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 リズヴェール島を出て,流されるように辿り着いた島.なるべく人目を避けたくて,人気のない場所を選んだが,治安があんまりすぎた.

「……」

 ハエの集る死体が,路地の裏で転がっている.表通りでは怒声に混じってごめんなさいと泣き叫ぶ子供の声が響く.誰も彼も見ないフリ.だって,でないと次は自分の番.

 船から降りるところを見られていたおれは,通りの裏にはいると,わらわらと子供たちに囲まれた.

「……他所から来たおにいちゃん」

 少年たちは次々に懇願する。「どうかぼくらを連れてって」と。
 行きたい場所があると言った.どうにも,目的地があるようだった.行くあてなんて,どこにもなさそうな孤児達が――いったい,何を目指すというのか.

「……どこへ?」

 だからつい,聞き返してしまった.ここで足を止めていても,おれには何の得にもならないのに.
 少年たちは口を揃えて答えた.

「スパイダーマイルズ」

 奇しくも,おれが目指す場所と同じであった.


  *   *   *


 ――貧民街の,一部の子供の間で広まる噂.
 スパイダーマイルズにあるドンキホーテファミリーは,入るものを拒まないという.
 きっとここよりはマシだろうという,期待.
 
 でも、出る方法がない。船がない。場所の名前は知っていても、どこにあるかはわからない。地図が読めない。地図がない。

「……なるほど?」

 わらわらと子供たちに囲まれたおれは,すっかり逃げ道をなくしていた.…いや,その気になればどうとでもなるんだけど.都合がよかった.彼らは目的地へ連れてってくれる人が,おれは目的地に行くための人手が.――長距離を移動する船は,一人では動かせないから.

「地図がないのはなんでだ? <偉大なる航路(グランドライン)>ならともかく,北の海(ノース)の海図ぐらい売ってるだろ」
「…売ってるよ.でも僕らには,どれがスパイダーマイルズに行ける海図かわからない」
「……なるほど?」

 世界の4分の1の海.当然海図1枚なわけがなく,――道理といえば,道理だったか.
 となると,買ってきてもらうのではなく,おれが買いに行かなくてはならないか.

「誰か街を案内しろ」
「なら私が行くわ」

 即答したのは,黒髪の女の子だった.頭に大きなリボンをつけて,メイド風のエプロンをした.

「この中では,私が街に一番くわしいはずよ」
「誰でもいいよ.…うん,じゃあいこうか」

 貧民街を抜ければ,先ほどまでの薄暗さは影もなくし,それなりに賑わっていた.

「ここが街で一番大きな本屋.海図もここなら売ってる」
「そうか」

 本屋に入り,海図のある棚に向かう.

「おや,坊ちゃんにお嬢ちゃん.お使いかい?」
「そう.次の航海でスパイダーマイルズに行くんだって.だからその海図を買いに来た」
「そうかいそうかい,そこなら――」

 話しかけてきた気のいいおやじは,上の棚からごそごそと,紙を一枚取り出して,おれに渡した.

「ありがとう」
「そこは,悪いやつらもいっぱいいるって話だ.護衛は普段より多くいた方がいいよ」
「ありがとう,父様にも伝えておくよ」

 会計を済ませて,店を出ると,案内してくれた女の子が口を開いた.

「別人みたい,びっくりした」
「処世術だよ.あのおやじにはおれらが兄妹に見えたみたいだからな.あとは船を買いに行く.――それまではおれの妹の振りしていろ」
「わかったわ.……お兄様(,,,)」


  *   *   *


 船の購入は,子供2人ではさすがに難航した.それでも,海図と船,ついでに人手も手に入れたおれは,ようやく目的地へと行けるらしい.
 食糧調達組の帰還を待って,日もとっぷり暮れた昏い暗い海を,おれたちは進んだ.