お昼休み。隣にしょーちゃん、向かいは空席。同じテーブルには飯田くん、緑谷くん、透ちゃん、梅雨ちゃん、お茶子ちゃん。透ちゃんとはあんまり一緒に食べたことないからすっごく嬉しい!
 そして皆の話題は引き続きテストの話。なんでも座学だけでなく実技もあるみたいだ。普通テストって「めんどくさい」「だるい」って言い合って終わるのに対策とか考えているあたりレベルが違う……。会話に加われない私は皆の邪魔にならないようにしょーちゃんに話しかける。

「今週は百ちゃんのところ行くけど、来週はしょーちゃんとおばさんのところ行くからね!」
「おう」
「でもさっきは珍しいものが見れた! しょーちゃんも実は一緒に勉強会したかったんでしょ? 素直にそういえばいいのに。百ちゃんいい子だから絶対断らないよ」
「……あまり大人数で言ってもあっちに迷惑だろ」
「あ、確かにね」

 こういう気遣い出来るところが大人っぽいんだよなあ。私はまだまだそういうところが足りない。将来おじさんのところで働かせてもらうかも知れないし、そういうところしっかりしなきゃ……!!



「ということで〜テスト終わりです! やっと勉強から解放される!」
「よかったな」
「しょーちゃんは実技通ったんだよね。おめでとう」
「ありがとな」
「おばさんのお見舞い一週間ぶりだなあ」
「先週さみしがってたぞ」
「それは申し訳ないことした……お詫びにプリン買っていこ! 高いやつ」

 解放感からちょっとテンションが高くなっていることは否めない。でも理由はそれだけじゃなくて、しょーちゃんとこうして並んで歩けることにもある。ほぼ毎週出かけておいて何を言ってるんだって感じなんだけど、私はしょーちゃんといられるだけで嬉しいんだ。特別なことはなくてもいい。しょーちゃんとの日常が過ごせるだけで幸せだ。もうすっかり通い慣れてしまった病室へ、声をかけてはいる。

「いらっしゃ……あら来夏ちゃん」
「おばさん! こんにちは。先週来れなくてごめんなさい」
「いいのよ。こちらこそ毎週来てもらって申し訳ないわ。焦凍とも仲良くしてもらってるみたいだし」
「しょーちゃんとは今も昔も仲良しですよっ」
「まあな」

 横からギュッとしょーちゃんに抱きつけば、おばさんが優しく笑った。おばさんの笑った顔はしょーちゃんの笑った顔と似ている。だから私はおばさんに笑ってもらうと嬉しくなるんだ。

「来夏ちゃんさえよければ焦凍のお嫁さんに来て欲しいわ」
「いいなそれ」
「えっ」
「嫌か?」
「嫌じゃないけど!!」
「なら決まりだな」

 あらまあ、とおばさんが言う。突然の展開に真っ赤になって私は黙り込んでしまう。「そういえば、お母さん」としょーちゃんがおばさんに話しかける。私はそれを黙って聞いている。三人でお話することも多いんだけど、ちょっとずつしょーちゃんとおばさんは会話をしている。離れていた数年間を埋めるように、会話の上手くないしょーちゃんが懸命に言葉を紡ぐ。ずっと一緒にいる私たちだけれどやっぱり授業のことは知らなくて。私の知らないしょーちゃんがいるのは少しさみしいけれど、これが大人になるってことなのかなと思う。あとしょーちゃんは緑谷くんの話が多いから緑谷くんについて一方的に知ってしまう罪悪感もあるんだけど、どうしたらいいんだ。

「それじゃ、お邪魔しました」
「また来る」

 病室をあとして。普段なら私たちはどこに行くか相談するところなんだけど、今日は行き先が決まっていた。

「木椰区ショッピングモールに行こう」
「?」
「聞いたよ。A組皆で合宿のお買い物に行くのに断っちゃったんでしょ。おばさんも大事だけど友達も大事にしなきゃダメだよ。あとから合流するって連絡してるからいこいこ〜」
「来夏」
「なぁに?」
「お前、本当にお節介だな!」

 今までとは違う笑みだった。大きく口を開けて、顔をクシャクシャにして、声を出して笑うしょーちゃん。私が見たかった笑顔はこれだ。五歳のあの事件以降、無くなってしまったしょーちゃんの笑顔だった。

「あ……」

 思わず指でフレームを作って個性を使う。撮れた。たった一枚しかないしょーちゃんの笑顔の写真。

「来夏、今お前、個性」
「しょ、しょーちゃ……っ!」

 しょーちゃんの笑顔を私は忘れてしまいそうだった。もう一度笑って欲しくて、その笑顔を永遠にしてしまいたくて、だから私はこの個性を発現したのだと思う。私の脳内に厳重に保管された笑顔の写真。凍りついてしまったあの時間が、ようやく動き始めているのだった。

「今の、最っ高の笑顔だったよ……!」

 これを、おばさんとおじさんに見せてあげよう。お節介だと言われるだろうか。呆れられるだろうか。それでもいい。幼い頃夢見たヒーローになれなくたって、この個性がひとつの家族を幸せにするのならば。
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