次の日の電車はとても大変だった。いつもの満員電車でいつものようにしょーちゃんに庇って貰っていると見知らぬ人たちに声をかけられたのだ。

「ヒュウ! 噂の雄英カップルが朝から見えるとは」
「アツアツだね〜!」
「若いっていいね」
「君、たしか轟くん? 試合見たよ凄かったね。さすがエンデヴァーの息子さんだ」

 私たちを恋人と勘違いしているセリフはまだいい。私が照れたりしなければしょーちゃんはいつでもポーカーフェイスなので違いますとあっさり言える。問題は最後だ。最後のエンデヴァーさんに関係するセリフだ。それ、地雷です。踏むと爆発します!!!!!

「しょーちゃん……」
「分かってる」

 わかってないよ、さっきから冷気漏れてるもん。人口密度のせいで暑いからちょうどいいけど個性の使用、よくないです。怒らないでね、の気持ちを込めて制服の裾を引く。するとその腕が私の背中に回ってきて片手で抱きしめるような形になったしょーちゃんにすっぽり抱き抱えられる。いつの間にこんなに大きくなったんだろう。
 普段だったら恥ずかしくてジタバタするところだけど、私の肩口あたりに添えられた手に力がこもっているのに気付いてしまったら何もできなかった。ちょっと痛いけど、しょーちゃんの痛みは私が受け止めてあげようじゃないか。

「雨の日ってやだねえ。靴下びしょびしょになって気持ちわるいもん」

 電車から降りて改札を出た頃に言う。たわいのない話。代わり映えのない平凡な日常。それをしょーちゃんへあげることができただろうか。激しく降る雨は、まるで私の心を映したかのようだった。



「来夏ちゃん!!」
「お茶子ちゃん〜! あれ、なんか嬉しそうだね?」
「分かる? 今日ね、コードネーム……というかヒーロー名の考案と職場体験のはなししたんだよ。私にも指名来てた! 20件も!」
「えっそんなに? 凄い凄い! お茶子ちゃん体育祭頑張ってたもんね。私見てたよ。こわ……強そうな爆豪くん相手にひるまずに向かって行ってたの、かっこいいって思った。最後まで諦めないところに胸動かされたよ」
「来夏ちゃん褒めるのうますぎっ! でもありがと」
「本当に思ったんだもん〜」

 そう、本当の話。お茶子ちゃんの個性は作戦を立てればかなり攻撃力出るけれど、一体一、しかも障害物無しのあの地形ではかなり不利だった。だけど少ない手数での立ち回り。思いつく限り最大限の戦術。お茶子ちゃんも確かにヒーローの卵だった。

「ん〜でも私なんてまだまだだよ。轟くんなんで4000くらいきてたし」
「しょーちゃん流石だねえ」
「あっ! 轟くんで思い出したけど! お二人さんやっぱり付き合っているん?」

 本日何回目の問いかけだろう。そして何回目の否定だろう。この質問は昔から私に多く投げかけられてきた。昔は「幼馴染だよ」って言うことが自慢だった。でも最近は何故だろう、少し悲しい。

「ううん、付き合ってないよ」
「ええ〜でも体育祭の時カメラの前で轟くん告白してたやん?」
「しょーちゃんは優しいから私がパニックになって答えれなかったの代わりに言ってくれただけだよ。あとあの好き、は家族としての好きだと思う」
「そうかなあ」
「そうだよ。しょーちゃん天然だもん」
「でも、来夏ちゃんはそんな顔してないよ?」

 吸い込まれそうなくらいまん丸な大きい目。その中に心配の色があった。クラスも違うのに、出会ったばっかりなのに、なんでこんなにお茶子ちゃんは私を見ていてくれるんだろう。ヒーロー科の人はみんな優しい。いつだって手を差し伸べてくれる。

「わかっちゃう……?」
「うん。て言うか私のクラス皆好きだよねって言ってる」
「え!」
「上鳴くんはわかってて手ぇだしてるみたいだから耳郎ちゃんにしばかれてたよ」
「なんで!?」
「だって一緒に遊びに行こうって誘ったって聞いたよ〜?」
「うん、皆と遊ぶのに混ぜてもらおうと思って」
「轟くんがいるのに、いいの?」
「しょーちゃんは幼馴染だよ」
「本当に? 来夏ちゃんはそう思ってる?」

 お茶子ちゃんの大きな瞳はなんでもお見通しみたい。思ってない。よくない。本当はしょーちゃんがクラスの前でどんな顔してるのか見たかっただけ。醜い独占欲のために上鳴くんの好意を利用しようとしただけ。私、最低な女の子だ。

「思ってない」
「うん」
「もう幼馴染だけじゃ満足できない。しょーちゃんがどんどん成長して、離れていって、それがすっごくさみしいの……」

 一度言葉にしてしまったらもうダメだった。抑えていた気持ちは雨上がりの川の流れのように一気に流れていく。ポロポロ涙もこぼれていく。

「私、しょーちゃんのことが好きなの」
「うんうん」

 お茶子ちゃんは、私が泣きやむまでずっと背中を撫でていてくれた。


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