「来夏、何笑ってるんだ?」
「なんでもないよ」
「本当か? それよりそろそろ着替えねぇとパーティ間に合わないんじゃないか」
「わ、本当だ。飯田くん、遅刻すると怒っちゃうからね」
急ぎホテルに戻ってお互いに持ってきた正装に着替えることにする。しょーちゃんは白スーツに赤ネクタイ。髪の配色と同じだなあ、とか個性を意識して買ったのかなとかいろいろなことを思ったけれど、白を選んでくるのがずるい。着る人を選ぶのにさらっと着こなしている姿は、童話の中の王子様のようだった。
私は冬美お姉ちゃんから借りた氷を想像する色合いのドレスだった。しょーちゃんの隣に並んだときに映える色とデザイン。本当だったらここに並んでいるのは冬美お姉ちゃんだったはずなのだ。エンデヴァーさんによって隔離されたきょうだいたちの仲を引き裂いて彼の隣にいるのは私だ。その事に罪悪感を覚えながら、それでも我儘な私はしょーちゃんの隣を譲れないのだった。いくら恨んでも憎んでも切れることのない、心がけ次第でやり直せることができる家族という明確な絆を持たない私は、ずっと隣を歩いていくために努力をしないといけないのだった。
「来夏? 何か」
「え、あ……ちょっと背中のファスナーが」
「それくらい早く言えよ」
考えていたことを口に出すこともできず、咄嗟の言い訳をしたら躊躇いもなく背後に回り込んだしょーちゃんがドレスのファスナーをあげた。こう言った頼み事は、私の背面にUSBポートが付いてるのでよく差し込んでもらっていたので慣れているのであった。
「これで準備完了か?」
「ううん、これからヘアメイク」
「え」
「予約してるから行ってくるね」
「……来夏はそのままでも十分可愛いと思う」
「ありがとう。でも女の子の準備は時間がかかるものなの。覚えておいてね」
少しくらいは本音が混じっていたのかもしれないけれど、顔に思いっきり「これ以上待ちたくない」と書いていたので、無慈悲に待機を言い渡した。その時のしょーちゃんの顔が面白かったので、メモリに記録した。
「遅いぞ!」
緑谷くん、そして女性陣が集合時間に遅れているので飯田くんがフルスロットル。元気だねえというと、すでに散々待たされているしょーちゃんは気持ち疲れた様子で人の髪の毛を弄って暇をつぶしている。
「セット乱れちゃうからやめてよ」
「眼鏡外したら止めてやる」
「あっ」
止める間もなくしょーちゃんは私の眼鏡を奪い取って胸ポケットへ隔離した。返してよ、それ預かりものなんだよ、壊さねえから、とじゃれていたら皆が集合した。百ちゃんから借りたらしいドレスでめかしこんだ皆と、着飾ったメリッサさんは吃驚するほど可愛かった。さてこれから会場へ向かうかという空気になった途端、いきなりアラームが鳴る。警備システムが発動したらしい。
「携帯が圏外だ」
「エレベータも止まってる」
「しょーちゃん眼鏡返して」
緊急事態っぽいので情報を得るために眼鏡からネットワークへ接続しようとしても、こちらも繋がらなくなっていた。では会場へ移動してプロヒーロたちに指示を仰ぐしかないか。確か内蔵プログラムに簡易ハッキングシステムが付いていたはず。操作盤に接続して試してみるけれど、うんともすんとも言わない。
「せ、セキュリティ固い……」
「何やってるんだ?」
「ハックできないかと思ったんだけど、無理みたい」
ああ、私がもっと早くから決意して、トレーニングをしていたら。こんな場面で役に立てたかもしれないのに。
メリッサさんの指示で会場付近まで移動して、じろちゃんの個性と緑谷くんが鏡で合図をしてオールマイトと連絡することに成功した。オールマイトが動けるようになれば、彼なら全員を助けることができる。しかし人質を取られたままでは十全に力を発揮することができない。オールマイトを助けるためには最上階まで行って制御システムを解除することが必要になる。緑谷くんの演説にお茶子ちゃん、しょーちゃんが賛成して、反対していた飯田くんも賛同して、怯えていた峰田くんも決意した。そしてメリッサさんも助けに行く決意をする。
「あ……」
最後に皆の視線が私に集まった。
「来夏ちゃんは、どうする?」
皆を代表してお茶子ちゃんが問いかける。私の、私の答えは。
「
「来夏ちゃん……」
「では、敵に見つからない様に迷彩マントをお創り致しますね」
誰も、その選択を否定しない。ああ、私は役立たずのままだ。その事実が悲しくて、泣きそうになるのを必死でこらえていた。
「来夏」
「しょーちゃん」
「お前はここで大人しくしてろ。絶対にあとで迎えに来るから」
泣かないように耐えている私を恐怖に耐えかねていると判断した彼は、私を優しく抱きしめる。守るように、包み込むように。これはしょーちゃんの優しさで、愛情だ。私を大事に思っているからこそ、置いていくのだ。それが一番、私を安全に守れると信じて。
「うん、うん。分かったよしょーちゃん。約束してね。迎えに来てね」
「ああ、約束するから」
そしてしょーちゃんは私の額にキスを落とした。ああ、どこまで気障な王子様だろう。世界で一番格好良くて、強くて、残酷な王子様。残されるものの悲しみなんて想像もできない完璧な王子様!
守られてばかりの役立たずのお姫様は、せめて彼の前で涙は見せないようししよう。戦場へ行く人に向けていいのは笑顔だけ。心配をかけない様、気兼ねなく全力をだしきれるよう、サポートするのが私の役目なのだ。そうして彼らの姿が完全に見えなくなったと、百ちゃんが創ってくれた迷彩マントで身を隠しながら、しょーちゃんの温もりを思い出しながら私は泣いたのだった。
「強く、なりたい……」
そう、祈りながら。