初デートは刺激的?

 とうとう週末が来てしまった。この日のために事前にお茶子ちゃんとお洋服を買いに行ったのだ。本当は緑谷くんも誘ったのだけれど、「えっ、僕センスないし女の子の服とかよくわかんないし無理だよ……」と言って逃げられてしまったのだ。残念。まあ逃げられてしまったものは仕方ない。「轟くんはいいところのお坊ちゃんだからラフな格好で来ない」と推測したお茶子ちゃんが選んでくれたのはワンピースだった。なるほど上品かつ女の子らしさもアピールできていい選択である。

「篠原。待ったか?」
「ううん、今来たところだから」
「ならよかったけどよ、待たせちまったことは変わらねえから後でなんかお詫びさせてくれ」

 ぎゃーーーーーーーー何この彼氏彼女っぽい会話!!! 無理!!
 私が勝手に緊張して早く起きてしまって早めについただけで、轟くんが遅刻したわけでも何でもない。むしろ集合よりちょっと早い感じである。だというのにこの対応。惚れるなというほうが無理だ。

「そんな、いいよ! 元はといえば助けてもらったお礼なんだし」
「いや、姉さんに女の子には優しくしろって言われてんだ」
「お姉さんいるの?」
「ああ。あと兄貴も二人」
「末っ子なんだ……言われてみればしっくりくるかも」
「はは、なんだそれ」

 箱入り息子というか、大事に育てられすぎて知識が身につかなかった感じなんだけど、それを言うと不快にさせてしまうかもしれないので話題を逸らすことにした。

「最初は映画を見ようと思うんだけど」
「おお。なんかチケットあるって言ってたな」
「うん、そうなの。とりあえず映画館に向かって歩かない?」
「そうだな」

 ここでしれっと車道側に立つのはお姉さんの教育の賜物なんだろうか。心拍数があがってきたのが目に見てわかる。まだ、で、デート……が始まってもないのにこれはまずいよ私! お茶子ちゃんから借りた漫画の中で何回もこんなシチュエーションあったでしょ! これほにゃららゼミで見たところでしょしっかりして私!!!!

「轟くんとは初めてのお出かけで趣味もわからなくて何見るか決めるのすっかり忘れてたんだけど」
「なんでもいい。篠原が好きなものにあわせる」

 あっ、無理。たとえ知識として知っていても目の前に存在する顔面偏差値の暴力がその耐性をすべて突破してくる。

「……どうした?」
「いえ、なんでも。自分の不甲斐なさを反省しているだけだから」
「だから気にするなって言ってるだろ」
「このラインナップ見ても言える?」
「……」

 言っちゃ悪いけどおもしろくなさ……ええっと、B級って感じなのしかなかった。あとは小学生向けのなんか妖怪とか出てくるアニメ。私たちの年代が見て楽しめそうだなって思うのはアイドルが映画に挑戦したやつしかないんだけど、この選択がまずい。恋愛ものだ。年頃の男女が二人で恋愛ものってそれはすなわちデートじゃないですか……無理……ただでさえ轟くんの私服が格好良くて直視できなくて目をそらしまくってるのにこれ以上の恋愛要素を追加されたら比喩ではなく死んでしまう。私が。

「一個まともなのがあるだろ」
「で、でも、男の子が見てつまらなくない?」
「姉さんで慣れてるから。はやくしねえと飲みもん買う時間なくなるぞ」
「う、うんっ」

 そして指定されたシアターで席に着く。普段だったら意識しないのに、二人で出かけているってだけで轟くんを意識してしまう。暗がりなら直視してもドキドキしないかな。そう思ってちらっと彼のほうに視線をやると、

「どうした?」
「ひゃっ」

 何か用があるのかと勘違いした轟くんが顔を近づけてきた。正確には顔、じゃなくて耳なんだろうけど。映画館の中で大きな声が出せないから配慮なんだろうけど硝子の心臓には悪すぎる。ほらまた心拍数が上がった。落ち着け。落ち着け。

「なんだか不思議だなあって思ったの」
「何がだ?」
「ちょっと前まで轟くんと話したこともなかったのに今ここに一緒にいること」

 それの返事は聞けなかった。なぜなら映画が始まってしまったから。最初は映画どころじゃないなあ、なんて思ってたけど、案外面白くて最後のほうには夢中で見ていた私だった。



「あ〜面白かった!」
「だな。途中で吸血鬼とかでてきたときにはどう話をつけるのかと思ったが、案外シナリオしっかりしてたな」
「あれね、びっくりした! でもパンフ見たらちゃんと書いてあった……」
「どこだ?」
「ここ」
「本当だ。でもこれネタバレになんねえのか?」
「割と最初のほうだったしいいんじゃない……?」

 映画を見終わった後はカフェでお茶をしていた。時間は三時過ぎで小腹もすいてくるころだし、何より映画を見たからには感想を言い合いたい。ちなみに、このカフェもお茶子ちゃんが事前に調べて一緒に下見をしたところである。お茶子ちゃん様様である。

「お待たせしました、ミルクティとアイスティです」
「わあ!」

 前来た時も思ったけどここのカフェカップが可愛い。ケーキはもうちょっとしたら来るのかな。店員さんが去っていったほうを見ると。轟くんが呆れたような笑みをしていた。

「待ち遠しそうだな」
「え、だってここのケーキ美味しいんだよ」
「よくくるのか?」
「ううん、前に友達と遊びに来た時に連れて行って貰ってすごく感じ良かったから……」
「篠原はこんな雰囲気が好きなのか。覚えとく」

 ちょっとそれどういう意味なんですか。次もあるって期待してしまいそうになるんだけど、ねえ、轟くん。

「と、轟くんはこういうとこ嫌じゃなかった?」
「別に」
「普段はどんなところに行くの?」
「行かねえ」
「え?」
「なんでか昔から男にも女にも避けられるんだよな。だからこういうとこも何も二人っきりで出かけたのはお前が初めてだ」
「そ、うなんだ……」

 その理由はなんとなく分かってしまった。お父さんが偉い人で家柄が良くて、本人も顔立ちが整っていてクールな雰囲気だからなんとなく近寄りがたいんだ。けして嫌われてるとかじゃなくて、ただ憧れの対象として遠巻きにされているだけ。だけど、きっと轟くんは気づいていないんだろうな。それで辛い思いをしてきたんだろうな。それは勘違いだよって教えてあげたい。だけど、こんな轟くんの一面を秘密にしたいって気持ちもある。

「じゃあ轟くん、初めてのお出かけが私なんかでよかった? 楽しかった?」
「ああ、楽しかった」

 優し気な轟くんの表情。そこから先の記憶はない。たぶん、というか絶対、ドキドキしすぎて、倒れた。

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