君はお姫様

 他人の顔は割とどうでもいい。そもそも個性社会になってから人類と云う種は多様化して外見にも幅ができているのだ、自分の恋人に求めるものは顔の良さではなくて精神性とか相性とか、目には見えない形のものだ。だから目の前の恋人が俺と同じ目線でも、制服のスカートを履いていなきゃ男に見えていても、顔だけが取り柄でもなんでもいい。

「え? チョコ? ないよ。君がくれるんだろう?」

 俺をブチ切れさせたりしなければ。


 みょうじなまえとの出会いは最悪だった。と言うより、こいつのスタンスが俺とは死ぬほど合わなかった。「助けを求める人は皆お姫様だ。そしてボクは王子様だ。そして君は助けを必要としている。だからボクは手を差し伸べるだけだよ」なんて、あのクソッタレた幼馴染と同じかそれ以上に薄ら寒い考えでヒーローをやっている。確かにこいつは女から王子様と呼ばれているし、今時映画やドラマの中でもそんなやついねーよ、と言うくらいコッテコテの王子様役をしている。正直死ぬほど寒いやつだと思っていたが、誰かを守るヒーローとして信念を曲げないところは、少しだけ好感が持てていた。はずだったのにコノザマである。仮にも付き合ってる彼氏彼女であるし、バレンタインくらい何かしらしてくれるだろうと信じていたのにこの返し。

「だいたいね、君はボクに女の子みたいなことを求めていたの?」

 ボク、という一人称を使う女はたいてい地雷なことを知っていて付き合ってしまった過去の俺はなんて馬鹿なんだろうか。体育祭のとき、男と張る身体能力を少しだけ意識した。トーナメントのときの身のこなしはいい線だと思った。合宿のときに庇われたのは人生の黒歴史に入るが、いつも女に「ボクが守ってあげるから安心してね」と言っている言葉を曲げずに敵に立ち向かう姿を見て口だけじゃねぇんだなと思った。
 そういう、色んなことが重なって。俺はこいつと付き合ったりしたのだけれど。

「……んなわけ」
「ないでしょ。君、女の子扱いしないもんね。ボクは君のそういうところが好きなんだよ。男とか、女とか、そんなの気にしないでボク自身を見てくれるとこ。それにボクは貰う専門だしね」

 見てよこれ、と両手いっぱいの紙袋を見せつけられた。バレンタインというものは、男より女のほうがチョコを貰う日になっている。好きな男にチョコを渡すというよりも友人同士で交換する方に重きを置いている。だから、一応女であるこいつがチョコを貰うのは何の問題もない。憧れの男の先輩より渡しやすい同性の王子様に渡しているわけだから、数を貰っていてもなんの問題もない。

「君は……貰ってないね」
「…………」
「まあ仕方ないか。黙っていたらとってもかっこいいけど、鬼のように目が釣り上がってて常に眉間のシワが寄ってちゃ女の子も怖がっちゃうよ」
「断ったンだよ」

 ボロクソ言われたが、俺だって流石にクラスの女子から義理くらいは貰える。自慢じゃないが机や靴箱に勝手に入れられていることもある。そういう全てを全部断って、あまり好まない甘いものも一つなら食べれるだろうと調整していたのだ。

「そうなんだ……」

 何だその驚いた顔は。

「いや、君にチョコくれる物好きがいたんだなと思って」
「はっ倒すぞ」
「いや、ごめん、冗談だよ。でもそうかあ」
「何が言いたいんだ」
「うん……まあね」
「はよ言え」

 こいつを気に入っているポイントの一つに、サバサバしているところがある。察して、と訴えて来ないところが心地いい。問題点を直接投げてきて議論して落とし所を決める事ができるところ。そういう関係が居心地良かったのに。

「言ったら絶対怒るからさあ」
「言うだけ言ってみろ」
「繊細さには欠ける顔してるくせに、ちゃんとボクの気持ち考えてくれるんだなって嬉しくなったんだよ。一応付き合ってるから断ってくれたんでしょ」

 正解、とは口が裂けても言えない。

「ガラじゃないけど一応ボクからも用意してたんだよね」

 照れたようにはにかみながら、通学用の鞄からだしたものをなまえは俺に渡した。

「お返しは三倍でよろしくね!」
「お前より三倍美味いの作ったるわ」
「ちがーう!」


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