「しょーちゃん!」
「おお。来夏」
「あのねあのね、私さっきの見てたよ! しょーちゃん次に進むんだよねっ! おめでとう」
「ありがとな」
「えへへ〜」

 しまった、言いたいことがあったはずなのにさっきがめっちゃ重たい空気だったから振り払うために明るい演技をしてしまった!!!! タイミングを逃してしまった感じが尋常ではないが、ありがとなと言われた時にしょーちゃんが頭を撫でてくれたのでそれで頭がいっぱいになってしまった。

「……? 来夏顔が赤いぞ。暑いのか」
「こっ、子供扱いしないでよ! 私としょーちゃんは同い年だもん!」
「怒ってたのか」
「怒ってないもん」

 しょーちゃんが鈍くてよかったと思う。本気で。さっき友達にも言ったんだけど、しょーちゃんはかっこいいから中学から――いや、小学生のときから結構モテている。女の子からそれなりのアプローチだってされている。だけど、天然入っている鈍い人だから、向こうが立てたフラグをすべてへし折っていたのだった。見ていた私が可哀想に思えるくらい、べきっと。

「あ、そう言えばお昼休憩だよね。ご飯一緒に食べよ」
「構わないが、来夏はクラスのやつと食べねえでいいのか」
「いいよ〜」
「もしかしてまだ友達がいないとかそういう……? だからこっちに頻繁に遊びに来てたのか?」
「違うよ!!」

 友達くらいいるよ、いないのはしょーちゃんの方でしょ。男の子だからそんなものかもしれないけど、上鳴くんたちから誰ともつるんでないって聞いたもん。なんてくだらないことを言い合っていると、食堂で友達とバッタリ会った。言い逃げのような状態で逃げてきたことを思い出してやばい、と血の気が引いた。

「あっ来夏いたいた〜!」
「どこ行ったのかと思えば彼氏のとこか!」
「ご飯一緒とかやっぱ付き合ってんじゃん〜」
「轟くん、だよね。来夏のことよろしくねぇ〜」
「あとで詳しく話してもらうから」
「み、みんな……」

 言うだけ言って嵐のように去ってしまった……。どうするのこの空気。付き合ってないのに付き合ってるとか言われてしまった若い男女二人。これがカップルなら照れちゃうね、とか微笑み合うことが出来るのに、ここに残されているのは表情筋の死滅したしょーちゃんとコミュ障の私だけだよ……?

「俺たちって付き合ってたのか」
「なんかそう見えるみたい」
「? 来夏の認識では付き合ってない?」
「一緒に登下校とか彼氏彼女っぽいことはしてるけどお互い告白してないから付き合ってないんじゃない?」
「そうか」

 そのそうかはどんな意味のそうかなのか私には分かり兼ねる。しょーちゃんのそうかにはすべての意味が付与されているのだから。

「そういや、来夏がこっちに来た時も言われたな。初々しい感じがしたからそうだと思ったって」
「むぐっ」
「どうした。急いで食べるからだ。ほら水」
「ありがとうございますう!」

 しょーちゃんが変なこと言ったのが原因なんだけどな! 妙な空気になるからやめて欲しいんだけれど、と思いつつしょーちゃんから手渡されたコップから水を飲む。

(ん?)

 私のお盆の上には私のコップがある。ということはつまりこれはしょーちゃんのコップである。あとは言わなくても伝わるだろう、そういうことだ。

「……」
「どうした」
「自分のだと思って全部……」
「それくれぇ気にすんな。いるときゃ自分で取りに行く」
「しょーちゃんは優しいね」
「そうか?」

 まったくもって女の子と意識されてないのである。しょーちゃんの中では私はたぶん手のかかる妹みたいなものだ。だから家族愛を持っているし、傍に置いてくれる。それだけなんだ。

「午後はレクリエーションメインなんだって。本戦はラストみたい」
「そうか」
「頑張ってね」
「おう」
「……私ね、自分なりに頑張ったんだけど予選で落ちちゃった」
「……そうか」
「だから」

 だから、なんだと言うんだろう。すごく悔しい? 私の分まで頑張ってね? 違う。自分の気持ちは自分のものだ。誰かに自分の気持ちを押し付けたってそれは自己満足で、満たされることはない。これは私が一人でなんとかしなきゃいけない問題なんだ。

「レクリエーションの方の障害物競走で厄介なものひいちゃったら全部しょーちゃん連れて行ってもいい?」
「構わねえが」
「ありがとしょーちゃん! 氷でスケートしながらトップを目指そうね。妨害もお願いね!」
「他力本願だな」

 何馬鹿なこと言ってるんだ、という感じでしょーちゃんは微笑んだ。しょーちゃんが笑うと私はとても嬉しくなる。だからこの時の私は何も気づいていなかったんだ。
 これが――盛大なフラグであることに。


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