As soon as man is born he begins to die. 3
世界を滅ぼす怪物は、ドラゴンの形をしていると、
何かの本に書いてあったことを思い出した。
* * *
ベロ・ベティ率いる民衆軍に対する作戦は、うまくいった。
軍の大半に重軽傷を負わせることに成功し、またベロ・ベティ本人の右脹脛に銃弾を打ち込むことができた。
これにより、一時的ではあるが民衆軍の勢力が弱まった。
しかし依然として武器庫は民衆軍が抑えているし、王国軍の銃弾・火薬そのほか、残りはわずかであった。
王宮の食料庫はずっと前に空になった。もうずっと、まともな飯を食べてない。民衆軍もそれは同じなはずなのに、どうも気力が違うようだった。
しばらくして王宮守護の歩兵が、餓死したのをきっかけに、王国軍内で相次いで餓死者が出た。
軍事工作部隊は国中に独自の拠点を持っていて、そこにある程度の非常食を用意していたのと、地を這う生き物すべて食らうことで、ある程度はしのげていた。
けれどついに軍事工作部隊から餓死者が出た。……僕がずっと指揮していた第1部隊の一人だ。
皆随分とやせた。地を這う虫も、もう見ない。皆食べてしまった。
「…ルイ隊長、東の港に、船が泊まってる」
その日の夜、第1部隊員が報告してきた。
この国に船は来ない。……普通なら。
東の港は、民衆軍が抑えてたはずだ。援軍だろうか。きっと食料も乗っている。
だが……だとすると、もう王国軍に勝機はない。
この国では電伝虫が使えない。いたるところで妨害電波が出ていて、敵味方どちらも通話ができなくなったのだ。つまるところ、民衆軍には電伝虫に頼らない、外部との連絡方法があるということに他ならなかった。
「どうする?」
部隊全員の目が、僕を向く。
ここにいる全員が、軍事工作部隊の全部で。
もうこれしか残っていなかった。
「……交渉しよう。彼らはまだ、王の場所をつかめてない。ずっと王宮に攻め入ろうとしているのがその証拠だ。その情報と引き換えにすれば、……僕らの命をとることまではしないだろう」
「わかった。その旨を伝えるのは俺がやる」
そういったのは、元第3部隊隊長をしていたオーガスタだった。僕より2つ年上だ。
「ルイ、もし俺が戻らなければ、交渉不可だ。そうなったときのプランも考えておけよ」
「……わかってる」
* * *
結論から言えば、交渉の席は用意された。
オーガスタが2人の男を引き連れて、僕らの”隠れ家”に戻ってきた。
条件として、僕一人が行くこと。代わりに、彼らの1人を”隠れ家”に置いていくと言う。
僕としては、僕以外がついてきても困ったので、二つ返事で了承した。
オーガスタがつれてきたもう一人の男に、交渉場所へ案内された。
場所は、東の港にある建物の一室。
その部屋には、顔に刺青のある男と、ベロ・ベティ、あと魚人の3人だけだった。
僕を案内した男は、部屋には入ってこなかった。部屋の入り口は開けっ放しで、多分、その入り口近くに立っている。
ぐ、とあごを引いて、下っ腹に力をこめた。
「……交渉に応じていただき感謝する。僕は王国軍軍事工作部隊隊長のルイという」
頭は下げなかった。
あの刺青の男がボスだろう。僕はまっすぐ、彼を見た。
「あなた方が何者かの仔細は問わない。ただ、この叛乱を引き起こしたのは、あなた方だな」
「……そうだ。人は皆、誰にも支配されない権利がある」
「その結果が、多くの人が死に、国が滅びるものだとしてもか」
死体と、悲鳴と、血しぶきが混じる空気が、生ぬるくて、むせ返りそうな戦場を思い出した。
……一番、最初。
僕が王国軍に入るために仕掛けた、王国軍と民衆軍の激突は、そういうものだった。
「王を殺して、その後、どうするつもりなんだ。この国に、統治できるような人は、もういないよ。叛乱軍のリーダーを勤めていた人は、みんな最初に殺してしまった」
僕はちらりと、ベル・ベティのほうを見た。
彼女は、予想通りこの国の人ではなかった。そんな人が、指揮をするようになったということは、いよいよ叛乱軍に、リーダーがいない。
「それについては、どうにかしよう。壊れてしまった建物の修復ができる職人、食糧輸入、それから統治についての指導ができる人材を置く。この国が復興するまで、われわれができる限りの補助をしよう」
「……、………ぼくの、部隊の子供たち。13人いる。いまさらこの国に残れはしない。……ほかにもあるだろ。安全で、争いのない国。彼らを、そこで保護して欲しい」
すぅ、と僕は息を吸った。
「それを約束してくれたら、僕はいま王がいる場所を教えるよ。王と側近、王国軍の指揮官。これらの首をとれば、あなたたちの勝ちだ」
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