※コミック未収録ネタあり。たぶん11巻に収録されるもの。元から考えていたネタ+先日フォロワーさんからいただいた看病ネタを混ぜたものです
え〜、突然ですが、今回の語り手は上鳴電気が務めさせて頂きます。
夏休みの最中、例の事件を終えて、俺たち雄英の生徒たちは寮生活をすることになった。ヒーロー科の面々は林間合宿の続きがあるため、他の科より一足早く寮に移っている。聞くところによるとサポート科ももう移っているようだが、優先順位の関係で普通科の移動が一番遅いらしい。経緯はちょっとアレだが年頃の男女が一つ屋根の下で暮らせるのはなかなかいいものである。入寮初日のお部屋公開ツアーで雄英の規則が存外緩いことも知ったし(これは高偏差値ゆえの特権、頭がいい奴らはそんな下らないことをしないだろうという信頼だ)、これはもしかしたらもしかするかもしれない。それにうちのクラスきってのイケメンはもう彼女持ちでクラスの女子もその彼女と仲良くて応援している関係なのだ、敵ではない。他に顔がいいメンバーと言えば爆豪だが、あいつは性格がクソ下水煮込みなのでない。性格面ではクラス全体のレベルが高く、特に緑谷や切島が女受けするタイプの優しさだが切島は「彼氏にして欲しくない部屋」とか評されていたし問題ないだろう。緑谷はちょっといい感じの奴いるし……羨ましくねーし……。まあそういう面子を抜くと、俺って顔かなり女受けするんじゃね? 中学ではそこそこモテてたしいけるんじゃね?
「上鳴くん、手が止まっているぞ!」
「あ、ああ」
「分からないのなら僕が――うむ、時間がかかるな。そこにいる轟くんに教えてもらってくれ」
まだ夏休みの最中である。だけど必殺技の関係でもう学校には通っている。いろいろ問題があったとはいえ俺たちは学生だ。ヒーローを目指していても学生の本文は勉強だ。課題がある。なしにはしてくれない。クソが付くほど真面目な飯田が同じクラスで、そして成績のいい奴が総じて面倒見がよくてよかったのかもしれない。だって飯田が「宿題は終わったか?」と聞いてくれなかったら俺絶対最終日まで思いださなかったもん。有志だが、夕食後の食堂で勉強会もとい、宿題を終わらせる会が開かれているのだった。
飯田に言われた通りわからないし、轟に聞こう。緑谷は麗日に、八百万は芦戸、爆豪はまさかの切島にたいしてマンツーマン指導なので手が空いている秀才は彼しかいないのだった。当然のように宿題は終わっているらしく、頬杖をついてどこか遠くを見ている様は、男の俺から見ても格好良かった。
「轟わり、ちょっとここ教えてくんね?」
「いいぞ――ああ、来夏、お前まだ二次関数苦手なんだ、な……」
「……」
「……」
「今のは聞かなかったことにしてくれ」
「お、おう」
ボーっとしてるのは彼女のことを考えていたからかこのリア充め!!!
そう言えばこいつの部屋に行ったとき、和室に改築したことにばかり気を取られていたが、一つ余分に座卓があったことを俺は忘れていない。「なんで机二個もあるんだ?」と聞いた俺に「来夏の分」と返されたことは記憶に新しい。自宅も和室で毎日彼女連れ込んでたんだとよ。俺も彼女欲しいなあ。やたら女受けしそうないい声に解説されて、俺は数学のテキストと戦っているのだった。
珍しいことに、日中から轟が談話室で寝こけていた。こういうプライベートを晒すことに抵抗がありそうな奴なのに珍しいなあ、と優しく見ていたら轟が寝言で「来夏……」と彼女の名前を呟いた。幼馴染で小さい頃からべったりと聞いていたから急に離れて不安になっているのかもしれない。あんなこともあったばかりだしなあ、と俺はスマホで来夏ちゃんに連絡を入れた。そうしていると上階から麗日が降りてきて、寝ている轟の顔の撮影を始めた。おいおい、それはちょっとマズいだろと思ったがどうせ来夏ちゃんに送る分だと予想されるのでスルーする。そうこうしている内に他の女子も似たような行動をとり始めた。……羨ましくは、ない。
「しょーちゃんが
「いやどういう状況だよ!!」
伝言ゲーム並みに間違って伝わってるじゃねえか! 伝えるのへたくそか!!
「えっ違うの? それならよかったけど……しょーちゃんこんな時間に寝ちゃだめだよ。起きて〜」
「ん……来夏……?」
「そうだよ来夏だよ。ほらしょーちゃんおき、きゃっ」
悲鳴があがり、何かと思えば寝ぼけた(?)轟が来夏ちゃんの腰のあたりに抱き着き、子猫のように顔をぐりぐりして甘えていた。うらやまけしからん。付き合ってるからって、寝ぼけてるからって、人前でやっていいことと悪いことがあるんだぞ!!
来夏ちゃんは一瞬で顔を真っ赤にして照れていたが、すぐに冷静な顔つきに戻り「上鳴くんビニール袋ある?」と問うてきた。何に使うのかわからないまま台所から拝借して渡すとお礼が返ってくる。
「しょーちゃん、しょーちゃん、私今暑いの。しょーちゃんの氷でひんやりしたいなあ」
「いいぞ」
「ありがと、しょーちゃん」
そう言って轟が俺の渡した袋の中に個性を使って氷を出すと、普段とは違い溶けていた。溶けて氷水になっていた。
「やっぱり、しょーちゃんこれ熱があるよ!」
「なんだよその判断基準!?」
「これ? 便利だよ〜そのまま冷却にも使えるし」
そう言った来夏ちゃんは轟の額に先ほど彼自身が出した氷水を載せた。誰かまでは判断できなかったが「地球にやさしいエコショート」とか「エコろぎ」とか呟いたやつ絶対に許さん。危うく噴き出すところだった。
体調不良、と聞いて慌てて何人かが駆け寄る。飯田とか障子とか、がたいのいい奴らが轟を部屋まで運ぶ手伝いをしようというのだった。個性的には緑谷がいいと思うけど体格的にな。女子の方はと言えばスポドリやら食材の確認を始めていた。俺は本格的に役立たずである。
「あ、飯田くんとかええよ。運ぶのは私がやるから」
「しかし女子に任せるというのは……」
「個性を使えば、ほらっ」
「なるほど……!」
なるほどじゃねーよ仲良いなら止めてやれよ。それ男としてのプライドボロボロだぞ。無重力状態にされた轟が麗日に逆お姫様抱っこされて運ばれていく。砂藤からアップルパイ用だというリンゴを貰っている来夏ちゃんに、彼氏に他の女の子が触って大丈夫かと聞こうとしたのだが。
「なあ、お粥じゃなくていいのか?」
「しょーちゃんが風邪ひいたときはウサギさんリンゴとすりおろしりんごが定番だったから、そっちがいいかなあって」
長い時間と強い信頼に結ばれたこの二人には無粋だったと思ってやめた。俺も彼女欲しいなあ。