※通販ページにある「きらきら星のゆくえ」のサンプルです。夢本では固定名ですがこちらでは名前変換できます。途中まで掲載でサイトには全文載せていません


「青春がしたいの!」
 なんの脈絡もなく叫んでみたら、はとこの玲ちゃんが大きくため息をついた。
「なに馬鹿なことを言ってるの」
「馬鹿なことじゃないもん。真面目に言ってるもん」
 バタバタと足を揺らしたら玲ちゃんに「うるさいわよなまえ」ってたしなめられた。ちぇー。
「だってだって、玲ちゃん構ってくれないし、翼ちゃんは学校変わってからなんだかきらきらとしてて忙しいし、私だけ暇なんだもん」
 玲ちゃんと翼ちゃんと私ははとこ同士である。大好きな翼ちゃんを追いかけて必死になって麻城を受験したというのに、その翼ちゃんがあっさりと転校してしまって私の青春は終わったのだ。転校する前の翼ちゃんはもっと構ってくれたし、玲ちゃんだって私と遊んでくれた。でも最近は翼ちゃんも玲ちゃんもサッカーで忙しいからって(部活に夢中とか、翼ちゃん青春してる!)私となにもしてくれない。放課後の勉強や学校帰りの制服ショッピングは翼ちゃんが作ったサッカー部の練習があって行われなくなった。ああ、私はこの放課後の暇な時間をどう過ごせば良いんだろう!
「なまえ、もう宿題はやったの?」
「やったよー。放課後暇だもんー」
「なら部活にでも入ればいいじゃない」
「いい部活がないー。…………ねえ、玲ちゃん構って構って構って構ってー」
 わあわあと騒ぐと玲ちゃんはやっと書類から視線を外してにっこり笑って「私はなまえと違って忙しいのよ」なんて凄んできた。美人の気迫に負けて黙ってしまう。
「……ふんだ。翼ちゃんも玲ちゃんもふたりしてサッカーサッカーサッカー! そんなにサッカーが面白いの?」
「面白いわよ」
「嘘だぁー」
 書類を捲っていた玲ちゃんの指が止まった。
「じゃあ、なまえもやってみる?」
「……何を?」
「サッカー」

 と言うことで玲ちゃんに無理やり翼ちゃんの試合に連れていかれた。玲ちゃんのバイクに二人乗りしながら、これは法令違反だったか、それとも校則違反だったか考えていると会場に着いた。見つからなかったからよしと結論付けてバイクから降りるとあちらのチームにもこちらのチームにもじろじろと見られていた。きっと玲ちゃんと比べてるんだろうな。すみませんちんちくりんで。顔もスタイルも悪くて。そこら辺の女の子よりも可愛い翼ちゃんと、クールビューティの玲ちゃんに囲まれて育った私は見た目への自尊心が低いのであった。
 マネージャーでもない私がベンチに座って良いのか。そもそも決勝なんて大事な日に部外者を連れ込んで良いのか。どうなの玲ちゃん!
 ――ピーッ
 と、ベンチに案内された後考えていると試合が始まった。学校が違うから飛葉メンバーすら分からない。いや、前に翼ちゃん家に来てた四人は分かるけど、後はさっぱりなんだ。けれど、飛葉のベンチにいるんだから飛葉の応援をするべきだろう。真面目に試合を見てもボールがあっちこっち行くだけで試合の経過がよく分からない。これは飛葉が勝ってるの? それとも負けてるの? それすら分からないのに、何故か自然と目が追いかけてる。
「……翼ちゃん、楽しそうだなぁ」
 きらきら輝いてるよ。なんかあそこだけ別世界って感じ。翼ちゃんだけじゃなくて飛葉の子も。相手チームの子も。相手チームのちびっちゃい子もなんか凄く一生懸命。金髪ロン毛のド派手なお兄さんも見た目では想像できないくらい真面目にやってる。
 金髪のお兄さんと翼ちゃんが戦ってて、あれは翼ちゃんが勝った……のか?
