赤い糸の伝説を知っているだろうか。そう、左手の小指から赤い糸が伸びていて、運命の相手と繋がっているというあれ。笑わないでほしいのだけど、私はそれが見える。様々な個性がある中で、寄りにもよって「赤い糸」という個性になるなんて勘弁してほしかった。正直これなら無個性のほうがよかったと思えるくらいだ。その理由については、まあ後々語るとして、私の個性についての説明をしよう。
 私の個性「赤い糸」は運命の赤い糸が見える。鋏で切ったり結んだりもできる。切り込みをいれないのであれば糸を引っ張ったりして他人を転ばすなどの些細ないたずらも可能。そして経験から分かったことは、

1 運命の赤い糸で結ばれている人と結婚するとは限らない。
2 夫婦でリボン結びの人は運命の人と結婚していない。繋がっている人は運命の人と結婚している
3 自分の運命の人が誰かと結婚している場合、糸は切れている

 の三点だ。小さい頃に公園で遊んでて、通りかかったリボン結びの夫婦の糸を誤って解いた瞬間に大喧嘩が始まってしまったのはいまだにトラウマだし、自分の両親がリボン結びなのを見るといつか離婚するかもしれないって思って怖いし、好きになった人が幼馴染と糸が結ばれていて自覚した瞬間に失恋確定したのもきつかった。幽霊と同じで見えて何の得もないしむしろ見えないほうがいい。個性故かなんなのか、私は割と惚れっぽい性格だが、その都度赤い糸のせいで失恋してきた。赤い糸が繋がってないからと言って付き合えないわけではない。出会えたら確実に結ばれるのであって、お互いがまだ出会ってないのなら付き合うことも可能である。……だからと言って付き合った翌日に転校してきた女の子が彼氏の運命の相手だったのは冗談にもならないけど。

 さて、高校に入学して数日。私は早速恋をした。道に迷って困っているところをぶっきらぼうだけど教えてくれたツートンカラーの髪をしたクールな王子様に一目ぼれしてしまったのだった。教科書をさっそく忘れた馬鹿な私は、同じ中学校だった三奈ちゃんに教科書を借りにヒーロー科へやってきた。そこで王子様と再会してこれは運命始まったわ……結婚まで来たわ……と内心ガッツポーズした時のことである。

「ん!?」
「え、どしたのなまえちゃん」
「*でしょ……?」

 同じ中学校の切島も三奈ちゃんと同じクラスだ。まあそれはいい。問題はその切島が話しかけている金髪の男である。見間違いかもしれないので近くまで寄っていく。「おーみょうじも同じ学校だったんか!」なんて声かけてくるお前はなに髪染めて調子のってんだ。

「間違いでありますように!!」

 すっと自分の小指から糸に指を滑らせて確実に触れたあと、思い切り引っ張った。するとどうでしょう目の前の金髪腰パン目つきの悪いヴィラン顔男が盛大に椅子から転げ落ちたではないか。私の小指から繋がった糸を引っ張ったら目の前の男がこけた。つまりはそういうことである。

「ああ……」

 と、私がまた失恋の痛みを抱えてため息をこぼす。

「あっ、あああ……」

 と、切島も何かを察してくれたみたいだ。そうか、お前は私の個性と男運のなさ知ってるもんな。そんなんだよ慰めてくれよと彼の顔を見ると青ざめたままで別のところを見ていた。ん? と思って視線の先を見ると私が地面に引き倒した男がぷるぷると震えていた。……見た目によらず気弱だったのかもしれない。悪いことをした。

「ごめんね、大丈夫?」
「テメェ、覚悟は出来てンだろなァ……?」

 気弱とかじゃない、修羅だ。修羅がここにいる。誰だよこの悪鬼羅刹を私の運命の相手にしたの。散々赤い糸に踊らされているから、浮気しなさそうな真面目そうで一途な男が好みなのに真逆じゃないか!
 手のひらから火花を出して威嚇してくる男をまた糸を使って横転させながら「また失恋かあ」と呟いた日は、新しい恋の始まりにふさわしい桜の季節だった。


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