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 ナイトレイブンカレッジ学園長ディア・クロウリーはその日とても上機嫌で,しかしていつも以上に細心の注意を払い,全寮長を呼び出した.
 会議室には教員もそろっていた.会議室に呼ばれた寮長たちはその光景を訝しんで席に着いた.さらにどの寮長よりも先に席についていたマレウス・ドラコニアの姿を見て,これからいったい何があるんだと,不安を募らせた.
 マレウスの隣の席についたヴィル・シェーンハイトは,席に着きかけながらマレウスに話しかける.

「あら,随分珍しいじゃない」
「クロウリーが授業終わりにそのまま僕をここに案内したんだ」

 なるほど,と話を横で聞いていた寮長たちは納得した.呼んでも来ないのであれば,最初から捕まえて連れてくればいい.道理であるが,通常そこまでする必要はない.にも関わらず,というのであれば今回の寮長会議はそこまでするほどのことらしい.
 教員と寮長がそろったのを確認したクロウリーは,会議室の扉が閉め,同時に盗聴・盗撮防止、室内での録音禁止、魔法使用制限などの厳重なセキュリティ魔法を敷いた.
 寮長たちがクロウリーに対し警戒心を露にする.

「おい、クロウリーどういうことだ」

 特に魔法使用制限なんてよっぽどのことでなければ使われない魔法である.少なくとも,学園の寮長会議で普通使用するものではない.発言したのはレオナ・キングスカラーだが,ほかの寮長たちも思ったことは同じである.

「そう凄まないでください.大事なお話です」

 そう言う学園長は,それでも声色に喜色が隠しきれずにいた.

「ルシア・クロラスを我が学園へ招聘することが決定いたしました」


  * 


 ルシア・クロラス.
 薔薇の王国の出身で,古代呪文学と魔法物理学を専門とする魔法士.
 魔法士にとって魔法を行使するにあたり避けられないのがブロットの蓄積である.それをブロットが蓄積しない魔法行使方法を,若干20にして編み出した第一人者.のちにそれは筆記魔法として知られることとなった.
 筆記魔法についての論文を始めて世に出した際,その1週間後に暗殺されかけた(海豹の街襲撃事件).そのあともたびたび誘拐事件や襲撃事件にあっている.「ただの人間相手に暇だよなぁ」とはルシアの談.


  *  


 クロウリーは芝居がかった大仰な手ぶりで話しだした.
「皆さんも知っての通り,彼女には優秀故に非っ常〜〜〜〜に敵が多い.
 それはそれはもう,彼女がどこかに出かければ,必ずと言っていいほど事件が起き,巻き込まれること数知れず.とはいえ,講演していただけるとなればそれだけの価値があることは間違いありません.
 まぁそんなわけですからね,この講演は当然のことながら外部へは一切告知しておりません.
 が! 情報はどこから漏れるかわかりませんからねぇ.当日に何があるかはまったくもって予測できません」

――十中八九何か起きる,とこの場の全員が思った.

「よって,皆さま方にも協力をお願いいたしますよ.くれぐれも! 彼女に危害がないように,警戒を怠らないでくださいね」

 さすがに誰も嫌とは言わなかった.魔法を使うものならば誰しもがその名を知る人物の講演である.面倒ごとが起きた時の面倒さはあまり想像したくはない.何も起こさないのが一番である.

「とりあえず,学園のセキュリティの見直しからするとしよう.先生方にも協力していただきますが,構いませんね?」

 リドルが場を取り仕切る中,イデアは遠い目をした.

(警備を見直すのには完全同意でござるが,あの人を護衛? 冗談でしょ?)

 彼女の研究テーマはブロットとも関係するものであるがゆえに,S.T.Y.Xは彼女の動向をそれなりの優先度で注視している.以前S.T.Y.Xが力ずくで拉致したことがあったが,嘆きの島への運送中に逃げられたことを,イデアは報告で知っていた.その際,運送に用いた乗り物は見るも無残な姿になっており,輸送にかかわった人員は一命こそとりとめたが以降の職務に支障が出ていることも聞いている.自身の魔力を介さない魔法行使が,どれほど脅威か彼らは身をもって学んだわけだ――ともかく,彼女を狙う何者かが学園に来た際,それなりの騒動になることが,イデアには容易に想像がついた.

(め,めんどくさいでござるめんどうでござる〜〜〜〜)

 でも講演は聞きたい.いまなら学生の立場を利用してあれやこれや質問もできる.しかも外部に告知なし! 家からあれやこれや言われる心配もない.――そう考えると,セキュリティの見直しぐらいで済むなら安いものでは? とイデアは思えてきた.むしろ後から知られた方がめんどうくさい.彼女の護衛? いらないでしょ.

 講演までの計画と,当日のスケジュールを組む.
 最終的に,当日までのセキュリティの見直しにリドル,アズール,カリム,イデアが担当し,当日の護衛をレオナ,ヴィル,マレウスが担当することと決まり,この寮長会議は終了した.