※女主
ねじれちゃんは可愛い。ぱっちりした大きな目、まんまるいほっぺ、興味を持つと我慢できなくてすぐに突撃しちゃう幼稚園児みたいな性格。すぐに興味が移っちゃうとこ、拗ねちゃうとこ、全部が可愛い。良くも悪くも子供みたいに純粋なねじれちゃんは可愛い。
ねじれちゃんはこんなにも可愛いのに、世間のみんなはねじれちゃんが嫌いみたいだった。
私とねじれちゃんの出会いは中学生のとき。無個性ではないけれど、どっちかって言うと敵向きの、いやぁな個性を持って産まれてしまった私は個性差別を受けていた。無個性のくせに調子乗んなよ、も、ヴィランの癖になんでヒーローに憧れてんだよ、も同じくらい酷い言葉だと思う。なんで自分じゃどうにもできないことで言われなくちゃいけないの。お父さんとお母さんの個性が関係するんだから、私のせいじゃないのに。
世界はいつだって理不尽で、私は理不尽に抗えるほど強くなくて、他人の目を見るのがすっかり怖くなってしまって、前髪で顔を隠していた。
「ねえねえ、なんで前髪長いの? 前見えなくない? コケちゃうよ、危ないよっ」
見た目からしてくらぁい私に屈託なく話しかけてくれたのはねじれちゃんだった。私の見た目なんか気にせずに、個性なんて気にせずに、ねぇねぇって話しかけてくれて、何言っても馬鹿にしなくて、ちょっと頓珍漢な返答はするけれど、いつだって前向きな返事が返ってきた。そんなねじれちゃんにすくわれて、私がねじれちゃんを好きになるのは時間の問題だったと思う。気付いたら長かった前髪は切って、ちゃんと笑えるようになっていた。
ねじれちゃんはズバズバ行く。興味を持ったらそれが失礼だとか(現在の社会では異形型の個性に配慮して見た目に関して質問するのはかなりいけないことになっているのだ)考えもせずにポンッと口に出してしまう。悪意はまったくなくて、幼稚園児みたいに純度100%の疑問なのだった。
皆もそれは分かってるみたいなんだけど、触れられたくないところもねじれちゃんはズバズバ突き刺してきちゃうから、心が弱い人はすぐねじれちゃんのことを嫌いになるみたいだった。ねじれちゃんは悪意無く言ってるのに、誰かを傷つけようという明確な意思を持って言っちゃうみんなよりずっとずっといいのに、なのにねじれちゃんこことを嫌いになるみたいだった。
「ねえねえ、知ってた? 私女の子から嫌われてるみたいだよ、知ってた?」
「え……」
クラスの一部の女子がヒソヒソ悪口言ってるのは知っていた。でもねじれちゃんは明るくて前向きで可愛くて頭も良くて運動もできるから、男の子も女の子もねじれちゃんのことを好きな人もいたはずだ。好きと嫌いのバランスが半分半分のねじれちゃん。良くも悪くも目立ってしまうねじれちゃんは絶妙なバランスで社会を生きていたというのに、一体なんでこんなことになってしまったのだろう?
これは後でわかったんだけど、ねじれちゃんのことを好きな人の部類に、クラスのリーダー格の女の子の好きな人がいたらしい。放課後の非公式の人気投票で彼がねじれちゃんに入れたことを怒ってるのが原因で、態度が悪化してねじれちゃんの耳にまで入ってしまったのだった。
「私は、ねじれちゃんのことが好きだよ」
「私もなまえ好きっ」
いっつも笑顔のねじれちゃんの眉がちょっとだけ下がってて、でもすぐにいつもの位置に戻った。ぎゅって飛びついてきたのをなんとか受け止めた。私はねじれちゃんが好き。でもそれはきっとねじれちゃんの好きとはまた違うと思う。そんなこと、絶対言わないけれど。
ヴィランだヴィランだと言われた私はねじれちゃんを追っかけて雄英高校に合格した。死にものぐるいで放課後机を並べて勉強したのは良い思い出だし、密度の濃い時間が私達の友情をより強固なものにしたと思う。苦楽をともにしてこそ絆は深まるのだ。主体性のない私はいつでもねじれちゃんを追いかけてる。生半可な気持ちじゃ生き残れないから、いつだって全力だ。ねじれちゃんがプロヒーローになったとき、危険に瀕したとき、助けられない一般市民なんて嫌だもの。だから私は喰らい付く。ねじれちゃんのために、人生をかけている。
「なまえさ、この間告白されてたよね」
「えっ、うん」
「彼氏欲しいって言うのに断ったのはなんでなんで?」
「それは……よく知らない人だったから」
ヒーローの卵だけど、同時に学生だったりして。テストもあるのなら恋話だって当たり前のようにあるのだ。
「えーでもB組の人も断ってたよね? なんで? 背が小さいから? 異形型だから? 好みの顔じゃないの?」
なんでなんで、とねじれちゃんが訊いてくる。悪意なんてかけらもない、純度100%の興味からの質問だ。だけど私は大好きなねじれちゃんに答えてやれない。これだけは、絶対に言えない。
私がねじれちゃんのことを、好きだなんて。
ethica
|
|