人は進化していく過程で、どうしても不要なものが生まれてしまう。それをメスで切り取ったり、体の感覚を失わせてまでして引っこ抜いたりして取り去っていく。とても暴力的なその行為を正義として、そうして淘汰していく。これはそういった物語だ。
私は大陸の、あんまりよろしくない組織の孫娘として生まれた。父親と母親は個性婚。愛はないけど権力と陰謀の結びつきにより私と妹は産み落とされた。双子は影武者として都合がいいからと妹の存在は秘され、けれどもきちんと平等な教育を受けて育ってきた。四歳になって個性が芽生え、父親と母親の個性が綺麗に混ざって望まれた個性を私は宿した。妹は、少しだけ、失敗作だった。
そうしてさらに時は過ぎる。個性から遅れ性格がはっきりとした私を、祖父は出来損ないだ、と切り捨てた。
――儂の孫であるのに、一族の血を引くのに、何故ここまで平凡に生まれてしまったのか。
その点妹は、個性こそ理想から少しズレていたものの、性格は申し分無い。跡取りは妹とされ、その性格から影武者としても役に立たないと判断された私は海を越えて日本という国に一人捨てられた。比較的、治安がいい国へ沢山のお金だけを与えられて捨てられたのは、まだ家族としての愛があったのかもしれない。
大陸の血を引くという見た目の差異は、異形という進化を遂げた人類の前では些細なものだった。見た目ではなく生まれ持った性質は、一族に馴染むことはなくても大衆には馴染んだ。良き友人、環境に恵まれ育った私は、生まれ持った性質のせいで家族を求めた。それでも寂しいと思った。私とは違い一族の血に良く馴染んだ妹と同じ空気を持つ少女、渡我被身子を求めたのだから。
トガヒミコ、トガちゃんは、個性という能力を得ることで進化した社会において異端であった。メスで切り取られて、あるいは暴力的に割られて、引っこ抜かれて淘汰されてしまう存在だったのだ。無邪気で純真なのにその価値観は異端。異端を理解する賢さはありながらも、周りに染まる柔軟さはなかった。
私はそんな空気をまとう人間に慣れていたから、自然とトガちゃんも仲良くなった。会うことのできない妹の代わりにしていたのかもしれない。「好きな人と同じ姿になりたい」という彼女を応援しながら、日々存在が揺らぐ彼女の楔となりながら、平凡に平穏に生きてきた。
「なまえちゃん!」
「え、」
トガちゃんの叫び声で我に帰ったときには、もうそこには死体があった。大陸の血を感じさせる容姿と、素肌に刻まれた模様から私の組織の構成員だとわかった。
トガちゃんの恋心は、相手になりたいという形で現れる。最初は持ち物から始まって次第に相手のアイデンティティを奪い、同化していく彼女は最終的に「チウチウと」相手の血を吸うことで相手自身となる。血を得るためにナイフを持ち歩いていたのだ。そのナイフで、私を守る為に、躊躇いもなく刺した。身体能力で劣るトガちゃんが構成員を殺す為には躊躇いがあってはならない。
彼女には善悪の基準があっても、その基準は社会規範に基づかない。組織で、生きていく人間にとっては必要なものだけれど、真っ当に生きていく為には全く不必要なものだった。
「なまえちゃん? 怪我、しちゃった?」
人を一人殺したばかりだというのに。私が転んだ程度の心配しか見せないトガちゃん。中学生の時だった。私という存在が彼女を確かに狂わせた。
「ううん。なんともないよ。ありがとう」
「びっくりしたねえ。なんでなまえちゃんを狙ってきたのかな? 好きだったのかな?」
「分かんない……うちの組織の構成員みたいだし、派閥争いとかそういうのかも。死体はこのまま放置してたら片付けてくれると思うけど……迷惑かけてごめんね」
「ううん! なまえに怪我なくてよかったです! してたら泣いちゃった!」
「優しいね。私の家でシャワー浴びてから帰ろうね」
「うん!」
それからも度々、構成員は私を狙ってきた。同じ構成員が庇ってくれたり、トガちゃんがサクッとやってくれたりで生きてはいたけれど。高校生になった時、トガちゃんは構成員以外の人間に手を出してしまって警察に追われることになったのだ。私のせいで、他人に手をかけるということに慣れてしまったからという責任を感じて私とトガちゃんは手を取り合って大陸まで逃げた。失礼だけど、トガちゃんに太陽の下は歩けない。本来私もそちら側の人間だ。二人でならば、暗い道も歩いていけると信じていた。
「姐姐。ワタシが助けるとでも思った?」
目の前には私とそっくりな双子の妹。だけど内面は全く異なる妹。実の姉を前にして。機械のように何の感情も持たない。
「ワタシの事、邪魔に思ってる派閥がいるんだよネ。そういう奴等が血筋の正統性、個性の強さがワタシを弑する為に姐姐を擁しようとしてるノ。姐姐を傀儡として権力を握ろうってね。ワタシにとって姐姐は邪魔な存在」
「……」
「友人を守ってあげることはできるヨ。日本にぴったりな組織がある。そこに話をつけることだってワタシなら簡単。でも、そこまでしてあげる義理はない。願いには対価が必要。わかる?」
「分かるわ。そして、その願いも」
人は進化する過程で不要なものを切り捨てて生きていく。力が肥大し、抑圧されながら生きて行かないといけない世界では、枠からトガちゃんが。当たり前のように人非人であることが求められる世界では、私が。不要なものは、切り捨てられて、淘汰される。それが進化の理なのだ。
その時初めて、私を見る妹の目に、感情が宿った。
「……姐姐、生まれる家族間違えたヨ」
「うん。知ってる」
組織のボスは嘘はつかない。トガちゃんは無事に敵連合という組織のものへ案内された。平凡な日常に生きるよりも、きっと生きやすくなることだろう。
私という存在はもうトガちゃんと一緒に生きる事はできないけど。血がないからトガちゃんが私になることもできないけど、トガちゃんの中に私が息づいているという証がある。不器用なトガちゃんが、毎日苦労しながら髪をお団子に結っている事だ。不揃いで、毛束がぴんぴんはねていて、できることなら直してあげたい。こんな些細なことが、今はもう叶わぬ願いである。
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