落ちるのが恋なんて一体誰が言った言葉なんだろうか。私の恋は、気付いたら当たり前のように心の中にあって、その重たい気持ちに胸がかき乱されて、身体は自然と動いてしまって、この気持ちを受け取ってほしくて愛してほしくて愛したくていつでも苦しい。ああ、でも私のこの恋があまりにも重いというのなら、恋の重さに引っ張られて落ちるというのは納得だった。
「実く〜ん! お昼一緒に食べよぉ」
「また来たよ……」
愛しの愛しの実くんはツンデレさんだから、私のことを見るとちょっと嫌な顔をする。でもそんなところが好き。個性の関係上、私のこと嫌いって言う人はあんまりいないから、嫌いって言ってくれるのが嬉しい。だけど恋する乙女とは我儘なもので、嫌いになってくれたから好きになったのに、好きになったからには愛してほしいのだった。
「や〜んそんな顔も可愛いよダーリン!」
「俺はお前のダーリンじゃねえ!」
「なんで? 私の何が不満なの? だって女の子だよ? 顔も可愛い部類だと思うし胸だって大きいしダーリンの好みだよね」
ていうかダーリンに好みじゃない女の子いないんだけどね。どんな女の子に対しても女性というだけで魅力を見つけるから。顔が可愛い子には可愛いと言うし、細い子はそこがいいと言うし、腰のラインだとかうなじだとか手首の細さだとか、何かしらを見つけてはハァハァしてる。
「お前だというだけでその価値はなくなる」
「ひどーい! あ、お昼中庭で食べようね。お弁当作ってきたから。あーんでたべさせてあげるっ」
「ちょ! ふざけんな放せ!!!」
「上鳴くん、実くん借りていくね」
「おー」
「お前! 俺を売るんじゃねええええ」
実くんのクラスメイトに許可も取ったことだし、体格差を盾にして抱き締めたまま連行する。彼氏は自分より身長高いほうがいいよね、という子もいるけれど、私は逃げられたくないからこういうふうに小さいほうがいい。やっと手に入れたダーリンを手放したくなんてないから。
「ほら、ほらあ〜ん」
「…………」
「なんで口開けてくれないのぉ」
ここで返事をするとその隙に口に突っ込まれることを学んでいる実くんは口を開けない。他の子だったら、他の子だったら、すぐに口を開けるのに、って思うと全身をドロドロとした黒い感情が駆け巡る。いけない。可愛い女の子はこういう醜い気持ちを抱かない。ダーリンに相応しい女の子になるためには内面も大事なんだから!
個性を使って魅了してめろめろにして言うことを聞かせることは簡単にできる。けれど、好きな人にだけはそんなことしたくないのだ。実くんが私を知り尽くしてるのならば、私も実くんを知り尽くしてる。
「せっかく早起きして作ったのになぁ……」
うるっと瞳を潤ませて言えば「別に食べないとは言ってないだろ」と口を開けた。とても単純で馬鹿みたいに優しくて、そこが愛おしい。
「隙ありっ!」
「ん゛〜っ!!」
口に突っ込む。ちょっと乱暴になってしまったけれど、なんとか息が止まることなく実くんは飲み込んだ……。
「死ぬかと思った……」
「美味しかった?」
「なんでお前は会話が成り立たねぇんだよ!」
「美・味・し・かっ・た?」
「相変わらず俺の好みを熟知してて恐ろしかった」
「愛してるもーん」
気づいたら好きだった。魅力という一種の洗脳のような個性は周りに嫌われがちだ。自分の意思とは関係ないところで他人に意思を支配されるのだから当然だと思う。特に私は恋愛状態になってチヤホヤすることになるからね。個性をコントロールしきれず暴走させていた時期が思春期と重なったから、男子の羞恥心からくる反応も女子の嫌悪感も、今となっては仕方ないことだとわかるけれど、あのときはグサグサ刺さった。悪意は毒を塗られた鋭利な刃物だ。刺されすぎると痛みに麻痺し、治りかけたころにじくじくと痛みを産む。
「なまえの愛は刷り込みだからいらねえ」
無差別の女好きで、ドスケベな癖に。それでも人非人ではなくて、最後のギリギリのラインを守るのだ。だから私に対しては淡白なのだ。その欲望を全部私にぶつけてくれればいいのに。本望なのに。
「本物だよぉ……」
語尾が震えたことに、彼はきっと気付いてない。
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