義戦に非ず



 ただ運がよかった。


  *   *   *


 ずっと不思議ではいた。
 ルイと手合わせするときは、必ず素手。武器を使った対人訓練を、ルイは禁止されていた。その理由をおれは知らなかったけれど、今ならわかる気がする。


 その島に着いたとき、生きていたのはルイだけだった。どんな生き物も死に絶えていて、まるで、手負いの獣が、本能で自分のみを守るために攻撃する。ルイの状態は、まさしくその様だった。

 片手で太刀を構えるルイ。腰には銃。
 太刀にのみ意識を向ければ、銃弾が急所を狙ってくる。開いている片手も気にしてないといけない。
 ルイは身のこなしがしなやかだ。一撃一撃自体に重さはあまりないけれど、それでも覇気をまとっているし、何より多段的だ。じわじわと削ってくる感じ。
 長期戦になればこっちが不利だ。
 だけど決定打が与えられなくて、向こうのペースに引きずられる。

「……ちっ」

 刀を竜のつめで押さえようものなら、銃弾が至近距離で放たれる。
 刀をたたき折るには、強度が足りない。
 覇気の強さは同等か、おれが少し上なのが幸いだ。

「――――!!」

 加えて厄介なのは、覇王色の覇気。不定期に発せられるこの覇気は慣れなくて、一瞬足がひるむ。悔しい。別に、ほかの誰かならそうはならねぇのに。
 ……と、いうか本当に腹が立つな! 意識もほとんどねぇようなやつに何でおれがこんなに押されなきゃならねぇんだ。 

「―――っ加減目を覚ませバカルイ!!!」

 ふと。太刀筋が鈍った。気がした。
 それを見逃すと思ったか。
 おれは獲物をフルスイングした。

「あっ」

 おれの一撃はルイの頭部を直撃して、吹っ飛んだ。……死んでないよな?
 吹っ飛んで、動かなくなったルイに俺は近づく。
 うっかり飛び起きて反撃されないように、おれは鉄パイプでルイを抑えつつ話しかける。

 ルイは気絶してはいなかった。
 倒れこんだまま、ぼうと空を眺めている。

「よぉ。……目は覚めたかよ」

 おれの声にゆるゆると、ルイの焦点がおれに合う。
 やーーっと目が合ったな?

「…………サボ?」
「おぅ。……帰るぞ」

 おれは鉄パイプをどけて、ルイに手を差し出す。
 けれどルイは手をとろうとしなかった。

「ルイ……?」

 なんだ、まだ帰らないというのか、と聞こうとして、ルイのまぶたが閉じていくのを見た。

「おい、ルイ!」

 あわてて呼吸を確認すると、すぅという音が聞こえた。
 おれは大きく息をついて、ルイを担ぎ上げた。……熱っ。こいつ熱あるぞ。


  *   *   *


 船に戻ると、コアラとハックにルイを渡して、ドラゴンさんに連絡を取った。
 まっすぐ本部に戻ってくるように言われて、おれは了解と返した。

 本部に戻って、ドラゴンさんと話をした。
 ルイのこと。
 シムラクルムと名乗った男のこと。

 曰く、ルイは人を殺すことが好きではない。
 命をないがしろにするのが許せないらしい。

 それでも、殺さないといけないとわかっているから、殺すけれど。
 そんな自分が、何より嫌いなのだと。

 ――そういう話を聞いた。

「まぁ……今回のことで、少しはなにか心の整理はついただろう……」
 
 ドラゴンさんがそういうので、おれはこれ以上何も聞かなかった。
 ただ、あいつが目を覚ましたら、気が済むまでぶん殴ってやろうとは思った。

 
  *   *   *


 気の済むまで分投げて、おれは幾分かの溜飲が下がった。

「……なんで、いなくなったりしたんだ」
「……別に、ただの自己嫌悪だよ」

 おれは何かを言いかけて、やめた。
 いう言葉が見つからなかったのと、おれが言えたものでもないからだ。

「ただまぁ、いなくなるなら、一声かけてからいってくれ」

 そういったら、ルイはぐしゃりと顔をゆがめた。会う人会う人に言われたらしい。そりゃそうだ。

「なんだよ、いったら引き止めるくせに」
「ははは」

 おれが笑うので、ルイもつられて笑おうとして失敗したのを見た。

「へたくそ」
「うるさいよ」

 すねるような口調で言うもんだから、おれはますます笑ってしまった。
 
 


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