Homo homini lupus.



 身の内が灼けるような思いを飲んで、うずくまった。


  *   *   *


 はじめてその人と会ったとき、僕はすこしだけ後退りした。
 別にびびった訳じゃなくて、ただとても大きな人だったから、
 距離をとって見上げないと、とても顔まで見えなかっただけ。

 バーソロミュー・くま。
 その体躯とは裏腹に、とても優しい人だった。


  *   *   *


 僕がまだ、サボとの手合わせで10回に1回ぐらいは勝てていたころに、
 僕とサボが組んで、初めてくまと手合わせをした。

「うーん、体格差的に絶望的だよなぁ」

 僕とサボ。二人とも吹っ飛ばされて、あお向けに転がった。

「僕とお前、身長足しても余るよあの人… おんなじ人間?」

 僕はぶつくさと文句をたれたのに対して、サボは黙り込んだまま何も言わない。

「ちょっと、何か返事ぐらいしてよ、僕が独り言しゃべってるみたいじゃん」
「なんだ、独り言じゃなかったのか」
「……で? ずっと考え込んでたんだから、何か良案でもあるんだろうな?」

 くまとの手合わせのルールは簡単。
 僕とサボ、二人掛りでくまの膝をつかせればいい。

 ちなみに現在20戦やって一度も勝ててない。そろそろ太陽が沈みそうだ。太陽が沈んだらおしまい。そういう時間制限。
 受身の取り方はこの間にものすごく上達した感じがある。

「……今までずっと膝に攻撃を集中させてたけど、……首も狙おう」
「その心は」
「おんなじことやっても意味がない」

 これじゃだめだというように、息を吐くサボ。
 まったく持って同感だ。

「じゃあ、首への攻撃はサボに任せるよ。僕もできそうなら狙うけど、基本は足」
「わかった、……よし」

 僕とサボは起き上がると、もう一度くまと対峙する。

―――
――

 結局一度も勝てずに日が落ちた。
 その日の夜、くまは僕たちにどこがよくて、どこがよくなかったのか、細かく教えてくれた。


  *   *   *


 それから、くまが本部にいるときはサボと僕で何度も挑んだ。
 くまはそれに飽きも呆れもせずいつも付き合ってくれた。

 僕とサボの実力に大きな乖離ができても、くまと手合わせするときは必ず二人だった。
 僕とサボは、この手合わせのおかげか、連携を取るのは格段にうまくなったと思う。


  *   *   *


 サボが強くなった。
 元から強かったけど、もう、僕は手も足も出ない。
 くまとの手合わせでも、サボとくまの1対1。……僕はもう、そこには入れない。

――竜爪拳。

 サボがボスから学んだ、技。
 くまが吹っ飛ぶところを、ぼくはその日、始めてみた。

「なぁルイ、なんで見てるだけだったんだよ」

 くまとの手合わせの後、サボが不機嫌そうに僕の下に来た。

「……いや、サボ一人で倒せたじゃん、くま」
「ルイがいればもっと早く倒せた」
「そうかな……?」

 本当にそうかな? 僕はまったくそう思わないのだけど、サボはどうもそうじゃないらしい。

「そうなんだよ! 次! ……今日はもう遅いから、次くまがいるときは一緒にだ!」

 いいな! と念を押すので、僕は思わず、その勢いにつられて「うん」と言ってしまった。
 言ってしまってほんの少し後悔したが、その”次”が来ることは二度となかった。


 二度と。



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