「ふふ。なまえもやってみたくなった?」
「まだー」
 黙って試合を眺めていると玲ちゃんがそんな言葉を投げかけてきた。ふふん、私は中学生ですからね、大人ですからね、興味がなくても黙って観戦することができるのですよ。そうしていると休憩に入った。マネージャーが居なかったのでドリンクとタオルを配ってみた。「さんきゅ」とかの声が意外と嬉しい。そして感謝されることをするのは楽しい。
「頼む! 俺のポジションを代えてくれ!」
「うおう」
 こっち側の金髪の人の叫びを発端に飛葉中サイドがわやわやとしている。ポジションにすらそんなに執着するのか。凄いなサッカー少年。いろいろ言い合ったあと結局ポジションは変更されたらしく試合が始まった。開始早々先取点を取ってリードしていたかと思えば取り返されて、嘘みたいなゴールで飛葉中は負けてしまった。
男子が大声上げて泣いているの、初めて見た。あ、翼ちゃんも泣いてるや。泣いてるのに、試合中のきらきらの余韻が残ってて、眩しくて、直視できない。泣き顔なんてカッコ悪いのになんでだろう。
「ねえ、玲ちゃん……」
「どうしたのなまえ」
「私も、サッカー、したい」
 答えはまだ、わからないのだけど。私もサッカーをしたら分かるんじゃないかと思った。

 日曜日の朝、お布団の中ですやすやと眠っていると突然妙な感覚に襲われた。なんて言うか、こう……圧迫感? 重りを乗っけられている感じ? 寝苦しくなって寝返りをうとうとしてもうてない。え、もしかしてこれが噂に聞く金縛り?
「なまえ」
「良かった、翼ちゃんかー」
 恐る恐る目を開けたら翼ちゃんが乗っていただけだった。良かった、金縛りじゃなかった。
「ってえええええ? なんで? なんで翼ちゃんが私の部屋にいるの? はとこだからってそれはちょっと無神経というか……」
「ここ、オレの家なんだけど?」
「いたいっ」
 頭を思いっきり殴られて思い出した。そうでした。そう言えば昨晩玲ちゃんに「話があるから」って呼ばれて、流れで翼ちゃん家にお泊まりしたんでした。
「速く着替えろよ。あ、動きやすい格好な。出掛けるぞ」
「ふぁい……どこに?」
「それはお楽しみ」
 にやっ、と翼ちゃんが悪い顔で笑う。ずっと昔、翼ちゃんが玲ちゃんを好きだと私が気付く前、私は翼ちゃんのことが好きだったから、どんなものでも彼の笑顔に弱いのであった。
「えー、フットサル!」
 たどり着いたのは飛葉中の近くのフットサル場。休日なのに人が多いなぁ。……いや逆に休日だから人が多いのだろうか? 来たことないから分からない。
「なんか文句ある?」
「私初心者だよ」
「フットサルは初心者でも出来るぜ」
「そうなの? ありがとう、えっと……」
 振り向けばいつぞやの試合のときに見た色黒な人がいた。てゆーか翼ちゃんが何回か家に連れてきてる人だ。でも顔しか覚えてないや。
「……黒川柾輝」
「畑五助」
「畑六助」
「……おっけ、大丈夫覚えた。私はみょうじなまえです。翼ちゃんの、」
 そこでわざと言葉を切ってみる。ちら、と意味ありげな視線で翼ちゃんを見る。つられて皆が翼ちゃんをまじまじと見た。
「マジでか」
「意外と面食い?」
「……美少女顔に彼女って」
「お前ら本気で殴られたいの?」
 いやもう殴ってるじゃん。翼ちゃんは私の頭に一発いれて、見上げるようにして睨んだ。というか翼ちゃんは身長が一番低いから見上げるしかないんだもんね。ははは、ちびっこめ!
「なまえ?」
「大丈夫だよ、翼ちゃんはまだ成長期来てないだけだもんね。来たら私との身長差なんて軽く追い付くよね!」
 頭のつむじをぐりぐり押したり撫でたりしたら今度は足に蹴りが入った。ちょっと私女の子!
