ラッキースケベは男の浪漫である。
え? 最低だって? でも聞いてくれよ、女の子だって男子にさりげなく荷物持ってもらいたいとかそういうのあるだろ、あれと同じ感じなんだよ。一度くらい合法的にやりてぇなって思うわけ。さて、なんで俺――上鳴電気がこんな話をしたのでしょうか。答え。轟がまた一人だけ美味しい目に合ってるからです。
「しょ、しょーちゃぁん!!」
普通科はヒーロー科をなぜか遠巻きにする。けれど一人だけ「辞書貸して〜」「ご飯食べよ〜」と入ってくる女の子、来夏ちゃん。彼女が幼馴染の名前を呼びながら駆け込んでくるのはいつものことだったが、駆け込んでから訴える内容がろくでもなかった。
「正当防衛で相手を落とす方法ってなに!?」
「いきなりなんだ」
「えっとね〜私に個性かけた子が覚えたほうがいいよって」
「個性? かけた?」
「あっ、悪気があったわけじゃなくて事故で、長くても三日とかその辺で効果切れるから大丈夫だよ」
「最初から」
「ん?」
「要領よく最初から」
慌ててるのか要領を得ない彼女の話に、話を聞いてしまった面子は興味を惹かれて仕方ない。かくいう俺もその一人で。轟の話にナイスだと思ったのは言うまでもない。
「ついさっきの出来事なんだけど、廊下で女の子とぶつかっちゃってね……」
来夏ちゃんの話をまとめるとこうだ。接触事故を起こした普通科の女の子の個性がラッキースケベというよくある奴で、女の子ならラッキースケベをされる側に、男の子ならする側になってしまうというものらしい。持続期間は最長一週間。だけど今回は誤爆しただけだから長くても三日で解けるだろうとのこと。短ければ一日。セクハラ被害を受けることになってしまうからできるだけ女同士で行動すること、やむを得ず男と行動する場合は容赦なく命を狙えとの助言を貰ったらしい。そうしてさきほどのセリフに繋がるわけである。
「理由は分かったけどなんで俺なんだ?」
「ヒーロー科は授業で戦闘訓練してるからそういうの詳しいかなって」
「やってるはやってるが……」
「個性使用ありきですからあまり参考になりませんわねえ」
「本気でやったら相手が死ぬからな」
「そっかあ……」
見るからにしゅんとする来夏ちゃん。轟に駆け寄ってくるのも子犬が飼い主を見てしっぽ振りながら駆け寄ってくる感じでなんか可愛んだよな。庇護欲をそそるっていうか。
「ところでラッキースケベってなんだ?」
「え? えーっとね」
まじかよ轟。それ聞いちゃうのかよ女の子に! なんて思っていたら突風が吹き、窓側を背に立っていた来夏ちゃんのスカートがめくれた。誓って言うが俺は見ていない。幸か不幸か、見たのは傍に集まっていた八百万や麗日、それと轟くらいだろう。他の男子は女子が壁になって見えなかったはずだ。
「きゃああああああ!!!!!!!」
「……わりぃ」
うん、そうだよな。いくら付き合ってるとはいえ下着を見られるのはつらいよな。真っ赤な顔で涙目になった来夏ちゃんを八百万が教室から連れ去っていく。たぶん下にはくやつ作ってあげるんだろうなと察してしまった。急激に女子が減った教室で、俺は轟に声をかける。
「わかったか?」
「何がだ?」
「ラッキースケベの意味」
「……なんとなく」
「彼氏なんだろ、守ってやれよ」
「おう」
返事がいいよなあ。これセリフだけ見たらどっかの少女漫画だよな。こいつ無駄に顔が整ってるからこういうのが様になる。妬ましい。と、一日目はかなり楽だった。
次の日である。午前中、クラスが違うのでどんな事件を巻き起こしたのかはわからないがその日はやたら保健室の利用者が多かったと、あとで職員室で知った。「しょーちゃぁん……」と昼休みに涙目でヒーロー科に駆け込んできた来夏ちゃんを女子が囲み、轟と連れ立って食堂へ行っていた。正直気になっているのでクラスの半分くらいが付いていったのだが。
