放課後ロマンチカ
「篠原さん」
「どうしたの緑谷くん」
「轟くんが篠原さん呼んでる」
「えっっっ」

 ある日の、普通の放課後である。一緒に美術館に行った日から轟くんとはたまに連絡は取っているものの、何も約束はしていなかったので不意に来たことにびっくりしていた。

「どうしたの、轟くん」
「篠原、今日暇か?」
「え、うん。何も用事はないけれど……」
「じゃあ一緒に帰んねえか?」

 まさかの展開に思考回路はショート寸前。視界の端にちらつくお茶子ちゃんが全力で「こっちのことは気にしなくていいよ!!」ってアピールをしていて、それがあまりにも露骨すぎて一周回って冷静になった。ありがとうお茶子ちゃん。

「もちろん! 嬉しいなあ、轟くんに声かけて貰えるなんて。何か用事?」
「いや用事ってほどでもねえんだが」
「うん?」
「く、クラスの奴らが今日ゲーセンに行くって言ってたんだ。新作のシューティングゲームがあるんだっていうのを聞いて気になって……俺、そういう場所行ったことねえんだ」

 それは。それは、私のことを友人だと思ってくれてるんだろうか。クラスの友人同士が放課後に寄り道の約束をしていて、羨ましく思って、真似をしたいと思った時に真っ先に私が思い浮かんだという解釈でよかったんだろうか。だとしたら嬉しすぎる。期待にこたえなくてはって気持ちになる。

「そうなんだ! 私、シューティングはやったことないから足引っ張っちゃうかもだけど、一緒に行けたら嬉しいな。すぐに準備してくるね!」

 大慌てで鞄に荷物を詰めているのを轟くんが待ってくれていた。こういうの、いいなって思う。まるで付き合ってるみたい。

(付き合えるわけないのに)

 なぜ轟くんが私に興味を持ってくれたのかはわからないが、きっかけはともかくとして仲良く出来ているのは、轟くんにとって私が初めての友人だからだ。それ以下でも以上でもない。それに、私だって轟くんに本当に恋してるとは言えない。病気を治すために誰かを好きになろう――そんな不純な動機で相手を探していたのだから。恋に恋していたって胸は高鳴る。その偽物のときめきに対して心臓は強くなる。この恋がたとえ報われなかったとしても困ることなんてきっとない。

「ゲーセン、は、遠いのか」
「たいした距離じゃないよ! 最寄り駅のすぐ近くだから歩いて十分くらいかなぁ」
「誰かと」
「うん?」
「誰かとこうやって歩くのも随分久しぶりな感じがする」

 放課後の、学校に囚われていた少年少女たちが一斉に解放されて、浮かれていて賑やかな空気。まだ挫折を知らない幼い少年少女たちの未来へ向けての明るさが零れていく時間帯。夕方の、日暮れまでのこの時間帯には何かの魔力があるのだと思う。限られた期間しか与えられないから、そこで私達は何かを見つけないといけないから、だから不思議な魔法にかけられて時に勇敢になる。

「明日から、一緒に帰る?」
「いいのか?」

 そんな嬉しそうな顔をしないで。罪悪感に押しつぶされてしまいそうになるから。私は私のエゴのために轟くんを利用しているんだよ。あなたの気持ちを踏み躙ってるんだよ。

「うん、いいよ。だって私たち友達でしょう?」

 私が言ったこの言葉に傷付いたのは、私だけじゃないことに気づかなかったのだ。

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