「なまえってウザいよな」
「ありがとう褒め言葉」
 もしかしたら部活が忙しいからじゃなくて私に嫌気が差したから構ってくれなくなったのかな。なんて不吉な予感が脳内を過ったが無視。都合の悪いことはすべてスルー。
「あれ? 金髪さんは?」
「ナオキのこと?」
「分かんないけど、昨日の試合でポジション変えてって騒いでた人。あと関西弁」
「ナオキだ」
「アイツは今日は用事があるから来れねえってよ」
「だからなまえを呼んだんだよ。五人居ないと試合でれないし」
「そうなんだ」
「そーそー。いちいち誰か探すのめんどくさいんだよな」
 要するに翼ちゃんにとって私はそんなものなのか。ただの人数合わせなのか。久しぶりの一緒のお出かけをちょっとだけ楽しみにしていた自分が悲しい。表面は笑顔のままだけど、ちょっと落ち込んでしまった。
「それに前になまえ、サッカーしたいって言ってたろ」
「マジかよ? さすが翼の彼女だな」
「違うんだけど」
「女子でもサッカー好きなら大歓迎だぜ。それに翼の彼女ならなおさらな」
「だから違うんだけど」
 不意に呟かれた翼ちゃんの言葉でいとも簡単に私は笑顔になった。私がサッカーやりたいって言ってたこと覚えてくれてたんだ。学校が違っても私のこと気にかけてくれていたんだ。やっぱり翼ちゃん大好き!
「ちょっ、バカ、くっつくな!」
「翼ちゃん、愛してる!」
「ラブラブだなー」
 今日の戦績。六試合して全勝。それになんと畑兄のアシストで私も一点入れたんだ! 飛葉の子たちがいい子ばかりで楽しかったです。またフットサルしたいなあ。

「いくらマネージャーって言っても選抜の裏方の一員だからね」
 だからその自覚を持ちなさいね。出発前に玲ちゃんにそう悟されて、やる気になって選手の集合の前二時間には合宿所に来ていた――と言っても玲ちゃんに連れてきてもらったのだけど。まずは監督に挨拶、と言われて奥の方の部屋に通される。
「おお、西園寺くん!」
「おはようございます、尾花沢監督」
 こう、他人の身体的特徴をああだこうだいうのは悪いのだけれど、禿げた、が真っ先に言葉に出てしまう男性は親しげに玲ちゃんに声をかけた。監督さんということはきっとお偉いさんなのだろう。人の容姿にあれこれ言ってはいけない、いけないと私は暗示をかける。特に偉い人に対しては尚更してはいけない。うっかり失言なんてしようものなら、確実に玲ちゃんに怒られる。
「ちょうど良いときに来たな。これから最終確認をするんだ」
「遅れてしまってすみません」
「いやいや。此方が早く来すぎただけだからね……おや、この子が例の子なのかね?」
「そうです。私のはとこの」
「みょうじなまえです。よろしくお願いします」
 一応にっこり可愛い子ぶって挨拶をしてみたけど反応はどうだろうか。ちょっと上から〜な感じがしてあわないかもしれない。だからせめて失言しても流してもらえるような好感度を貰わねば。
「うん、流石西園寺くん推薦のマネージャーだ。きちんとしてるじゃないか」
「ありがとうございます」
「これならマネージャーに何の心配もないな。いきなりだが仕事を頼まれてくれるか?」
 い、いい人じゃないか!
