体を鍛えているという緑谷くんから筋トレのメニュー表を貰った。まだ最初のうちだから軽いもので、ある程度経ったらまた新しいものをくれるらしい。そしてお茶子ちゃんからは紙袋いっぱいの少女漫画を渡された。
「な、なにこれ?」
「私のおすすめの少女漫画だよ〜」
「なんで漫画?」
「少女漫画を舐めたらアカンで! これは全国の女子のドキドキが詰まってるんだから。つまり少女漫画で特訓することによっていざ遭遇した時に『あっこれ少女漫画で読んだところだ!』ってなるはず!」
「そんな某通信教育みたいに……」
「も〜心ちゃん! 夢小説のヒロインなんだからいつそんなシチュに遭遇するかわからないんだよ!」
「メタいよ麗日さん!」
なんてやり取りはあったけど、ふたりの気持ちなのでしっかり受け取ってしっかり読破している。なぜか緑谷くんもハマってしまって、三人で感想を語り合って楽しい毎日だ。
「思ったけど本当にこれでええんかな?」
「どしたのお茶子ちゃん」
「いや……心ちゃんの心臓を鍛えるためにやってるけど、これじゃ成果が出てるか全然わからないから」
「ああ、確かに。体力面の方は数値が出るけど、精神的な方はでないからね」
「でしょー!? せっかく心臓鍛えたのにぽっくりはいやだよ」
……それは私も嫌だ。でも、どうすればいいんだろう。恋愛面はどうやって確認すればいいのかな? 何も思いつかないや。
「ということで心ちゃん、恋をしましょう!」
「えっ?」
「ドキドキする男の子見つけてデートしよ!」
「ええっ」
「さあ校内探索だ〜」
ぐいっとお茶子ちゃんに手を引かれて、一年から三年生の教室をすべて見て回ることになった。
「心ちゃんあの子は? 結構かっこいいと思うけど」
「別にドキドキしない」
「じゃああの先輩!」
「ん〜」
「どうしよう、誰もいないね。デクくんは誰か心当たりある?」
「えっ僕? そうだなあ、顔だけなら幼馴染のかっちゃんが……いいと思うけど……」
「爆豪くんか」
「あの人はちょっと怖い、かな」
「だよねえ」
大変失礼な事を言っているのだけれど、爆豪くんはきゅっと目が釣り上がってて、あと言動が過激だから怖いのだ。緑谷くんとは幼馴染らしいけれど、よくきついことを言われているのを見るのでそれで恐怖心を植えつけられている。
「ベタだけど雨の日に濡れそぼる子犬に制服をかけてあげるイベントが発生しないとかっちゃんと心ちゃんは何も起きなさそう」
「デクくん分かってきたね! でも爆豪くんだから想像できないなあ」
「確かにね。って今のシチュエーションなら足を滑らせたところを誰かに助けてもらうとかか、な゛っ!?」
校内の男子を物色するとかいう罰当たりなことをしたから神様が怒ったのかもしれない。少女漫画あるあるシチュエーションを和やかに語らっているとき、私は階段から足を思いっきり滑らしてしまったのだ。緑谷くんが必死に手を伸ばすも距離的に届かない。お茶子ちゃんは目をまん丸にして驚いている。やけにスローモーションな視界で、これが走馬灯か……と死を決意したのだけれど。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です……」
後ろにいた、赤と白二色の髪の超かっこいい人に抱き止めてもらうなんて奇跡が起きて一命を取り留めたのだ。
「怪我がねぇならよかった。次からは気を付けろよ」
「轟くん! あの……」
「緑谷か。久しぶりだな」
私にとっては心臓が止まるかも知れないくらいの重大な出来事なのに、抱きとめてくれた轟くんは何でもないことのように緑谷くんと会話を始めた。
「心ちゃん、大丈夫!?」
「お茶子ちゃん……」
心臓が割れてしまいそうなくらい、うるさい。痛い。もし、これが少女漫画だったら私の胸には矢が深々と刺さっていることだろう。
「どうしたん?」
「私……恋しちゃったかもしれない」
だって、こんなにドキドキしているんだもの。