それは祈りにも似た
その島にはもはや誰もいなかった。
内戦か、略奪か、定かではなかったけれど、ひどい有様だった。壁には銃痕がいくつもあった。ひび割れて、崩れていた。崩れた壁につぶされた死体。
外は砂埃が俟って、死体を覆った。
島中歩き回って、生きた人間にはついぞ出会わなかった。
仲間のほとんどを船に戻して、僕とサボだけ、まだ島に残っていた。
最後に、僕らは教会に足を踏み入れた。僕らが教会に足を踏みいれたのは、本当にただの気まぐれ。もう笑っちゃうぐらいの後手でやることなくなった僕らが、目に付いたから入った。それだけ。
その教会の天井は傾いていた。円錐状の屋根がぽっきり折れて、それでも地面に落ちずにいた。
屋根の天辺に掲げられた十字架がまっすぐ天を指さずに、どこか別なほうをさしていた。
教会の中もひどかった。
互いに互いを殺しあった末路。
「……この国で、例の麻薬取引があったのは確定だね」
「みんな死んじまったけどな」
僕たちがここに来たのは、”天使の依代”なる麻薬の流通を追っていたからだ。強度な身体機能上昇などが主な作用。悪魔の実みたいに、異形に近い何かに変貌するわけではないけれど、それに似た変化を示す薬。
後にその技術は”SMILE"に応用されるわけだが、……それはまた別の話。
「遅かったよねぇ…」
売人はとっくに撤退した後。積荷ひとつ残ってはいなかった。
売人の撤退が内戦がきっかけかどうかはわからないけど、その薬のせいで、この国はこうなったのには間違いないだろう。
ステンドグラスはひび割れてはいたけれど、窓枠にきっちりはまって崩れ落ちてはいなかった。
夕明かりが差し込んで、ステンドグラスに描かれた名前も知らない聖人が目に鮮やかに映った。
――”天に坐す、我らが神に栄光あれ”
ステンドグラスを見上げたサボが、ふと読み上げた。
「……なんか、聞き覚えがある」
「くまが、いってた。ほら、いつも本持ってただろ」
「ああ、……あの文字がいっぱいある」
「ルイはもっと勉強したほうがいいぜ。こないだのリンドバーグの授業サボったろ」
「何の話だろうか」
「リンドバーグが、見つけたら新しい兵器の試し撃ちにしてやるって」
「うへぇ」
僕はあからさまに目をそらしつつ、すごく苦い豆を食べたみたいな気分になった。
「……いと高きところに”栄光と”、神にあれ。地上には平和を布く。
民は神を称え、慈悲と喜びで隣人を愛せ」
サボが記憶を手繰りながら、一節を読み上げた。その後で、「賛美歌なんてなぁ」とぼやいた。
「神様なんていねぇのにな」
サボがそういって、笑うので、僕は内陣に踏み入り、ステンドグラスを背にサボに向き合った。
「僕らのボスに、栄光あれ」
これならどうよ、というように、僕は銃を掲げた。
サボは一瞬目を瞬かせて、背負ってたパイプを持って僕と同じように掲げた。
* * *
命を奪うやつを許さないといいながら、
人を殺す道具を持って、僕はいる。
これなしでは、僕は生きられなくて、
きっと、――死後の世界があるなら、僕もきっと地獄に落ちる。
けれどそれは今じゃない。
――僕は、革命軍と旅をした。
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