「山姥切さん? どうしてここにいらっしゃるんです?」
「……俺が、お前の近侍だから」
「近侍?」
「主君のそば近くに仕えることと言うのが本来の意味だが、俺たちはあんたの手伝いとか護衛の意味で使っている」
「護衛……」
「審神者というのはあっちやこっちや命狙われているからな」
命狙われてるって初耳なんですけど……! そう言えば政府の方から支給されるお給料、おじいちゃんの代理にしては破格の値段だった気がする。学校のついでにという感じでやるって報告したのにおかしいなあと思っていたんだけど、命に関わるなら納得の値段だ。
「そのための近侍だ。危ないことはない」
「あ、有難うございます。頼りにしてます!」
私がそういうと、山姥切さんはすいと視線を逸らした。返事もなくてさみしいな、やっぱり取っ付きにくい人だなあと思ったんだけど、布からちらりと覗く彼の頬が赤く染まっているのを見て思い直した。うん、やっぱりちょっといい人かも知れない。わざわざ残ってくれたんだし。
「でも、そうしたら戦闘の方、四人になっちゃたよね。大丈夫なんでしょうか」
「そうキツいところじゃないから平気だ」
「なら安心です。皆さんが戦っている間、私は何をすればいいのかわかりますか?」
「特に。帰還時にはあちらから連絡が来るし、好きなことをしていていい。一応鏡で様子が見れるが」
「教えてくれて有難うございます、助かります!」
おじいちゃんが使っていたらしい審神者の部屋に行くと、皆を呼び出した部屋にあったのと同じ鏡が置いてあった。使い方がわからなかったんだけど、手に取った瞬間戦場の様子が映った。まだ敵と遭遇していないみたいで、落ち着いた様子で進行している。よかった。
「う〜ん」
しばらく鏡を眺めていたけれど特に変わった様子はない。幼い外見の小夜くんも薬研くんも長い間歩いているというのに疲れた様子も不満も見せないし、付喪神と人間を同じに考えてはいけないのだとなんとなく感じた。安心できると悟った瞬間気が抜けてしまうのはどうしたものだろうか。出陣がどれだけ時間がかかるのか分からないが、少なくとも数時間は必要だろうしずっと見ているにも限界がある。薄情な主人でごめんねと心の中で謝罪しつつ、学校の課題を引っ張り出した。学校と審神者のダブルワークなのだ、時間を有効活用させてもらってもいいだろう。
そうしてどれほどの時間が経ったのだろうか。私が課題に勤しんでいる間、山姥切さんは一言も喋らなかった。視界の端で確認すると膝を立てその間に頭を埋め、刀の持つところ(名前がわからない)に手をかけたままの姿勢で固まっていた。
「あの」
「どうかしたか」
「山姥切さん、好きなことなさってもいいんですよ?」
「特にない」
「ずっとその体勢だと疲れるでしょう?」
「慣れている」
あ〜ダメだ〜。この人社畜の才能あるわ〜。皆が仕事をしているのに自分ばかり自分のことをするのも気が引けてノートを閉じてしまう。どうしたものかと考えていると、私の視線に気付いた山姥切さんが静かに問うてきた。
「……なんだ」
「少しお話しませんか?」
「俺はあんたに話すことはない」
「じゃあ私の勉強のためだと思って」
「それなら」
最初にぶん殴られたせいで怖い人だと思っていたんだけど、根暗というか発言が少ないだけで悪い人ではないんだよね。付き合い悪いけど聞いたら答えてくれるし。彼は私の近侍らしいから、これから一緒にいることも多いだろうしできたらいい関係を築いておきたい。さて何から話したものか。
「あ、ちょっと待ってて。お茶入れてきます」
「……無理して敬語を使わなくてもいい」
「え、いいの?」
「いい」
いい人だ!と山姥切さんの評価を上げつつお茶の準備をする。実はこれ話題を考えるための時間稼ぎだったり、するんだけど、何故か山姥切さんが付いてくる。例えるならば雛のように。
「あの」
「なんだ」
「なんで付いてくるの?」
「護衛だから」
「ちょっとだよ!? ほんの数分だよ!?」
「だが、前の主は……」
「ん?」
「何でもない」
変な山姥切さん、というと変じゃないと小突かれた。初日の衝撃で思わず身体が硬くなったんだけど、それを察した彼が心の底から申し訳なさそうな声で、小さくごめんと呟いた。その反応が可愛すぎて全てを許した。
「あとできたら山姥切という呼び方はやめて欲しい」
「なんで?」
「俺は山姥切の写しだ。山姥切という号の刀はほかにある、から」
「あ、ごめんね。じゃあなんて呼べばいいの?」
「……それ以外ならなんでも」
「じゃあ国広、とかどうかな?」
「それでいい」
その時の彼の笑顔は、綺麗と形容する他ないほど完成されたものだった。
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