「うん、じゃあ明日の放課後そっちに行くね、っと」
お茶子ちゃんへSNSの返信をして、私はベッドの上でじたばたした。しょーちゃんのお弁当を届けに行った日からヒーロー科の子達と仲良くなって、毎日こうやってやり取りをしているんだけど、とうとう明日は皆で放課後遊んで帰る約束をしたのだ。ヒーロー科は普通科よりやることが多く、平日七時間も授業があるのだけど、その忙しい中時間を作って私と遊んでくれるなんてなんて優しい人たちなんだろう。学校ではあまり話せないから、本当に楽しみだ。
「これも、しょーちゃんのおかげだね」
私もしょーちゃんも、狭い世界で生きてきた。しょーちゃんは毎日毎日厳しい練習をしていて、同じ年頃の子と遊ぶことはなかった。そんなしょーちゃんを、つい、目で追ってしまって。私が用事がないときは何かと家に押しかけて構ってもらっていたのだった。
「またね、来夏!」
「うん、部活頑張ってね〜」
友達と別れてから、ヒーロー科の授業が終わるまで予習とか宿題をやっていた。一度校内に侵入者(マスコミだったらしいんだけど、念の為に)がでたことがきっかけで、私は帰りもしょーちゃんに送ってもらうことになったのだ。普段は図書室で勉強しているんだけど、図書室からヒーロー科は遠いので今日は特別。チャイムが鳴る頃に1-Aの前で待っていないといけないもん。
邪魔にならないように少し離れたところに立つ。ガタガタと音がして、そろそろかなぁとワクワクしながら覗き込む、と。
「あ゛?」
「あっ……」
この間扉で絡まれた人がでてきた。相変わらず威圧感がすごい。ちょっと泣きそうになったけど、今日は邪魔してないし絡まれることもないだろう。私に目もくれることなく、彼は教室から出ていった。
「来夏どうした。そこで待ってるなんて珍しいな」
「しょーちゃん! 今日はね……」
「来夏ちゃーん! 来てくれたんだねっ」
「待たせてごめんね〜」
「お茶子ちゃん、三奈ちゃん。ううん、全然待ってないよ」
「え」
きゃー! と抱きしめあった私たちを見てしょーちゃんが固まる。再会を喜んでいる間も視線を感じて、私はしょーちゃんへ言葉を紡ぐ。
「あのね、しょーちゃん、言うの忘れちゃったんだけど、今日は皆と遊んで帰るの。だから、今日は送って貰わなくていいよ!」
「でも、おばさんに」
「お母さんも怒らないから大丈夫」
「えっ何? 来夏ちゃん轟と帰るのも一緒なの?」
「確か朝も一緒じゃなかった?」
「うん、土曜日以外は行きも帰りも一緒だよ〜」
土曜日は半日だから、部活がなかったらクラスの子と遊んで帰ることが多いんだよね。ヒーロー科は土曜日もみっちり授業があって凄いなあって感心してる。遊びたいと思わないんだろうか。夢のために、そんなことも思う暇がないんだろうか。将来について何も思い描いていることのない私は、少しだけみんなが羨ましかった。
「やばいそれもう彼氏じゃん! 付き合ってるの?」
「気になる〜その話はご飯食べながらきっちり聞かせてもらうからね」
しょーちゃんが目の前にいるというのに、しょーちゃんの話をする。本人のいる前では恥ずかしくって、私は明確な答えを返さなかった。代わりにしょーちゃんに向けて誤魔化すように謝った。
「本当にごめんね。また今度埋め合わせするから」
「ああ」
「あっ何女子来夏ちゃんと遊ぶの? 俺も入れて〜」
「だぁめ。今日はガールズトークするの」
「ケチ」
「上鳴くん、また今度時間があるときに遊ぼうよ」
「マジで!? いつでも予定空けてっから!」
「あんたの場合、予定がないだけでしょ」
「間違いないな」
「ひでえ!」
上鳴くんが絡んできて、たぶん彼の仲のいい友達も近寄ってきて、大盛り上がりだ。そんな私たちの様子を、しょーちゃんは黙って見ていた。しょーちゃんのオッドアイは、迷子の子供みたいに不安そうだった。