 一瞬で意見を翻してしまった私はなんて意思薄弱なんだろう。でも誉められて悪い気はしないし、はやく来すぎたってことは仕事熱心なんだろうし。人を見た目で判断したらいけないよね。反省。
「はい!」
「ちょっと技能テストの記録用紙をどこかに置いてきてしまったから、それを取ってきてくれ。会議室あたりにあると思う。ついでに館内を見てくるといい」
「分かりました」
 失礼します、と行って部屋を出る。さて会議室はどこだ。
「……ここどこだ」
 館内の案内を見ずに本能のままに歩いていたら、迷子になってしまった。
「あれー? おっかしいなぁ。私方向音痴じゃなかったはずなんだけど」
 監督にお使い頼まれて数分。扉がズラーッと並んでいる見たこともない場所にやって来てしまいました。でも監督だって「館内を見てこい」的な発言したしね! 別にちょっと迷っても良いよね!……とか思っていると茶色っぽい頭をしたとても身長の高いコーチを見つけた。コーチ全員把握してるわけじゃないから勘だけれど。長身のコーチはとても優しそう、というより人のよさそうな顔をしている。
「あの、すいません」
「ん?……どうしたんだ?」
 コーチって認識した途端に私は声を掛けていた。無意識って恐ろしい。振り向いた彼は予想通りいい人らしく優しく訊いてくれた。
「会議室の場所って分かりますか?」
「会議室?」
「はい。……あ、分からなかったら良いです」
「……いや。場所は分かると思うが」
「本当ですか!」
「ああ。することもないし、何なら案内しようか?」
「ありがとうございます! お願いします!」
「あっ、ありました!」
「そうか。良かったな」
 コーチが連れてきてくれたのはまさかの出発点だった。どうやら会議室は玲ちゃんに連れてこられた部屋の真ん前だったらしい。だから詳しい場所を言わなかったんだね。出た瞬間分かると思って。私の努力なんだったの、ってこっそり涙を呑んだのは秘密だ。
「これでお使い終了だ!」
 それでもまあ、見つけられたものは嬉しい。書類を抱えてくるくる踊っている私を笑顔で見つめていたコーチはいきなり「あ」と声をあげた。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっと時間がな。ここからはひとりで大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
 だってお向かいの部屋にこれ届けるだけだからどんな方向音痴だって迷わない。
「それじゃあ俺はもう行くな」
「はい。ありがとうございました!」
 優しく微笑んだコーチ。その笑顔に一瞬きゅんとときめいてしまった。私は美男美女に囲まれて育った結果面食いに育ってしまったので、イケメンが何かをするとすぐときめいてしまうのだ。いいものを見た、とルンルン気分で書類を渡したら玲ちゃんに「向かいの部屋から戻ってくるだけなのにずいぶんと遅かったわね」と皮肉を言われてしまったのだが、それは別の話である。

「はあ、玲ちゃんって人使いが荒いんだから」
 ドリンクのボトルを両腕に抱え、とぼとぼと道を歩く。一体これで何往復目だろうか。
「籠くらい使わせてくれても良いのにね」
 これはさっきの失態に対する罰ではなく、単に私の力では籠に入れたら持ち上げられず溢すことを見越されているのだけれど、この時の私はまだそれに気付いていなかった。
 ああ、時間さえあればふわふわの芝生にダイブ出来るのに。実は今日初めて芝生を見たときからダイブしたくってたまらなかったのだ。だけど玲ちゃんが「マネージャーだって選抜の一員なのよ。恥ずかしい真似は絶対にしないで」って釘を刺すから出来なかったんだ。そう思いながらも私はドリンクを運ぶ。これは事前準備で、最初に全体ミーティングがあるからその時間までに片を付けるように言われているのだ。
「よいしょっと。ん?」
 ドリンクを置き、恨みがましく芝生に目を遣る。すると芝生にダイブしている少年ふたりを発見したのだ。
「ああ、いいなぁ……」
 隣の芝は青い。誰かがやっていると羨ましくなって自制心が効かなくなるよね。そう言い訳しつつ我慢が足りない私は、少年たちの元へと向かったのだった。
「僕も同感。いいよねしば──」
「ジャーンプ!」
「うわあぁ!?」
「あ、ごめんなさい。私もやりたくなったので真似しちゃいました」
「君いい性格してるね」
「ありがとう!」
 にっこり笑って返すと大きなため息をつかれた。ちょっとショックだった。黒髪の子の方はそんなことしないのになあ、と顔を見ると、見覚えのある人たちだということに気付く。
「君もしかして飛葉、」
「もしかして飛葉中のマネージャーさんですか?」
「……」
「……」
「……あの、すいませ、ん……?」
 セリフが被ったので無言で不服だと訴えたら、控えめな謝罪が返ってきた。翼ちゃんだとここで皮肉が飛んでくるし、玲ちゃんだと無視されちゃうし、塩じゃない対応が嬉しい。私のはとこたち、顔は硝子細工のように繊細な綺麗さなのに心はナイフの輝きだから……触れたら怪我しちゃうから……。
「ううん。ちょっと遊んだだけだよ。私はみょうじなまえ。飛葉中じゃないよ」
「ぼくは風祭将です。桜上水です!」
「風祭将……そっちのふやんとした君は?」
「ぼくは高縄中の杉原多紀です」
「そっちのおにーさんたちは?」
「桜上水の水野竜也」
「同じく不破大地」
「そっかーよろしくお願いします!」
「ああ、よろしく」
 一通り自己紹介が済んで、水野くん不破くんに見下ろされつつ芝生を堪能していたときだった。
「見ろよあれ」
「芝生なんかではしゃいでるぜ」
「ダッセー」
「カッペ丸出し!」
 とかなんとか嘲笑と悪口が聞こえてきた。これあれですか。もしかしなくても私たちに言ってるんですか。
ん? カッペ?
