麗日お茶子は悩んでいた。余計なお世話をしてもいいものか。考えなきゃいけないことはあったけど、職場体験の行き先も決まったし、準備もちまちまやっているし、自分のことはまあとりあえず良い。だけど普通科にいる友人が悩んでいるのだ。
「轟くん、ちょっといい?」
「ああ」
いつもは彼を通り過ぎて緑谷くんのところへまっすぐ向かうのだけれど、今回はあまり話したことのない人物のところへ向かった。体育祭以後、少し雰囲気が和らいで、緑谷くんにくっつくことが多少触れたとは言え、お茶子と彼にはあまり接点はない。いろんな意味で目立つ彼と話すのは少し緊張する。だけどもこれは友人のためなのだ!
「あの、いきなりなんやけど、来夏ちゃんと付き合っとるん?」
クラスの何人かがこっちを見た。轟とクラスメイトの視線を感じてお茶子はたじろぎそうになった。感情の読み取れない目でこちらを見つめて、やっぱり感情の読み取れない声で轟が言った。
「ああ」
「ええっ」
「えええええええ」
「マジかよ! 俺お前の彼女デートに誘ったじゃねえかよ!!」
「今言ったの誰だ?」
上鳴くん、それ黙ってあげてたのになんで墓穴掘るん……? 戦闘のときもクールでスマート、USJのときも落ち着いて対処していたし、唯一激情を見せたのは体育祭のときの瀬呂への八つ当たりと緑谷戦くらいだ。その轟が静かな殺意を向けたのを見て、クラスメイトは上鳴の死を思った。
お茶子はそれより聞きたいことがあったので話を戻した。
「それ、ほんとなん?」
「本当だ」
「いつから?」
「体育祭後の休みん時」
「詳しく聞いても?」
「構わねえけど」
轟の話を整理するとこうだった。体育祭のお題が好きな人で、それを持っていた来夏が自分をパートナーに選んだこと。それだと返事になってないと思ったので、最後に「俺のほうがお前を好きだ」と言ったこと。その翌日に一緒に外出したこと。そのときの来夏の態度に励まされたこと。さらに翌日、来夏が部屋に来て、髪の毛乾かしたり恋人っぽいことをしてくれたので、プロポーズをしたこと。この発言を聞いた上鳴が「来夏ちゃんまさか実行するとは……」と呟いたので、上鳴の罪が許されたことが分かった。
「轟、お前、なかなかやるな」
「見直したわ」
「リア充は死ね」
「漢だな」
クラスの男子はプロポーズと聞いて一様に感心したらしいのだが、お茶子は不可思議だった。轟の話だけを聞いていたら二人は何も問題なく付き合っているように思える。だけど来夏は泣いていた。しょーちゃんが好きだと、幼馴染から超えたいのだと泣いていた。轟の話が真実ならば泣く必要はないではないか。
轟は体育祭の件で顔も実力もしれて校内人気が高まっていると聞く。それは恋愛的な意味も将来の相棒的な意味もどちらも含まれているが、普通科あたりの人気は前者だろう。轟との仲を嫉妬した誰かに来夏が苛められているのか、はたまた気持ちがすれ違っているのかお茶子にはまだ判断できなかった。あとで確認しよう、と思ったけれど中途半端に心配させてはいけないから職場体験が終わってからにしようと考えていた。
「ううん……勘違いだといいんだけど」
「何がだ?」
「えと、轟くん、一度来夏ちゃんと時間をかけて話し合ったほうがいいと思うよ」
「?」
「乙女心は複雑だから、好きな男の子のことですぐ不安になってしまうんよ」
「分かった」
お茶子は適切なアドバイスをした。内容は全く問題がなかった。轟の方もお茶子と来夏が仲良くしているのは知っていたし、「好きな男の子」という言葉に気をよくしていたので素直に助言に従おうと思っていたからだ。ただ時期が悪かった。なぜなら今日は職場体験前日。「ちゃんと時間をかけて」を素直に受け取った轟は、職場体験が終わって落ち着いてから話し合おうと考えていたのだ。