What is bred in the bone will not out of the flesh. 3



 幸運では生き残れない。


  *   *   *


 シムラクルムと名乗る男の情報を元に、改めてルイの捜索を行った。
 いままでほとんど闇雲に近い形で捜索を行っていたのに対して、ある程度、根拠の元に捜索するのとでは、士気も段違いだった。

 そしてついに、その島を見つけた。
 ルイが失踪して、実に半年が経っていた。


  *   *   *


 その島に上陸した瞬間、濃い血のにおいにむせ返った。……生き物の気配が全然しない。
 
 ルイに会ったらなんて言ってやろうと考えていたのに、いざその姿を見て私は何も言えなくなった。

「……ルイ」

 どうしてサボくんじゃなくて私が先に見つけちゃったんだろう。
 私の声にゆるりと振り向いたルイに、私は心臓の冷える感覚がした。背筋に冷たい汗が流れる。
 怪我をしているのか、返り血だけなのかわからないけど、ルイは全身真っ黒だった。頭から、血をかぶっているんだ。
 片手に握られた刀だけが、煌々と白く光ってみえた。

「……帰ろう? ドラゴンさんも待ってる」

 そういっては見たものの、まったく声が届いている気がしない。目がうつろのまま、陽炎が揺らめくみたいに、ルイは私の方に歩いてくる。
 私は、手負いの肉食獣相手にしたみたいな気分になった。……むしろそっちのほうがましだったかも。

――下手に動いたら死ぬ。

 プルプル、とポケットの中の電伝虫が鳴いてるけど、それに出られる余裕はない。……サボくんかな、早くこっちに来て欲しい。私じゃ――駄目だ。敵わない。

 ルイが構えるのを見た。白刃が漆黒に染まる。
 私も構えたけど、覇気はあっちが上回ってる。受けきれそうにない。

「コアラ!」

 金属音が響いた。
 ルイの刀と、サボくんのパイプがぶつかり合う。

「コアラ、ルイは任せろ。ハックと船に戻って、応急手当の準備をしててくれ」
「殺さないでね!」
「……もちろん」

 膝をつきたくなるような覇気がルイから発せられる。
 震える足を叱咤して、私はルイに背を向けて走り出した。


  *   *   *


 頭が酷くぼうとする。
 夢うつつにいるみたいで、足下もおぼつかない。

 殺せ、殺せ、殺せと、頭の中で声がする。生きとし生けるものすべてを殺せ。ただただ、殺せ。――皆殺しだ。

 目の前に2つの生命反応がある。ひとつはどこか遠くに行ってしまったから、とりあえず今は目の前のひとつ。もうひとつはその後で追えばいい。

 けれど、目の前のひとつの生命反応はなかなか消えなかった。
 何でだろう。
 こんなに時間がかかるなんて。
 いったい僕は何を相手にしているんだろう…

 そんな余計な思考が出てきたせいかはわからないが、ガツンと思い切り頭を殴られて、吹っ飛ばされた――気がする。

 起き上がろうとして、起き上がれはしなかった。そこでようやく自分が倒れていることに気がついた。
 そのまま、ぼうと空を見上げて、そういえば空は青いんだった。などと思ったりした。

「目は覚めたか?」

 仰向けに倒れる僕の首を、鉄パイプで押さえながら覗き込む、黒いシルクハットをかぶった金髪の青年。顔の左側に大きなやけど痕がある。

「……………サボ?」

 僕を吹っ飛ばした生命反応――人間が、見知った顔だとようやく気づいた。

「……帰るぞ」

 鉄パイプをどけて、サボは僕に手を差し出す。
 僕はその手をじっと、見た。その手をとろうと思ったけど、体がどうにも重たくて、腕が上がらなかった。

「ルイ? ……ルイ!」

 ついでに瞼も重たくて、ついに目を開けているのも難しくなった。

 
  *   *   *


 目が覚めると、顔をぐしゃぐしゃに泣き腫らしたコアラとハックが映った。

「よ゛がっだ〜〜〜 お゛ぎた〜〜〜」

 聞くところによれば、3日3晩高熱が出ていたらしい。……どこかの誰かで聞いた話だ。
 船は昨日本部に着いていて、ここは本部の一室らしい。

「まだ安静にしていて。熱はまだ下がりきってないから」
「…………サボは?」

 この部屋にはコアラとハックしかいない。

「サボくんに会いたい?」

 ずいぶん含みのある問いだった。

「会うなら体調整えたほうがいいよ」
「……もしかして怒ってる…」

 コアラはにっこりと、それはもう今までに見た中で一番といっても過言じゃないぐらいきれいに笑った。

「もしかしなくても、ものすごく怒っているから。……竜爪拳の一発ぐらい覚悟してて」

 それは死んじゃうやつ、と僕は首を横に振った。

「私だって、すっごく怒ってるんだよ! でも………、起きないかと思った……生きてて良かった……」

 ず、と鼻をすすって涙目になるコアラに、僕はたじろいだ。
 ただでさえコアラには頭があんまり上がらないんだよ、僕は。

「いなくなるなら、いなくなるっていってよぉ……」

 いよいよ本格的に泣き出したコアラに、僕はハックに助けるように視線を送ったが、ハックも涙を浮かべてそれどころじゃない。うそでしょ。

「…………うん」

 僕は枕に背を預けて息をついた。
 帰ってきてしまったなぁ。

 …………ボスの前に、僕はどんな顔をして行けばいいんだろう。



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