 私は少し疑問を覚えた。この声どこかで聞いたことがある。誰だろう、と顔をあげたら声を発した少年と視線が絡み合った――うわ、嘘。逆光まぶしい。目がチカチカする。視覚を失っている間に相手が「うわぁああぁあ!」と叫んで逃げ出してしまった。
「……なんだったんだろうね?」
「さあ?」
「ううう、目が眩しいよう」
 逆光で目が大変なことになっている私の横でまったりとした会話が繰り広げられる。
 今何時だろう。ふとそう思ったのが運の尽きだった。芝生の上の少年たちとさよならをしてから、私はせっせと玲ちゃんに言われた雑用をしていた。私は意外とやりだすと止まらないタイプらしく、時間を忘れるほど夢中になって雑用をこなしていた。こんな雑用まで楽しくこなせるとか私才能あるんじゃないの。もしかしてめちゃくちゃ褒められちゃうんじゃないのと自惚れていた過去の私、叶うことなら殴ってやりたい。
 それと言うのも、玲ちゃんからこんな命令を承っていたのだ。
『集合までに終わらないだろうから、仕事が終わってなくてもミーティングまでに戻ってくること。時間厳守よ』
うーん、覚え違いかな。玲ちゃんなんて言った? 時間厳守よ?…… 時 間 厳 守 ?
「あっ……」
 血の気が引くって、まさにこのことだと思う。
「おっ、おおおお遅れてすみません……っ!」
 焦って駆け込んだらバッターン、と思ったよりも大きな音をたててドアを開けてしまった。部屋にいる全員からの「お前なんやねん」的なあっつい視線を頂いたが、そんなの気にならないくらいの、何十人分の熱視線を打ち消すほどのブリザードな視線を感じ取った。
(ひいぃぃいぃぃ玲ちゃん怒ってる)
 マジヤバいガチヤバいこれは死亡フラグどころの騒ぎじゃない。あの玲ちゃんを見るとむしろ死んだ方が良いんじゃないかと思われる。だって玲ちゃんの気が済むまで苛め抜かれる気がする!
「おお、みょうじくんか。遅いから何かあったのかと心配してた所だ。さ、こっちに来て自己紹介しなさい」
太っている上にハゲている監督がこんなにもイケメンに見えることがあるだろうか、いやある筈がない(反語/強調表現)。
 でもだってフィルターかかってイケメンに見えても仕方がないと思う。だって玲ちゃんのブリザードとお前なんやねんの視線から私を守ってくれたのだから。マジ監督神。髪ないけど。
「本当ね。遅いわね。十分前集合が基本って時間厳守って選手たちにキツく言ったのにマネージャーがこれじゃ示しがつかないわね」
「本当にごめんなさい恥かかせてごめんなさい迷惑かけてごめんなさい、謝るから見捨てないで……」
 涙目で必死に謝っている私を見て飛葉中組が失笑していた。あいつら後でしばく。
「みょうじくん自己紹介を」
「あっ、すみません監督。……みょうじなまえです。こんなアホですがマネージャーとして精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」
 言い終わったあとどこからか「あいつアホだって自覚あったんだ」と言う声が聞こえた。どこのどいつだか知らないけど見つけ次第制裁が必要だなと思った。

やっとボトルの準備をし終わったと思ったら次は記録係だ。もはやマネージャーと云うかただの雑用係である。
「鈴木、在原、六秒四、六秒七」
「はい」
私が遅いだけなのか、それとも選抜だからか全体的に皆足が速い。平均が六秒台とか正気の沙汰ではない。
「藤代、六秒フラット」
「ぅえ?」
化け物かこいつ。あとちょっとで五秒台とか信じられない。他のメンバーと比較しても頭一つ抜けている。どんな人かと視線をやれば、目がばっちりあって、藤代くんはニコッと爽やかに笑いながら手を振ってくれた。ヤバイわ。明らかにできる男というか、格の違う男のオーラを感じた。クラスに一人はいる賑やかしメンバーで、勉強はできないかもしれないけれど運動神経抜群で、顔も格好いいからめちゃくちゃモテるタイプの男だわ。
「なまえ、余所見しないの」
「ご、ごめんなさっ!」
うっとりと藤代くんを見ていたら玲ちゃんに睨まれたのであった。
ある程度テストが終わって小休憩に入っていた。玲ちゃんの側だと気が休まることなく、かつ私に暇を与えない様肉体労働も激しくさせられることが分かったので午後からは違うコーチの側に行こうと思う。できたら迷子になった私を助けてくれたあの若いイケメンコーチが良いけれど、最悪あの監督でも良い。とにかく精神的に休まればそれで良い!
