「わあ〜凄い! 遊園地だ!」
飛行場から降りて、ゲートを超えるとそこは魔法が現実になった夢のような国――ではなく、個性と科学技術の粋を集めて非日常を演出しているだけなのだが。
「あっ、観覧車ある! あの乗り物乗りたい! 売店においしそうな食べ物が!」
「先にホテルに荷物置いてからな」
「しょーちゃん冷静過ぎない?」
「自分よりはしゃいでるやつ見るとかえって冷静になる」
案内板のところで貰ってきたらしい地図を見ながらあっちだ、としょーちゃんが先導してくれる。飛行機の手配だけでなくホテルの予約もエンデヴァーさんに任せてしまった。そしてあろうことか旅費までエンデヴァーさんが負担してくれたのだが、その代わりにこっそり「焦凍の記録を頼む」という任務を任されている。ここでは戦闘やヒーロー活動をする機会はないから、純粋に楽しんでいる息子の記録だろう。遊園地で楽しむ写真、正装姿は私の家でいうピアノの発表会のようなものだろうか。今まで作られることのなかった轟家のアルバムが、ようやく埋まり始めるのかもしれない。通り過ぎた過去はどうやって埋められないけれど、そのぶん今から未来は埋めることができるから。
「予約していた轟です」
私も轟さんに思われてるのかなと想像したら少し恥ずかしくなってしまってそっとフロントから離れる。そしてチェックインはしょーちゃんに任せて、高そうなホテルだなあ、さすがI・アイランドだなあと感心していたところに、ホテルの従業員を従えたしょーちゃんが気持ち渋い顔してこっちにやってきた。
「どうしたの?」
「いや……鍵が」
「うん?」
「……鍵が一つしかねぇんだ」
「うん!?」
それは……もしかして同室ってこと……? エンデヴァーさんを以てして部屋が一つしか取れなかったのだとしたら、エキスポ、恐るべし!
とは言ってもお互いに恥じらいはない。着替えの問題さえクリアしてしまえば、私としょーちゃんは毎日お互いの部屋で生活しているようなものなのだ。今更である。……と舐めプをしていたら違う所で度肝を抜かれた。
「ひ、ひえ……」
「まあ二人って言ったらこんなもんか」
少女漫画でいう手違いでドキドキの同室☆ 気になる彼(恋人)と同室……!?イベントだと思ったら実質二部屋だった。イメージとしては二部屋の壁をぶち抜いて行き来を簡単にできるようにした感じだろうか。一部屋分でも普通の部屋より広いのに、それが二部屋分……と一般家庭の私は轟家のセレブリティに恐れおののくしかなかったのだ。
「何言ってるの!? 広すぎますからね!?」
「そうか」
出た〜〜〜〜〜〜!!!!! しょーちゃんの伝家の宝刀「そうか」! 会話をするのがめんどくさくなった時にぶった切ってくる一言。返事をしておけば許されるとか思ってる雑さ具合を、幼馴染の私が見抜けないと思ってか! どさっと荷物を置いてこっちも見てないあたり興味がないのまるわかりなんですからね!?
「何ボケッとしてんだ。さっきまであんなにはしゃいでたのに。時間なくなるぞ」
「あっ! そうだね、そうだよね。プレオープンでもあんなに沢山人がいたんだから全制覇できなくなっちゃう」
「全……制覇……?」
まじか、という感情がもろに出ているしょーちゃんの腕を引っ張って部屋から引きずり出す。
「郷に入っては郷に従え。まずはエキスポ限定の耳から探します!」
「それだけは勘弁してくれ」
「探します! 写真も撮ります!」
「……こんなことなら日本に置いてくりゃ良かった」
「しょーちゃん酷いよぅ」
その言葉が冗談なのを知っているから、私は腕に入れる力を強くするだけで許してあげたのだ。
「あ」
耳は残念ながら売っていなかったので、代わりにポップコーンで我慢して、あちこちの乗り物を満喫していた私たちだったが、眼鏡がとらえた看板を拡大すると興味深いものを見つけることができた。私が一点を見つめていることに気付いて、しょーちゃんが声をかけてくる。
「どうした?」
「ヴィランアタック、記録塗り替えた人が景品もらえるみたいなんだけど……」
「ああ、お前でかいぬいぐるみ欲しがってたもんな。これ何時からだ?」
「まだ大丈夫みたい。いいの」
「欲しいんだろ」
「うん! ありがと、しょーちゃん」
私はしょーちゃんのこういう優しい所が好きだ。自分の手の届く範囲なら、当たり前のように伸ばして守って与えてくれるところ。そうして同時に、自分なら優しさを与えることができると一切疑っていない傲慢なところに、じくり、と心の柔いところを刺されるのだ。