障子くんの人生はひたすらにシンプルだった。筆箱は無印で売ってるような透明なケース。シャーペンだって白か黒、たまに派手なのがあったとしても単色で柄はなし。寝落ちして予習ができてないときに見せてもらったノートだって、シャーペンの黒と丸付けの赤と間違えたときの青色の三色で構成されていた。そんでもって彼の字は、少し角ばっているけれど端正で、教科書に載ってるお手本のような字で、遊びというものも見えなかった。
私は自分のノートを見た。癖のある丸字。雰囲気は可愛いけど、お世辞にも上手だとは言えない。赤青ピンクにオレンジ緑、様々な色がノートの上に散らばっていて、喧しかった。よく授業中かくんと落ちてる上鳴くんにノートを貸したときだって、まとまってて見やすいと褒められたし、このカラフルなノートを恥ずかしいなと思ったことはないんだけど、障子くんに対して憧れてしまって、どうしても真似したくて、仕方がないのだった。
障子くんはひたすらにシンプルで、それ故にわかりやすい正しさを持っている。クラスメイトの爆豪くんが敵に攫われる事件があったときだった。私は、上手に戦闘を回避して逃げていたからその場にはいなかったのだけれど、怪我をおった緑谷くんを背に追いながら敵と戦っていたと聞く。まだ学生なのに、仲間のためにギリギリまで戦って、それを怖いとも言わなくて、目の前で攫われたことが悔しいという気持ちを持っていても、正義のためにそれを押し殺す強さを持っている。
私は弱虫だから、戦って負けたのは仕方ないなって思ってしまいそうだった。最善は尽くしたって言い訳しそう。だから助けに行こうって考えにもならないし、仮にそうなったとしてもルールに合わないからって言い訳して目を逸らしそうだった。助けに行こうって言った切島くんの強さも、彼の気持ちを理解し、肯定した上で間違ってるって言えた障子くんの強さも、私は眩しくて、その時からずっと憧れていたのだ。
「これでも、……喰らえっ!」
「甘い!」
授業の模擬戦闘で、私が一生懸命に考えた新技は軽々と障子くんにかわされてしまった。そのままくるっと私のターゲットにタッチ。これは相手に捕まったサインになる。
「う、ううう〜!!」
「今のはなまえちゃんに落ち度はないよ……交した障子くんが凄かったって感じ」
「お茶子ちゃん、ありがとぉ」
仮免試験に例年より早く合格したこともそうなんだけれど、一年からインターン組が出たせいか、私のクラスの戦闘能力はとても高い。インターン組に触発されて、みんなが負けじとめきめき実力を伸ばしているからだ。みんなは切磋琢磨するいい仲間でもあるけれど、ライバルでもある。ヒーローになるのなら、ここで遅れを取ってはいけないのだ。
個人的な、主観なのだけれど。障子くんの動きには無駄がない。彼の生き方のように、文字のように、シンプルで綺麗だった。他の人と対戦しているときに、思わず見惚れてしまうほど。それに対して私といえば、相澤先生に「隙が多い」と毎回指摘されてしまうのだ。私は臆病な弱虫だから、もし敵があちらから来たら、この方法で駄目だったら、ぐるぐるぐるぐる考えてしまう。考えているから動きが鈍って、予測していた方法で攻めてきたときも遅れを取ってしまう、駄目な女の子だった。
「障子くーん! ごめんね、なんか間違えて持って帰ってたみたいで!!」
男女の寮が別れているとはいえ、消灯までの行き来は割と自由なのが雄英のいいところであった。進級しても同じクラスで隣の席の障子くんに辞書を借りたまま持って帰ってしまったポンコツ具体。
「みょうじ」
「相変わらず何もないね……私なんてさ、たまに外出したときに嬉しくて要らないもの買い過ぎちゃってもう人形おくとこないよ」
ガラン、とした障子くんの部屋に離れたつもりだったけど、たまに寂しくなってしまう。もし、実習のときに事故があって。そのとき障子くんがいなくなっても、彼がいた証をどこにも見ることができなくなりそうで……。
「どこにも置くことができなくなったら一つ引き取ってもいいぞ」
「いいの!」
「やけに嬉しそうだな」
「うんっ! だって障子くんはものとかにこだわりがなくて、考え方とかもシンプルな正論で無駄が一切ないから、余計なものの中に私がいるととっても嬉しいの」
「どうしてだ?」
「あっ」
私はいつだってポンコツのまま。嬉しくって余計なことまで口走ってしまった。
「えっとぉ〜それは」
「それは」
「私が障子くんのことが好きで、なんかこう、シンプルな障子くんの人生に紛れることができたら嬉しいなとか思っちゃったりして……」
ああ、何を言ってるんだろう。余計なことを言う私の人生は無駄が多い。部屋だけでなく、思考もきちんと整理するべきである。
「流石の俺でも指輪くらいは新しく追加すると思う」
「どういうこと?」
「他の誰でもない、俺がお前を幸せにするからってこと」
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