「とりあえず翼ちゃんで遊んで元気を出そう」
きょろきょろと辺りを見渡していると水野くんがいた。あの人確か的通しかなんかでスゲーッて言われてたような。あ、朝はそこまで意識していなかったけれど彼もよく見たら王子様顔のイケメン。さらに探すと三人でいちゃこらしてるイケメンたちがいた。……この選抜イケメン多いですね? 翼ちゃんだって身長伸びたらイケメンだし。今はちび+女顔で美少女……美少年だけど。合宿所がきらきら輝いているように見えるのは単に顔面偏差値の問題なんだろうか。
「おい下手くそ!」
くだらないことを考えているとようやく翼ちゃんを発見。言われているのは今朝の風祭くんで、あはは、なんて曖昧に笑いながらあの暴言を許している。もっとキレてもいいと思う。
「なんであんなやつが呼ばれたんだか?」
すると更に風祭くんに暴言が降りかかる。言っているのは三人でいちゃこらしていたイケメンたち。顔かっこいいのに性格残念とかもったいない。翼ちゃんだって口悪いけど、ちゃんと言ってもいいことといけないことのラインは見極めているんだわ!
「レベルの低いやつら相手にしてっと、」
「ん?」
 ──この声、どこかで。
思わず飛び出して声を発した黒髪つり目の腕をがしっと握る。勢いつきすぎて顔がめっちゃ近くなったけれど、彼は顔を赤くするどころか青くして大慌てで私を振りほどいた。
え、自覚なかったけど私って至近距離で見ると青ざめるほどやばい顔してた?
「なんだよ!」
「もっかい。もっかいなんか喋って!」
「はぁ?」
訳がわからない、と云う風に顔をしかめたつり目。しかしさりげなく彼は私から距離を取っている。そして直ぐ様走って逃走した。
「おい、一馬!」
「一体なんなの」
他の二人もつり目を追って走り出した。あれ、なんか朝とデジャヴ。
それから昼食まではわりかし暇だった。洗濯してドリンクやったらもう手持ちぶさた。きっと聞けば他にもすることあるんだろうけどさー、いつなんどき玲ちゃんに無理難題吹っ掛けられるか分かんないから休めるときに休んどかないと。
「……むー」
それにしても暇である。選手たちはフットサル的な人数に別れてなんか試合的なものをしている。寂しくなって構って貰おうにも玲ちゃんは選手をキッ! と鋭い眼光で睨み付けている。……そっか玲ちゃんには選考と云う仕事があるんだわ。そら私みたいにのへのへ出来ないわ。
私だって見ていないわけではない。サッカーに興味を持ったからこの選抜に参加したわけで、だから上手なプレーを見るのは今後の参考になる。だけどもいかんせん選手が上手すぎると云うかなんというか。ボールを受けてからパスが素早いので狭いコート内でちゃっちゃとボールが回るから何がなんだか分からないのである。そうこうする内に試合が終わって、新しいメンバーがコートに入った。
(あ、水野くんと藤代くんだ)
コーチがボールを水野くんにパスして始まった。鋭いパスでゴール前への速攻。そしてゴール前のシュートの打てるタイミングで藤代くんにボールが渡る。そのままシュート、かと思いきやバックパスで水野くんがシュート、得点。初めての得点だ。
(すごい)
圧倒的な技術に、ぞくっと体が震えるのが分かった。試合展開が速すぎて私には何がどうなったのか分からないけれど、それでもその凄さを、上手さを、肌で空気で感じ取ったのだ。
コートから出てきた二人に私は駆け寄った。近くまで来たのは良いけれど、二人のあまりのイケメンっぷりに声をかけるのを躊躇ってしまう。そのまま声をかけるのタイミングを見計らっていると、私のあっつい視線に気付いたのか、藤代くんが爽やかスマイルで声をかけてきた。
