骸の丘



 花が嵐に散っていく。
 君を置いて、僕は往く。

 どうかそこで待っていて。


  *   *   *


 白ひげ及び”火拳”のエースの訃報が届き、サボが倒れて3日。
 ようやくサボが目を覚ましたかと思えば、革命軍全体にメラメラの実の所在をつかむように指示を出した。

「………」

 あの戦争の決着は赤髪がどうにかしたと聞いている。
 埋葬した火拳と白ひげの墓はどこにあっただろうかと、思い出して。
 僕はカラスを探して、見つけた。

「カラス」
『ルイ……? どうした』
「サボは来た?」

 カラスは首を縦に振った。

「いつ?」

 その問いに答えようとカラスが何か言う前に、サボがカラスの元に来た。

「ルイ? カラスに用か?」
「サボ、途中まで、ついていっていい?」

 サボは怪訝そうな顔をした。

「火拳のところに行くんだろ。だから、途中まで」
『……あぁ』

 カラスが思い当たる節があるというように、声を漏らした。何でこういうときに拡声器のスイッチ入っているんだろうか。
 サボはなんのことかはわからないらしいが、どこか途中で降りたい場所があるというのは察したらしい。構わない、と許可が下りた。

「でも今からいくんだろ? ほんの少し、準備する時間がほしいんだけど」
「はいはい… いいって言っちまったしな、早くしてくれ」
「すぐ終わる」

 僕は急いで部屋に戻って、踝丈までの黒いマントを羽織り、目元を隠すように深く帽子をかぶった。


  *   *   *


 現地点から、白ひげ埋葬の場所にいくあいだに、”コルムペリス”を通る。
 ルイの生まれ故郷。世界政府非加盟国のこの国の現状は、新聞にはのらない。今どうなっているのか、気にならないといえば嘘だ。けれど、今まで、一度も寄ったこともないし、寄ろうと考えたこともない。
 きっと、サボに感化されたのだ。

―――おいてきてしまったものが、そのままだったから。

『ルイ、降りる』
「わかった。サボ、後で」
「ああ」

 ルイを乗せたカラスが一羽、島へと降りていく。
 あの島をサボは知らない。
 随分と、にぎやかそうな国だとサボは思った。


  *   *   *


 世界政府非加盟国・”コルムペリス”。
 10年前に長く続いた戦争が終わり、王を持たない国として、復興した。
 かつて王宮があったところに、今は慰霊碑が建っている。
 慰霊碑の前には、遺族だろうか。花を添えて、両手をあわせ祈るように目を閉じている人がちらほらいる。慰霊碑の前はそうして積まれた花だらけで、その花びらが、風に舞い、町中に飛ぶ。

「お兄さん、旅の人かね…」

 慰霊碑を眺めていたら、近くの随分年老いた女性が声をかけきた。
 僕は帽子が飛ばないように、目元を隠すように、手で押さえて、「えぇ、まぁ」と返事をした。

「これは?」
「……10年前、この国は戦争をしていてね。その戦没者の碑だよ……。戦争してたなんて今じゃ見る影もないがね」
「はぁ……」
「立て直しには、革命軍が随分とよくしてくれた……。彼らの旗のモチーフは、この町にいくつもある…。新聞じゃあ戦争屋とも皮肉られていたけどもね… 私たちは感謝しているよ……」
「王が居ないと、きいた」
「ああ… 王制はやめたんだ…… 民衆が、みな、それぞれ考えて…  みんなで国をつくっている…」
「そうか…」

 僕は老婆に背を向けて、慰霊碑へ一歩踏み出した。
 ざっと碑に目を通して、名前を見る。この10年で、文字の読み書きも、計算も、できるようになった。
 慰霊碑には、知った名前がない。ひとつも。それを確認したかった。


 慰霊碑を離れて、島をぐるりと回るように歩き出す。
 町並みはすっかり変わってしまったが、地形はそんなに変わっていない。人目を避けるように歩きながら、だんだんと、道らしい道もなくなってきた場所を通って、そこについた。
 ”隠れ家”は、そっくりそのまま、残っていた。
 埃まみれで、傷だらけで、10年前の戦争の空気が、そこだけ取り残されているようだった。

「――ただいま。置いていってしまって、悪かった」

 そこにはひとつの死体があった。
 肉のひとつも、残ってない、ただの骨だけになってしまっていたけれど。
 まとっている衣服は穴だらけで、ぼろぼろだったけれど。
 僕はずっと、覚えている。


「オーガスタ」




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