クラス対抗リレー、長縄、障害物競走、玉入れ、個性使用可の部対抗リレー。入学して一ヶ月そこらなので新入生へのアピールとしてはまだギリギリ間に合う。珍しい個性ならばプロの目にも止まったりする。二度目の障害物競走がなければ普通の体育祭だった。そう、だった、のだ。
「ああああ、そろそろ私の出番かぁ」
「障害物だっけ? 予選じゃない方の」
「誰も勝敗なんか気にしてないから気楽にやってきな〜」
「ありがとう〜頑張ってくるね!」
あくまで体育祭。レクリエーションなので最低ひとつ参加しなくてはいけなかったので私は障害物競走にしたのだった。これなら純粋な足の速さを競われるわけではないし、団体種目で和を乱すこともないのでプレッシャーを感じなくても良いと思っての選出だったのだが、準備されているものが炭酸一気飲み、パン食い、飴玉探し、指定されたものを探すなど、絵的にも精神的にもやる方はなかなかしんどいものだった。
選択間違えたなあ、と思った。でも男女交互に走り、女子はパン食いか指定されたものを見つけてくる方だったのでまだ良かったかもしれない。スタートから私の組は快調で、ギミックを物凄い速さでクリアしてぶっちぎりの一位だった。前の走者からバトンを渡され、机まで走って伏せられた紙を引く。どうかまともなものでありますようにと神様に祈ったのだったが、どうやらこの世に神はいなかったみたいだ。
『おっとー!? トップで走ってる春次来夏! ここでまさかのストォップ!!!! とんでもないものを引いちまったか――!?』
ええそうですよ、マイク先生の実況で言われているとおり思春期の女の子にとってとんでもないものをひいてしまいましたよ。どうしよう――と困った顔のまま客席を見やれば、上からしょーちゃんが百ちゃんを連れて駆け下りてくるのが見えた。
『そしてそんなリスナーの元へ走り寄る二人! あれは轟と、八百万だー!』
その最中に目が「任せろ」と言っているように見えたのはきっと見間違いではないだろう。昼食の時に言ったあれを真面目に受け止めたらしい。きっと私が固まった瞬間に厄介なものを引いたと察して手を差し伸べてくれようとしたのだ。クラスも違う私のために個性を使ってくれようとする百ちゃんの気持ちもすごく嬉しい。でも、聞いて? ただでさえなんかトップで目立ってるのに? さっきまで本戦で活躍してたヒーロー科A組高身長美男美女が私のもとに駆けてきてるんだよ? 注目度が尋常じゃない小市民には耐え切れない無理。まじで無理。
「来夏」
「来夏さんっ」
「ふ、二人ともぉ……」
違う意味で涙目なのをパニックのためと受け取ったらしい。「大丈夫ですわ、私がなんでも造って差し上げます。さあお題を見せて!」なんて優しい言葉をかけてくれる。違うの、これは百ちゃんには造れないものなの。
「お題、実はこれで……」
「『好きな人』?」
おお、綺麗にハモった。そして流れるようなアイコンタクト。二人とも絵になるなあ。でも困惑してるのもばっちりわかるなあ。
「こ、これは……」
「えげつないよね!?」
「仲の良い友人ですってことで八百万頼む」
「異性のってことだと思いますわ。万全を期さないと来夏さんが判定負けしてしまうかもしれません。ここは轟さんが!」
「そういうことなら行くぞ」
「えっちょっとしょーちゃん! 百ちゃん!!」
手を強引に引かれる。ちらっと後ろを見れば頑張ってくださいね〜! と百ちゃんが超絶可愛い笑顔で見送ってくれた。しかしその手元には小さなガッツポーズがある。あれ絶対確信犯だ……戦犯だ……!
「来夏、よそ見してねえで真面目に走れ!」
「走ってるよ! でもしょーちゃんと歩幅が違いすぎるから差が出てるんだよ!!」
半分は嘘ではない。事実コンパスが違いすぎるし、男女差もあり足の速さもかなり差がある。そして私がもたついたせいでリードは巻き返されている。なぜか私がレクリエーションに本気だと勘違いしているしょーちゃんはなんとかしないといけないと思ったのだろう。個性を使い氷の道を作り、私を抱き上げてその道を滑走する。はやい。すこぶるはやい。けれども客観的に見ればお姫様抱っこに派手な個性の使用、優しさが完全に裏目に出てしまった瞬間である。
(これゴールでちゃんと持ってこれたかマイクで確認されるんでしょ……とんだ公開処刑だ……)
『おおっとど派手は演出、一位は普通科春次来夏だー!!』
「ひいいいいいい」
『しかし! ここでお題チェック! 正しいものを持ってきてないと大幅減点喰らうから覚悟してくれよ。さて、それではお題は!?』
「これ、です」
『ヒューウ!! 青春の一枚! 好きな人だ〜〜〜〜!!』
そんな大声で言わなくたっていいじゃんかあああああああ。これ絶対後でクラスの皆にからかわれちゃうやつじゃないですか! やだ!!!!
『もしかしても二人はそういう関係かーい!?』
ずいっとマイクが突き出される。私は恥ずかしくって顔も上げられないレベルだったから当然何も言うことができなかった。
ここで敢えて言おう。しょーちゃんは優しい。朝の混雑した電車の中で私をかばってくれたり、怪我をしたら冷やしてくれたり、さりげなく車道側をいつも歩いてくれたり、しょーちゃんは優しい。優しいから、私が減点されたら困るだろうと思って発言しただけに過ぎない。しかしその優しさは完全に裏目に出てしまった。
「来夏より、俺のほうが、好きだ」
『熱烈な愛のセリフだ! お二人さん、お幸せに〜〜〜〜〜〜!!!!!』
雄英体育祭。かつてのオリンピック。その様子は全国放送。全国のお茶の間に私としょーちゃんが付き合ってるって放送されてしまった。それならまだいい。私の両親も見ている。なんならしょーちゃんのお父さんは、この場に、来ている……!!
(これは……人生詰んだ……)
本来ならば体育祭の見せ場は本戦の試合だ。けれども私の体育祭はここがクライマックスだった。