透明な子供
敵を知り。
己を知れ。
* * *
ずいぶんと久しぶりの気分で本部に戻ってくると、ハックが子供を拾ってきていた。
どういう経緯でそうなったかのかは分からないが、見る限り、その子供はだいぶハックに懐いているように見えた。……見えるので、”そう”ではないのは分かるのだが。
「……誘拐?」
ハックの人相もあいまって、連れ去ってきたようにしか見えない。
「違うわ!!」
くわっとハックが反射的に噛み付くように言った。おそらく僕に言われるまでに、散々言われたに違いない。
「で?」
僕は頭のてっぺんからつま先まで、じっと見た。背丈は僕と同じか、すこし大きいぐらい。……ふぅん。
その視線が気に入らないのか不愉快なのか、子供はハックの陰に隠れるようにして、しかして目線は僕からそらさずにいた。怯えているくせに、まっすぐ僕を見る目が、………なんだか気に入らないな。
「どうすんの、その子」
現時点で、戦えるか否かといえば後者。でもハックが意味もなく拾ってくるとは思わない。
どうするの、と聞いたけど、答えはほぼ分かってる。
革命軍では身寄りのない子供も保護して、育てている。ハックが主に戦闘面での指導をしている。
この子供も、そうした”身寄りのない子供たち”の一人になるだけ。
「……なんだ、ルイ。ずいぶん機嫌が悪いじゃないか」
「……、…そんなことないよ。いいから、答えてよ」
機嫌が悪いも白状したようなものだ。
僕が本部に戻ってきたのは昨日。それまでずっと、僕はイワンコフについていたから、正直とても疲れている。……白状すると、僕はイワンコフが苦手だ。イワンコフというか、カマバッカの人たちのテンションについていけないから、彼らが苦手。悪い人じゃないのは知ってるけど。心はだいぶ磨り減った。
別に、この子供に会ったから機嫌が悪いわけじゃない。
でも、子供があまり好きじゃないのは確か。うちの軍にいる”身寄りのない子供たち”に、僕は近づこうとはしない。……まぁサボは例外。いまだに勝ち越せないし。と、いうかボスが師になって、マジに勝てなくなってきた。くそぅ。
……八つ当たりの自覚はあるから、早々に撤退したほうがよさそう。互いのために。
「魚人空手を指南している。筋は悪くない」
「―――そう」
僕はもう一度、子供を観察した。
手のひらを見ると、たこができていることに気づいた。……ふぅん。
「もうしばらくしたら、手合わせを頼むかもしれない」
「そういうのはサボに頼めよ」
「サボにも頼むさ」
ハックは僕の不機嫌を意に介さない。
「きっとうまくやれる」
そんな不愉快な言葉を僕の背に投げかけて。
僕は振り払うようにその場を後にした。
* * *
きっとうまくやれると言ったハックの言葉はまるで予言ように、僕とサボ、ハックと子供――コアラと言うらしい――は、しばらくしてチームを組む。
そしてこのチームで行動することが主になって、それは長く続くことになる。
あまり認めたくはないけれど、このチームの関係は割りと楽しくて。
――つかの間の夢を見ている気分だった。
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