職場体験でしょーちゃんと一週間も会えないなんて信じられなかった。今までずっとクラスも一緒、学校も一緒だった私たちは泊まりのイベントは全て一緒だったのでこんなに離れたことはないのだった。職場体験はヒーロー科は全員ヒーロー事務所、その他の科は体育祭で活躍すれば指名が入ることもある。けれどそんなことはほとんどないので、自分の個性にあった場所を選ぶのだ。
治癒系の個性は病院関係、電気系は引く手あまた。私はまだなりたいものがない。私の個性はカメラで、指で作ったフレームの中にいれたものをすべて暗記するというものだ。容量は自分の頭次第なので勉強を頑張らないとあまり使えないものである。個性の事を考えるとマスコミとか事務関係が向いてるんだけどなあ。
「事務、か」
ヒーローになれなくてもヒーロー事務所の事務員ならあるいは、と邪なことを考えてしまった。しょーちゃんに傍にいてくれないかと言われたから、その道を選ぼうとしている。私はいつまでたっても主体性がないし、主体性のないままその職場を選んでしまったのだった。
しょーちゃんはどの事務所を選んだのだろう。4000件もあると聞いたから邪魔をしてはいけないと思ってあんまり触れなかった。いつもは誰かしらが賑わっているA組とのグループチャットもふっつりと途絶え、「体がもう動かないよお」「私も〜」など、短い近況がたまに発言されるくらい。クラスの友達の方はそれよりかは動いているので、こっちより忙しいんだなあと思うとしょーちゃんに連絡なんてどうしても出来そうになかった。
(それに声が聞きたい、なんて言えない)
そんなことで連絡してもいいのは身内か彼女くらいだろう。私はしょーちゃんの幼馴染だからその資格はまだないのだった。
人の記憶は声から劣化していくという。まだ数日しか会ってないというのに私はしょーちゃんの声を忘れてしまったのだろうか。それとも忘れてしまうのがさみしいから、覚えていたくてこんな気持ちになっているのだろうか。人間ってわからない。
いつもと変わらない敵のニュースだった。それが大きな意味も持つのはそのちょっとあと。お茶子ちゃんから電話がかかってきた瞬間だった。
「え!? しょーちゃんが入院!?」
『うん、今日のニュース見てない? ヒーロー殺しの。デクくんたち三人の事務所がちょうどそれに当たったみたいで交戦して怪我して入院したらしいの』
「嘘……しょーちゃんからなんにも聞いてないよ」
『轟くんから連絡来てなかったん!? あっちゃ〜私やらかしちゃったかなあ』
「ううん、一般人に言わないのは当たり前だと思うし……それより教えてくれてありがとう、事務所での訓練頑張ってね!」
『ん、頑張る!!』
しょーちゃんが怪我して、入院。そのまま倒れてしまいそうだった。連絡してくれなかったことも悲しかったけれど、それよりしょーちゃんがいなくなることのほうがよっぽど耐えられない。学校には体調不良と連絡して、それから私は駅まで駆け出した。事件があったのは西東京。幸いなことに何度か行ったことがある。電車内で緑谷くんに連絡して入院先を伝えてもらう。部屋番号が表示された画面のスマホを私は握り締めることしかできなかった。
「ハンドクラッシャー!!!」
「しょーちゃん!!!!」
病室から聞こえてきた元気な笑い声に被せるようにして叫んだ。和やかな空気から一転、「春次さん!?」「君学校は!?」という悲鳴と混沌を呼び込んでしまった。飯田くんと緑谷くんの包帯は痛々しい。怪我だけを見るならばしょーちゃんが一番軽そうで、心配するべきは他の二人なのに私はしょーちゃんしか目に映らなかった。
「来夏、なんでここに」
「しょーちゃん! だってしょーちゃんが怪我したって聞いて、私、いてもたってもいられなくて……無事でっ……よかっ……ほん、と……うぇぇ」
「心配かけたみたいでわりィ」
「そんなレベルじゃないよ! 朝お茶子ちゃんから聞いてもう心臓飛び出るかと思ったんだからね!! 本人からじゃなくて他人から聞かされた気持ちわかる!?!?!?」
思いっきり抱きついてわんわん泣いて、しょーちゃんの暖かさと心臓の鼓動を確認したら胸の奥あたりで固まっていた不安はするりと解けていった。代わりにでてきたのは怒り。純粋な怒り。私に心配かけたこと。教えてくれなかったこと。私がしょーちゃんに信用されてなかったことへの八つ当たり。
「余計な心配かけると……思ったから」
「黙ってられる方が不安なの! 守秘義務あったなら仕方ないけど! お茶子ちゃんが知ってたってことは私に教えてくれてもいいでしょ!?」
「まあな」
「もうしょーちゃんなんか嫌い。大っ嫌い! しょーちゃんなんか勝手に私を置いてヒーローになって勝手に死んじゃえばいいんだ」
「春次さん」
その言葉で私が失言したのがはっきり分かった。死んじゃえばいいなんて。実際死にかけた人の前でいうものじゃない。感情のままで動く私はいつまでたっても愚かでわがままな子供だ。今だってきっと、皆を傷付けた。
「あ……えとその、春次さんの気持ちもわかるけどさっきのは言いすぎだよ。轟くんだって君のことを思ってした行動なんだ。それを付き合ってる人に非難されると――」
「え?」
「辛い――え?」
今何か、すごい言葉が聞こえたけど、聞き間違いかな?
「ごめん緑谷くん、もっかい言って貰っていい?」
「付き合ってる相手」
「誰と誰のこと?」
「轟くんと春次さんじゃ?」
「え」
衝撃的すぎる。びっくりしてしょーちゃんを見ると、しょーちゃんもびっくりして私の方を見ていた。ここで私は事件よりインパクトのあるすれ違いの事実を知ることになる。
「私たち付き合ってたの?」
「付き合ってなかったのか?」