観覧席に座ってしょーちゃんの出番を待つ。本当は柵の前に立って一番いいところで応援したかったのだけれど、さっきからずっと頭痛がしていたので休憩が必要だと判断したのだ。今日はまだ半日ある。そして夜にはパーティがある。体調管理も仕事の内だ。しょーちゃんの出番はまだかな、と待っていると見知った顔が現れた。

(切島くん? 爆豪くん?)

 一体彼らがどうしてここに、と驚いていると、さらに見知った顔が増えることになる。

「切島くん!? かっちゃん!?」
「あれ、来夏ちゃん」
「えええええ! 春次さんも?」
「わあ! お茶子ちゃん、緑谷くん、奇遇だねえ」
「その子も同じ学校の子?」
「はい! 同じヒーロー科と……春次さんは普通科です」
「えっとそちらは?」

 お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、百ちゃんにじろちゃん、そして緑谷くん。ここまでは同じクラスだからで納得できるんだけれど、金髪で眼鏡の知らない女の子がいた。いったい誰の知り合いなんだろうか。百ちゃんのお友達かな?

「私はメリッサよ。よろしくね」
「私は春次来夏です。こちらこそよろしくお願いします!」

 メリッサと呼んで、じゃあ私は来夏と、なんてやり取りをしていると、緑谷くんに気付いた爆豪くんが飛びかかってきて、流れで緑谷くんも参加することになった。緑谷くんの試合はぜひとも見たい。だってしょーちゃんは、彼と戦ったことをきっかけにして変わったから。私にできないことをした緑谷くん。何をしてあげればよかったのか、私はその答えが知りたい。痛む頭を無視して、個性とサポートアイテムの使用を開始する。

(凄い風圧……体育祭の時は思わなかったけど、構えだけでこの威力? 敵の数と座標を補足して。この速度なら最短距離で行くと時間は……)

 ぐるぐるぐるぐる、回る。世界が、数字が、映像が。すべてが一気に脳に流れ込んでくる。まだ前のタスクが残っているのに次のタスクを消化して、理解が一瞬遅れてついてきて、時差にギャップを起こして、戦闘についていくだけでもやっとなのに、さらに、敵の動きを解析して指示も与えないといけない?

「もしかして……」

 隣のメリッサさんが何か呟いたような気がしたけれど、反応する余裕もなかった。時間にして二十秒もなかったのに、くたくたになっていた。そして解析の結果、緑谷くんは強化系の個性で、そのパワー・スピードとも申し分ないことは分かったが、何がしょーちゃんの心を動かしたのかはわからなかった。

(きつい、な……)

 倒れないようにぎゅっと柵を握る。爆豪くんの怒鳴り声が頭をガンガン殴りつけているような錯覚に陥りながら、先ほどのデータを編集する。が、それはすぐに中断されて録画することになった。一瞬で展開される大氷壁。

「しょーちゃん!」

 爆豪くんの記録も抜いたしょーちゃんに歓喜の声を上げる。ぴょんぴょんと跳ねてアピールしたら、しょーちゃんが私を見つけて、ふっと微笑んだのが見えた。こういうの、特別って感じで、ちょっと照れてしまう。

「おう。……緑谷も来てたのか」

 ぎゃあぎゃあ騒ぎ出した男子たちを賑やかだなあと思いながら、私は一人でベンチの方へ戻っていった。頭の痛みが限界に達していて、もう立っていることもできなくなったからだ。先ほどから立て続けに動画を撮ってたことと、演算していたこともあって、データで頭がパンパンだから不必要なものをメモリから削除しないと記憶を保っていられなくなる。サポートアイテムから伸びていたコネクタを引っこ抜き、USBを刺してデータを移行していく。

「大丈夫?」
「メリッサさん」
「具合悪そうに見えたから」

 一人で作業していると、メリッサさんが隣に座った。周りのことをよく見て、心配までできるメリッサさんの気遣いが嬉しいと同時に、こんな素敵な女性になりたいと思った。聞けばI・アイランドのアカデミーの三年で、二つしか違わないのに。私はあと二年でこんな素敵な女の人になれるだろうか。

「ちょっと個性を使いすぎてしまって」
「個性? 来夏ちゃんの個性はなんなの?」
「カメラです。えと、カメラって言ってもイメージはスマートフォンみたいな感じで、今はその機能の一部分だけ使ってる感じです」
「凄い! とっても素敵ね!」
「そんな……私なんて個性の扱いがまだまだで」
「それは誰と比べて?」
「え、」

 具合悪そうに見えたから、と純粋に心配してくれたメリッサさん。個性を心の底から称賛してくれたメリッサさん。笑顔が素敵で、マイナスな言葉を言わない、素敵な素敵な女の人。直感で私は彼女をそう認識していたから、問いかけとともに投げかけられた鋭い視線にたじろいでしまった。

「ああ、ごめんね。怒ってるわけじゃないの。その眼鏡、サポートアイテムだよね」
「はい」
「とってもいいものでしょ。私自分でもサポートアイテム作ってるから、こういうの詳しいのよ?」
「見ただけでわかるんですか? これ、しょ、……幼馴染のお父さんが用意してくれて。プロヒーローの伝手なので、かなり性能いいと思うんです」
「プロヒーローの知り合いがいるの! 私もね、マイトおじさまと知り合いなのよ。……じゃなくて。そのサポートアイテムは確かに性能がいいわ。エキスポで展示されたものに比べても遜色ないくらい。でも、でもね。来夏ちゃんの個性、まだそのサポートアイテムに追い付いていないと思うの」

 絶望だった。能力不足だと、アイテムを作る側の人に判断されてしまったのだ。自分でも薄々感じていたことをはっきり言われてしまうと、逃げ場がなくなる。頑張れば、頑張ればしょーちゃんと並べるんじゃないかって、そんな淡い希望すら見えなくなってしまう。

「来夏ちゃんにはもっと別のサポートアイテムが似合うと思うの。よかったら、今度私の研究室に来てみない?」
「はい……」
「よかった、これ私の連絡先」
「あ、りがとうございます」
「そんなに落ち込まないで。責めているわけじゃないの。個人にあったアイテムを作るのも私たち科学者の役目だから。そのアイテムは来夏ちゃんのために作られたわけじゃないでしょう」

 メリッサさんは優しい。優しいから初めて会った私の身体のことを心配してくれるし、自身の作品も分け与えようとしてくれている。でも、優しさって、時に残酷になるものなのだ。

「来夏」
「しょーちゃん」
「どうしたんだ。気分でも悪ぃのか? 流石にはしゃぎ疲れたか」
「もう! なんでしょーちゃんは私を子ども扱いするのっ」

 しょーちゃんに元気のない顔は見せられなくて、ぱっと気持ちを切り替えて演技をする。無理矢理にでも明るい気持ちになると、気持ちまでつられてくるから不思議なものだ。

「そんだけ怒れるなら大丈夫だな。ほら」
「こ、これっ!」
「欲しかったんだろ、貰ってきた」

 手渡されたのは、一メートルはある巨大なクマのぬいぐるみ。抱っこしてみると存外重たく、ちょっとふらっとしてしまった。でも嬉しくて、クマを抱きしめたままぐるぐる回る。

「わあ、可愛い! 大きい!」
「喜んでもらえたならよかった」
「喜ぶよ。だってしょーちゃんが私にくれたんだもん!」
「欲しいもん、何でも言えよ。全部やるから」

 優しさは、時に残酷になる。だけど何故だろう。しょーちゃんのこの言葉は、純粋に嬉しくて、胸の中をぽかぽかあったかくしてくれたのだった。
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