それから体育祭まで、私としょーちゃんはあんまり話さなかった。行きこそ一緒だけれど、学校でトレーニングしているのか帰りは会わない。普通科でヒーロー科への転科を狙っているならともかく、そうでないなら基本的に意味のないものなのである。体育祭はヒーロー志望の人が夢を叶える足がかりにするもの。だから私は、

(頑張らなくていい、はずなのになあ)

 なんで筋トレや走り込みを始めてるんだろうか。今までろくに体を作ってこなかった私がたかだか二週間頑張ったところでたかがしれている。私の個性がヒーロー向きでもないのも知っている。それでも私はやろうとしているのが不思議だった。

 もしかしたら仲良くなったA組の皆に影響されているのかもしれない。鳴らないスマホを見つめる時間はしんどいだけだった。マメに返事をくれる上鳴くんも最近めっきりだし。同い年なのに、未来を見据えてまっすぐ歩んでいる人は多いのだ。

(変わりたくない)

 それは確かだ。しょーちゃんとずっと一緒に、昔のまま仲良くしていたい。あの日、彼がなくしてしまった笑顔を、忘れたくなくて、取り戻したい。そのためには変わっちゃ駄目だ。昔のまましょーちゃんが安心できる居場所でいなくちゃダメなのに、なんで私はこんなことをしてるんだろう?



「せんせー 俺が一位になる」

 扉で絡んできた人――爆豪勝己だと先ほど知った――がとんでもない宣誓をする。周りのみんなからは大ブーイングだったけれど、私は衝撃を受けていた。傲岸不遜で自信満々。確かに反感は買うだろう。だけど、その態度は誰かに影響を与えるのだ。誰にも屈しないだろう姿を見て憧れを抱かせるのだ。私がそうだった。とんでもなくよくできる幼馴染がそばにいたせいで、その幼馴染が自分が優れているために苦しんでいるせいで、諦めてきた。努力もしなかった。

(頑張り、たい)

 たとえそれが自己満足でも。私が変わるきっかけになれば。昔に縋り付かなくてもしょーちゃんの傍にいることができるかも知れない。

 障害物競走の時、私はできるだけしょーちゃんの近くに行こうと必死だった。ポジション取りも考えずに、私はしょーちゃんに近付こうとだけしていたのが良かったみたいだ。ずっとしょーちゃんだけを見ていたから、それが来ると分かった。加速したまま大きく飛び跳ねる。滞空時間はそんなになかったけれど、しょーちゃんは個性を使うのが上手いから素早く私の下の地面が固まる。何人か足止めされた中を掻い潜って走り出す。

(走り込み、しておいてよかった……!)

 と、安心したのも束の間。巨大ロボットに足を阻まれる。しょーちゃんは軽々とそれをクリアする。ああ、また、背が遠ざかった。
 私は戦闘力は全くない。撃破するのは不可能だけれど、見た感じロボットの動きは遅い。上手に死角をついていけば、突破できるのではないか。やっと個性の出番だ。鷹の目でロボットの位置を俯瞰し、ルートを考える。皆が動いていないからロボットも動いていない。

(いける!)

 小物ロボットは蹴飛ばし、かわし、ひたすら走った。その先は命懸けの綱渡り。地雷原を疾走。戦闘力が問われなくてよかった。しょーちゃんの背中を追いかけるだけで良かった。息も絶え絶え、汗でみっともなくなっても、私はひたすら見えない背中を追いかけて。そして。

 予選は通過できなかった。しょーちゃんの背中には手が届かなかった。
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