「今日ね……やたら顔にジュースかけられたんだ……べとべとする」
「それはどういう飲み物、なの?」
「乳白色」
「あああああああ」
えらく男性向けだな。少女漫画の、きらきらっていうかドキドキッていうかピュアな奴じゃなくて昨日のあれと言い俗物的だ。まあでも好きでもない男と密着するシチュエーションもそれはそれで可哀想だからこっちのほうがいいのか……? なんて俺が考えていると、彼女の後ろを通ろうとした生徒が盛大にバランスを崩して、来夏ちゃんの頭に水がぶちまけられた。
「つめたい……」
「ああっ、ごめんなさい! 怪我はないですか?」
「ううん、個性のせいなの。こっちこそごめんね」
平謝りする生徒を許してあげるところが優しい。というかぶっかけた生徒さんも悪くないもんな。明らかに不自然な転び方だったし。「来夏、大丈夫かこれ使え」と紳士にハンカチを差し出した轟の動きが止まった。視線が一点にくぎ付けになった後、慌てて目を逸らす。遠くのほんのり赤くなった轟を見て察してしまった。伊達にジャンプ端から端まで読んでるわけじゃないぜ。白シャツが水に濡れた時に起きるラッキースケベなんて一つに決まっている。透けるアレ。健全な男子高校生に大ダメージな奴。
すっとまた女子が来夏ちゃんを隠しながら席を立つ。保健室で予備の制服を借りるのか、また八百万が個性で創るのかはわからなかったが、元の姿で戻ってくるだろう。
「ううう、ほんとごめんね……迷惑かけて」
「いいえそんな、迷惑だなんて!」
「困ったときはお互い様やし、な!」
食堂から教室へ戻っている最中、中庭を通ったのが悪かったのかもしれない。花に水やりをしていたホースが大暴走し、再び来夏ちゃんだけがびしょ濡れになった。俺は今までの知識から推測した結論を述べる。
「わかった。透ける素材の服着てる限り濡れる」
「そんなこと言われても今日体育ないから体操服持ってないよ?」
「俺のならあるぞ」
「えっ、いいの、しょーちゃん! 貸して貸して〜」
身長が同じでも男女差は大きい。加えて轟は高身長だ。彼シャツ(?)が萌え袖になるという奇跡の体験をこのイケメンは体験していた。クソかよ。だぼだぼ可愛すぎかよ。「ありがとしょーちゃん!」とぴょんぴょん飛び跳ねて元気よく感謝の意を表した来夏ちゃんが机の脚に自分の足を引っかけて転んだ。嘘だろって思った。透けるの防止したら次はこれとかラッキースケベの個性どれだけ強力なんだよやめてやれよ来夏ちゃんのHPはもうゼロよ!!!!
「来夏!」
さすがそこはイケメンの個性なので慌てて彼女を庇おうとするも、ラッキースケベの個性にはかなわない。支えきれず、轟を下敷きにして二人は倒れこんだ。
「お、おい大丈夫かっ!」
「来夏ちゃんっ」
二人を助け起こそうとして近寄ったクラスメイトが見たもの。それは。
「事故チュー……」
「なんでいきなり爆豪の悪口言ってんだ?」
このフラグクラッシャーめ!! その反応はちげぇだろ!!!!
「テメェこそいきなりdisってんじゃねーぞ! 死にてぇのか、あ゛?」
「だって自己中って」
「二語だ! 事故とチューだ! 一語じゃねえ!!」
「おお……」
スカした面で地雷原を駆け抜けるのはおやめくださいお客様〜〜〜〜!!!!! 切島が! 切島めっちゃ頑張ってるからこれお以上爆ギレさせたらもう抑えきれねえから! な! 天然の煽りはやめような!?
ちなみに公衆の面前でキスをしてしまった挙句大声で事故チューを叫ばれてしまった来夏ちゃんは、真っ赤な顔で「死にたい……」と呟いていた。あとこれが一日もあるんだよなあ。
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