「あ、マネージャー! どうかしたの?」
「え、えっと」
ヤバい私死にそう。玲ちゃんと翼ちゃんはどんなに顔面偏差値が高くてもこんなに純真無垢な笑顔をぶつけてこないので藤代くんの笑顔のダメージが大きすぎて死にそう。
「ああ、朝の。みょうじだったっけ?」
「うん、そうだよ。マネージャーのみょうじなまえです。水野くんと藤代くんだよね? よろしくお願いします」
「俺、武蔵森の藤代誠二! よろしくみょうじちゃん! あ、やっぱなまえちゃんって呼んでもいい?」
「ハイ喜んで! お好きにどうぞ!」
イケメンからの名前呼び……もう私死んでもいい! なーんてにやにやしていると水野くんから声をかけてきた。
「で、どうしたんだ?」
「へ?」
「コーチから連絡とか、何か用があって来たんじゃないのか」
「あ、ううん。違うの。さっきのゲーム見ててね、凄かったんだけど何がどうなったのか分かんなかったから説明してもらいにきたの」
「?」
「え、ええと……」
二人がきょとんと?マークを浮かべたのを見て、意味が分かるように説明しようと焦る。普段はそうでもないんだけど、慣れてない整った顔の人に対して人見知りをする私はいつもより上手く喋れない。焦れば焦るほど言葉は意味が分からなくなるだけだ。
「つまり、お前らのプレーがすごくて見惚れた、だけど初心者だからどうしてシュートまで持っていったのか分からなかった、ってことだよ」
「あーっ! 飛葉中の椎名じゃん!」
「翼ちゃん!」
「……翼ちゃん?」
「ったく、まだその人見知り直ってないの?」
いきなり現れた翼ちゃんのフォローにほっと脱力。そうそう、そう言いたかったんだよ私は!
「そうなのー。でも翼ちゃんが助けてくれるから平気ー。えへへ、翼ちゃんありがとう大好き愛してる!」
そのふわふわの髪に手をあててギュウッと抱き締める。小柄な翼ちゃんはすっぽりと私の腕に収まった。そのままいいこいいこと頭を撫でていたらみぞおちに拳がクリーンヒットした。
「ったい! 痛いよ翼ちゃん!」
「はぁ……なまえが悪かったね。バカだけど嫌な奴じゃないから、それなりに仲良くしてくれる?」
「あぁ」
「全っ然オッケー! てかなに? 椎名となまえちゃんは付き合ってんの?」
「違うよ。そういう勘違い冗談でもやめてよね」
「ひどっ!」
そう言い置いてひらひら手を振りながら翼ちゃんは黒川くんたちの所へ戻っていった。さて、と私は二人に向き直る。
「あのね、さっきの試合で藤代くんがシュートできたと思うんだけど」
「話題の修正がいきなりだな」
「あと一瞬でキャラ変わったような」
「だけど藤代くんが水野くんにパスしたじゃん? 決めれるタイミングでシュートした方が良いと思うんだけど、あれなんで?」
「スルーか」
「なんで?」
「人の話を聞く気がないぞ、こいつ」
「あれは一応ブラインドって云う技」
「俺がキーパーの目隠しになってボールが見えななくなるから、軌道が読めなくなるんだよ。だからあそこで普通に打つより決めやすいってワケ!」
「なるほど!」
「そうそう。それに相手は渋沢と不破だしな」
「だよなーキャプテンだけでもちょいキツいのに、プラスで不破だもんな」
「他のGK二人だったら普通に決めれただろ」
「まあねー俺天才だし?」
か、会話に入れない……。やっぱサッカー少年のサッカー談義には食らいつけませんな。しょぼんと落ち込んでると玲ちゃんの「技能テスト終了!」って声が聞こえた。やった、ご飯!


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