折寺中学校には王と女王がいる。王と王妃、女王とその旦那ではなくて、王と女王。王様は僕の幼なじみである爆豪勝己。女王様は海神瑞姫さん。一国の頂点の称号を冠する二人がいることからわかるだろう、そう、このふたりはとんでもなく仲が悪い。

 かっちゃんは、男子を中心とした派閥を作っていた。本人は校則違反を犯してはいないもののつるんでいる面子は完全に問題児。態度も大きけりゃ口も柄も目つきも悪い。個性は派手で強い。カリスマ性はある。だもんで誰も逆らえないし、男なら暴力的すぎる嫌いがあるといえ、圧倒的な強さに少なからず惹かれてしまうものだ。

 一方で海神さんの方は模範的な優等生だった。お嬢様めいた口調、品のある佇まい。生徒会長もやっていて、女の子を中心とした派閥のトップだった。もちろんカリスマ性もある。個性は……なんだったかな。そう、水を操ることができてこれまた強い。性格は対照的だけれど、学力、運動神経、個性、カリスマがまったく同レベルの二人が揃ってしまったのだ。しかも片方が自分がなんでも一番でないと気がすまない自尊心の塊のかっちゃんだ。三年間クラスが離れていたからまだよかったが、事あるごとに衝突していた。

 今までは、ただのトップ争いだった。けれども、僕をきっかけにしてふたりの関係は悪化する。


「まあ……それ、どうしましたの」
「海神さん」
「わざわざ拾いに来るくらいですから大切なものなのですよね」
「うん。大切なものなんだ。それをうっかり落としちゃって、だから拾いに来たんだよ」
「嘘ね」

 僕と海神さんは身長が変わらない。至近距離で射すくめられて思わず言葉を失う。かっちゃんに睨まれた時もそうだ。僕は意気地がない。

「ノートが焦げてるわ。大切なものに自分がそんなことするはずもないし、大方、火系統の個性を持った誰かにやられたんでしょう?」
「う……」
「やったのは誰ですか? 生徒会長として見過ごせません」

 ……かっちゃんは確かに嫌な奴だけど、だからといって売るような真似は嫌だった。自分より「上」のものに告げ口をするのがずるみたいで嫌だったのか、かっちゃんの復讐が怖かったのか、女の子に助けてもらうのが情けなかったのかわからない。きっとそれら全てが混ざり合った結果だろう。僕は答えを言うことを躊躇った。

「庇わなくてもいいのに。爆豪くんでしょう?」
「な、んで、知って……」
「申し訳ありません。見ておりました。だというのに止めることができず、自分が不甲斐ないですわ」

 そのお詫びに、と言って海神さんは個性を発動する。ノートに染み込んでいた水分が飛んで爆発で焦げた痕以外元通りになる。「個性」自体が強いのもあるけど、ノートにしみた水を操るなんて細かい芸当、よほど個性を使い慣れていないとなかなかできない。彼女はその年で繊細なコントロールを既に身につけていたのだ。

「すごい……」
「ありがとうございます。緑谷さん、今後なにか困ったことがあればわたくしにすぐおっしゃってくださいね。力になりますわ」

 女王様は慈悲深かった。女王様に「哀れなもの」と認識された僕は彼女が擁護する対象として見られるようになった。そのせいで海神さんは頻繁に僕らの教室の近くにやってくるようになり、そのせいでかっちゃんとのエンカウントが増え、「貴方の素行は目に余ります」と争いが増えていくことになったのだった。

 何が原因だったかよく覚えていないんだけど、優等生の海神さんと内申をやたら気にしているみみっちいかっちゃんが個性を使っての喧嘩に発展したことがある。人気のない冬のプールをなのはさすがとしか言いようがない選択だった。あの日以来かっちゃんは僕に突っかかってこなかったから僕絡みということはないはずだった。けれどももとよりふたりは相性が悪い。

「ハッ ンなの吹っ飛ばしたらァ!」
「そうはさせません」

 プールサイドは水に濡れていて、彼女はそれを操っていた。汚れた水を使わなかったのは海神さんの良心だろうか。少ない水分だとだと、かっちゃんの爆破を阻止するために手を覆ったとしても爆発の際に蒸発させられて終わりだ。どう対応するのかと思えば海神さんは少ない水をかっちゃんの鼻と口にまとわりつかせて呼吸を阻害していた。

「爆破で蒸発させるにしても自身が怪我してしまうでしょう? おいたがすぎる悪い子にはこうするって決めているんですの」

 ヒーローっていうよりはヴィランらしい思考回路である。火系統の個性に水系統の個性はとかく相性が悪い。かっちゃんの敗北は仕方のないことだと思う。だけどこれではっきり分かったことがあった。かっちゃんは、自分を嬲った海神さんを自分が完膚なきまでに叩きのめす日まで許さないだろう。


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