 民衆軍の怒りを受けて、傷だらけになりながら、ここまできた理由も、僕は知らない。
 本当はこの国の土に埋めたほうがいいのかも、わからない。

 でも、海は広いから。
 生き残ったほかの12人は、この海のどこかの島に居るから。

 僕のエゴ。でもオーガスタは、仕方ないと許してくれるはずだ。
 僕は、オーガスタが怒っているところを、見たことがない。


  *   *   *


「遅ぇ」

 サボとカラスは”コルムペリス”の待ち合わせ場所に居た。海岸近くの崖の洞窟。

『………この国は、島ひとつ丸ごと国だ。……まわるところも、多いんだろう……』
「観光か? カラスは知ってるみたいだったけどよ、ルイはなんでここに来たがったんだ?」
『生まれ故郷だ……詳しい話は本人か、ベティに聞け』
「……? わかった」

 それからしばらくして、コートに何か包んだルイが、暗がりの奥から、人目を避けるようにして、ここにきた。

「悪い。行こう」
「ルイ、そりゃなんだ」
「……骨だよ。海に撒く」

 かけらのひとつこぼさないように、大切そうに抱えなおして、カラスの上に乗った。
 島から少し離れた海の上で、コートを解く。
 ボチャボチャと海に骨沈んでいく。一際大きく水がはねた――頭蓋が沈んだ。
 コートをばさばさと広げて、かけらのひとつ残らず、海に撒く。

「サボ、この国を見て、どう思う?」
「? にぎやかな国じゃないか?」
「……ああ、そうだな」

 ルイはコートを羽織り直して、遠ざかる島を見る。

「10年前、この国は戦争をしてたんだ」

 ぽつり、ぽつりとルイは話し出した。船に戻るまで。
 革命軍でも詳細はほとんど知る者が居ないルイの過去。何をしていたか。


  *   *   *


「おれとエースと、あとルフィは、3兄弟なんだ。当然血はつながってねぇけど。杯を交わした」

 船に戻ったその日の夜。甲板。
 そこには僕と、サボだけが居る。

「同じ国に居たんだ。3人で暴れまわって、ガープのジジィにしごかれて…」

 サボは記憶を掘り出すように、目を伏せた。

「おれは貴族の息子だった。……それがいやで、ルフィとエースを置いて、先に海に出た。そこを、砲撃されて――ドラゴンさんに助けられた」

 サボの顔の左側の、やけど跡。
 その後のことは、よく知っている。記憶をなくしていたサボ。国に戻りたくないという意思だけで、――ここまできた。

「何で、忘れていられたんだ、おれは……!!」

 絞り出すような声。
 ここにいるのは僕だけ。――きっと、僕しか知らない。サボの心の内側。

 あと少しだけ、思い出すのが早ければ、助けに行けたのに。そんな後悔。……僕にはわからない。そんな思いはしたことがないから。
 だから僕は、かける言葉がないまま、黙っている。

「ルイ、もしルフィが死にそうな目にあってたら…… おれは立場を押してでも行く。そのときは、――後を任せてもいいか」

 サボの中で、僕はそのぐらいの信頼の置ける場所に居たらしい。
 けれど僕は優しくないので、即答した。


「いやだね」



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