※R15くらい ちょっと人を選ぶ内容なので閲覧は自己責任でお願いします。八重さんへ捧げます
横一列前へならえ。社会は異端を許さない。超人社会になってもこの社会の本質は変わらなかった。人類が人類でなくなり、画一的が不可能になっても、それでもまだ等しくあれと上からの圧力で押し込めようとしている。それが敵による凶悪犯罪の悪化の原因の一因である――なんてちょっと格好いい事を言ってみる。
何が言いたいかというと、人間が個性を手に入れようが手に入れまいが、人間は怖いってことだ。
私の個性は強くもなく、日常に支障をきたすものでもない、平凡なものだった。中学三年生の八月にもなればそろそろ受験も視野に入ってくる。私の中学校では良くも悪くも目立つ爆豪くんが超難関の雄英高校を受けるという噂がまことしやかに流れていた。一方、私に関して。なれるものならなってみたいけど、ヒーロー向きの個性ではないのでヒーロー科は諦める。そうすればサポート科や経営科、普通科あたりが妥当だろうか。そこのあたりは座学だけで受験が可能なので、私は友達と適度に遊びつつ、それなりに勉強する夏を過ごしていた。
今日もクラスの友人に誘われてプールに行ったあとだった。今年最大の猛暑だとニュースで騒がれた日に外出なんてとんでもないと思ったけど、水に浸かっているうちはそれなりに涼しかった。しかし問題は帰り道である。せっかく涼んだというのに、夏の日差しに刺されて私は今にも死んでしまいそうだった。
「あ、暑い……」
日焼けもお洒落も諦めて、Tシャツにショーパンという快適さだけ求めた服装も夏の暑さの前には無意味であった。暑くて暑くて何も考えられない。ぼうっとしたまま家までの道のりを歩いていると、誰かに肩をぶつけてしまった。
「ってえな」
「あ、ごめんなさい」
「アア? てめぇ……」
「ひいいっ」
「ちょっとこっち来いや」
爆豪くんだった。暑さのせいかいつもよりギラギラ獰猛な瞳に逆らえず、私は彼の言いなりになってしまう。なんで私に声をかけたのかもわからない。顔は整っているし運動も勉強もできて個性が派手だから密かに女子人気はある爆豪くんと私は同じクラスとは言えほとんど話したこともない。爆豪くんは目付きや言動が悪く一見すると不良である。つるんでいる人もそんな感じだし、いつも同じクラスの地味目の男の子――緑谷くんを虐めている。無個性は確かに珍しいし、個性社会の中で個性がないということは劣っているとされていじめられてしまうのもわかる。わかるけど、私は率先していじめるような男の子は嫌いだった。
「あ、あの、どこに行くんですか?」
「ア? 俺ん家」
「なんで!?」
「俺の家今ババアいねえから平気だって」
意味がわからない。家に人がいないというのもまた不安を煽る。けれども彼は私の手をしっかり掴んでいて、女の力では振りほどくことができなかった。私は一体彼に何をされてしまうんだ。
「爆豪くんの家で、何をするの?」
「ンなもん決まってんだろ、セックスだ」
「はぁ!?」
投げかけられた言葉の意味も、それに選ばれた理由もわからなかった。ああ、今日があまりにも暑いから熱されてタンパク質が変容してしまったのだろうか。それならば一人でおかしくなっていればいいものを、私を巻き込まないで欲しい。
いや、はなして、やめて。抵抗しても無駄だった。挙句には「あんまりギャーギャー騒いでると爆破すっぞ」とのお言葉で、もう為す術もなかった。連れ込まれた彼の部屋でベットに投げ捨てられる。リモコンを操作してクーラーを付けている間に逃げられないかと試したけれど、いつの間にか鍵がかけられていて無駄なあがきに終わってしまった。逆らったことにより反感を買ったのか、酷く乱暴にベッドに押し付けられ、噛まれた。
「痛い」
「言うこときかねー犬には当然だろ」
「なんで、私なの」
こんな平凡な私を選ばなくたって可愛くて爆豪くんを好きな女の子なんてたくさんいる。よりにもよって自分のことを嫌いな女の子から選ばなくても良かったじゃないか。早い子はもう彼氏と済ませたという話も聞く。だからこれから何が起こるのか、なんとなくだけど分かっている。それが良くないことも知っている。
「ムラムラした時にイイ身体してたから」
最低。
「見たことある顔だったし、お前なら絶対学校チクんねえだろ」
しかもみみっちい。だけど、よく見ている。私はこういうことがあっても泣き寝入りするタイプだ。なかったことにして、平穏な毎日を大事にするタイプだ。
「はじめるぞ」
なすがまま。稼働し始めたばかりのクーラーはまだ全然涼しくなくて、だから爆豪くんからは汗の臭いがするはずなのに、何故だか甘い匂いがした。暑さで茹だる私の脳はくらくらとその香りに魅了されてしまうのだった。きっと夏には魔物がいる。目に見えない魔物。脳の機能を劣化させて、理性を食って本能をむき出しにする。
「塩素の匂いがする」
「プールに行ってきたの」
「夏だからか」
「うん」
夏の魔物に食われた獣は、私に食らいついた。
すべてが終わったとき、部屋は文明の利器によってキンキン冷やされていて、私も彼も理性を取り戻していた。もう日暮れだ。あまりに遅くなるとまずい。
「爆豪くんこういうの慣れてるんだね」
「初めてだ」
「そっか初めて……え!?」
「うるせえな爆破するぞ」
だってうまかったからてっきり何回もしてるのかと。発言もあれだったし。私の表情を読んだ彼が不機嫌そうな声で言った。
「指伸びるモブが、彼女とそーゆーことしたってうっせぇから」
「それって悔しいから誰でもいいからヤりたかったってこと?」
「……」
返事はないけれど、その沈黙は何より雄弁に語っていた。横一列前へならえ。社会は異端を許さない。超人社会になってもこの社会の本質は変わらなかった。人類が人類でなくなり、画一的が不可能になっても、それでもまだ等しくあれと上からの圧力で押し込めようとしている。けれどその均一な社会の中で、爆豪くんは常に一人だけ抜きん出ていた。だから自分が誰かに遅れを取るのが許せなかったのだろう。たったそれだけの理由で私を組み敷いたのだろう。理解は出来たけれど、納得はできない。
「最低」
「知ってる」
なじろうとする私の言葉を彼は唇で塞いだ。息ができない。上手く呼吸ができなくて酸素が足りない頭がぼうっとする。ああ、またあの状態だ。甘い匂いに侵食されている。夏の魔物だ。日が暮れたあとの闇からも私の方に手を伸ばし、私の肢体を喰らおうとしている。
ethica
|
|