しょーちゃんと私はお互いを見つめ合った。決定的にずれていることがわかったので話し合いが必要だった。けれどもこれはかなりプライベートなことで、いくら信用できる人だといっても話を聞かれるのは恥ずかしい。

「しょーちゃん、あの、怪我酷くなかったらちょっと場所移さない……?」
「俺もそう思ってた」

 包帯を巻いていない方の腕をギュッと握って支えになるつもりでいると「歩けないほどじゃないぞ」とのこと。それでも心配だから離さなかった。病室を出て、廊下の箸の方に置かれているソファーに並んで座る。さて何から話をすればいいんだろう?

「あの」
「なあ」
「しょーちゃんからどうぞ」
「来夏から言え」

 言うタイミングも、内容も被ってしまった。そんな些細なことが嬉しくてつい微笑んでしまう。しょーちゃんとだったらこんな些細なことでも嬉しいの。

「えっと、じゃあお言葉に甘えて……私としょーちゃんが付き合ってるってどういうこと?」
「体育祭のあれ、告白されたと思った。んでゴールした時のが返事だと思ってた」
「そうだったんだ……」
「来夏はそんなつもりじゃなかったのに、俺だけ舞い上がったみたいでわりィ。緑谷たちの誤解はちゃんと解いとくから」
「違うよ!」

 違う、違うよ。私はしょーちゃんにそんなこと言って欲しくないしそんな顔して欲しくもない。しょーちゃんにはいつだって笑ってて欲しい。それが私の昔からの願いだ。

「付き合ってるって言われたことが嫌だったんじゃないの。私、自分がずっとしょーちゃんに釣り合ってないと思ってたからびっくりして」
「俺のほうが来夏に相応しくない」
「そんなことないもん! しょーちゃんは個性も凄いし私がどんなに努力しても勉強すら追いつけないし、女の子からモテてたからいつほかの子に盗られちゃうかずっと不安だったんだよ?」
「それって俺のこと好きってっことか?」
「すっっっっっ!?!?!?」
「違うのか……」

 もししょーちゃんが犬だったら耳がペタンと垂れていることが容易に想像できるくらいしょーちゃんはしょんぼりしていた。可愛いなって思うのと同時にしょーちゃんにそんな思いを抱かせた自分が嫌だった。

「違わないよ! 私ずっと前からしょーちゃんのことが好きだったんだよ!!」
「俺もだ」
「ちょ、ん……」

 片腕で器用に抱き寄せて、しょーちゃんは私の唇を奪う。個性のせいか夏でも冷たい肌なはずなのに、今はどっちも同じくらい暖かかった。こんなこと簡単にするくせに、しょーちゃんも照れてるんだって思うとなんだか愛おしかった。

「いじわる」
「来夏が可愛いのが悪い」
「かわっ」
「そういうとこ」

 今度はおでこに軽く触れるだけのキス。鏡で見なくてもわかるくらい今の私の顔は真っ赤だろう。意地悪なしょーちゃんに意地悪を返したくて腕でぐっと距離をとったらわかりやすく眉をひそめられてしまった。そんな顔してもほだされないんだから!!

「今日のしょーちゃんはいじわるなのでダメです」
「来夏が悪いんだろ」
「なんで?」
「付き合ってないって言ったから」
「だっ……て、あれははっきり言われてないし」
「言わなくても分かると思ってた」
「言わなきゃわかんないよ」
「……鈍い来夏が言わなくてもわかるように態度で示してるとこだ」
「うう」

 今日のしょーちゃんは甘えただ。私の肩へ頭を乗せて包帯を巻いてないほうの手で指先を弄ってくる。あれかな、恋人になると急に態度が変わるタイプだったのかな。それともやっとお母さんとも和解できて背負っていた重荷を捨てることができたから、今まで甘えられなかった分を私にぶつけてきているのかな。

(どっちでもいい)

 そう、私はどっちでもいい。しょーちゃんが幸せであれば、それでいいのだ。何が面白いのか私の手の甲を指でなぞりはじめたしょーちゃんに対抗して、さらさらの髪の毛の感触を楽しんでいると、ふと重大なことを思い出した。

「大変しょーちゃん!」
「なんだ?」
「帰りの電車代考えてなかった!!!」

 しょーちゃんが盛大にため息をつきながら肩から滑り落ちた。ごめんってば。


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